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世界一危険な格闘技に挑んだ“勝てない男たち”に迫る『迷子になった拳』 “弱さ”を克服するための“強さ”とは?

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ライター:#橋本宗洋
世界一危険な格闘技に挑んだ“勝てない男たち”に迫る『迷子になった拳』 “弱さ”を克服するための“強さ”とは?
『迷子になった拳』©映画「迷子になった拳」製作委員会

遠い地の超過激格闘技に挑む日本人選手たち

格闘技を題材にしたドキュメンタリーで『迷子になった拳』とは、実際のところあまり勇ましくないタイトルではある。

しかし本作が描くのはミャンマーの格闘技ラウェイの世界。グローブなし(素手にバンデージで固めるからむしろ固い)、ヒジ打ち、投げさらには頭突きもありという、過激で過酷なルールの闘いだ。

『迷子になった拳』©映画「迷子になった拳」製作委員会

はっきり言ってメジャーではない。映画に登場する選手たちも有名ではない。だが、どんなジャンルであれ有名であれ無名であれ、そこに人がいて行動すればドラマは生まれる。まして過激なルールの格闘技に挑もうという人間には、やはり何かがある。

僕はプロレスだとデスマッチが好きだったり。過激であればいいとは思わないんですけど、怪しげなものだったり人が行き着く先を見たいという願望があるんですよ。

そう語るのは今田哲史監督。過激で、しかしメジャーとは言えず、そこで活躍することが金銭や知名度に直結しない世界で生きる人間を、本作で追ってきた。

『迷子になった拳』©映画「迷子になった拳」製作委員会

映画に登場する金子大輝も渡慶次幸平も、決して有名な格闘家ではない。そもそも有名であればラウェイをやろうとは思わないだろう。2人ともMMA(総合格闘技)で思うように勝てなかった。そこで人生を変えるきっかけを探すように、他の選手がやろうとしないラウェイにのめり込む。

ラウェイをやる日本人選手は、基本的にはいわゆるトップアスリートじゃないですよね。そこに惹かれるというか。K-1の選手とかみんなカッコいいんですけど、僕が撮っても他の監督が撮っても同じかなって考えちゃう。ラウェイの選手を見てると“この人の独自の表情を、俺なら撮れるかも”って思えたんです。まあ僕は撮りたい題材が偏ってる人間なので(笑)。K-1やRIZINのバックステージインタビューも、負けた選手の姿のほうが気になるんですよ。

『迷子になった拳』©映画「迷子になった拳」製作委員会

ファイターとしてロマンを追っても、リングを降りれば別の現実が待っている

金子も渡慶次も、ラウェイのリングに上がったはいいが簡単には勝てない。これまでやってきたこととはルールが違うし文化も違う。その“勝てない”姿を、今田監督は感傷的にならず、といって突き放しすぎずに映し出す。

『迷子になった拳』©映画「迷子になった拳」製作委員会

ファイターとしてロマンを追っても、リングを降りれば別の現実もある。格闘家として生きるためには周囲の支えが不可欠だし、それは身内に迷惑をかけているということでもある。金子も渡慶次も、映画の中で説教をくらう。そのいたたまれなさは、迫力ある試合シーンと同じくらいの見どころになっている。特に金子は自分のさらけ出し方が赤裸々だ。

いろいろ気まずい場面があるんですけど、金子くん「カメラ止めてください」って言わないんですよね。

『迷子になった拳』©映画「迷子になった拳」製作委員会

本作には“格闘技興行の裏側”といった面白さもある。ラウェイが題材だから、それを撮ることができたのだろうと今田監督。曰く「普通に日本の格闘技団体のドキュメンタリーとして撮ってたら公開できなかったかもしれない(笑)」

衝撃的であり切なくもあり、格闘家の弱さを見つめ、だからこそ弱さを克服しようとする強さにも迫ることができる。スターではない選手たちの闘い。やはり、そこにも語るべきものがあるのだ。

『迷子になった拳』©映画「迷子になった拳」製作委員会

文:橋本宗洋

『迷子になった拳』は2021年3月26日(金)よりホワイトシネクイントほか全国順次公開

https://www.youtube.com/watch?time_continue=1&v=mLbMScanPGU&feature=emb_title

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『迷子になった拳』

拳にはバンテージのみを巻き、通常格闘技の禁じ手がほとんど許される「地球上で最も危険な格闘技」と言われるミャンマーの伝統格闘技・ラウェイ。その一方で、最後まで立っていれば“二人の勇者”として讃えられる神聖な「最も美しい格闘技」でもある。

そんなラウェイに挑戦する日本人たちを通して、「人はなぜ闘うのか?」と言う答えの無い問いに挑んだのは『熊笹の遺言』(2004年)の今田哲史監督。 2016年から、ラウェイに挑戦する選手や大会関係者を追う。

そこにいたのは、体操選手の夢敗れた金子大輝や、一度格闘技から離れるも夢を捨てきれず出戻りの渡慶次幸平など、いわゆる“格闘技エリート”の姿はなく“迷子”の人々だった。

ミャンマーラウェイの高い壁に挑む彼らの頬に流れるのは、血か汗か涙か……?

制作年: 2020
監督:
出演: