あなたは『シャークネード』を知っているか?
あのトンデモ系サメ映画の金字塔『シャークネード』(2013年)を手掛けた監督、アンソニー・C・フェランテ。同作の記録的大成功とシリーズ化、そして公開年を境に本格化したトンデモ系サメ映画の一大ムーブメント化に伴い、彼のキャリアは “シャークネード”のイメージですっかり上書きされてしまっているようだ。
が、彼は元々おどろおどろしい雰囲気の低予算ホラー映画製作に長年関わり続けてきた人物で、そのフィルモグラフィー傾向の中ではむしろ“サメ映画”の方がイレギュラー。そして『シャークネード』シリーズ(2013~2018年)が完結した翌年、彼が監督を務めた作品のジャンルは、まさにその低予算ホラー映画の花形であると言えよう“ゾンビ映画”。もっとも、その内容は「無数のゾンビが大津波に乗って海から現れる」というディザスター・ゾンビー・パニックだったが。
というわけで今回は、アンソニー・C・フェランテが送る最新作『ゾンビ津波』を紹介していこう。
まるでシャークネード同窓会! おなじみのキャスト&スタッフ集結
監督は先述のアンソニー・C・フェランテ。主演は『シャークネード』シリーズで主人公フィン・シェパードを演じた、あのアイアン・ジーリング。ちなみに彼は本作の製作と原案を兼任している。そして『シャークネード』シリーズ1~4までの脚本を務めたサンダー・レヴィンが、ジーリングと並んで原案を担当。さらにはシリーズ2~6の音楽に携わったクリストファー・カノとクリス・ライデンハウアが名を連ねているなど、そのスタッフクレジットは少しばかり“シャークネード同窓会”じみた様相を呈している。
とある島の沖合で、友人たちと釣りに興じていた漁師のハンター。が、その日彼らはおかしなことに、魚の代わりに全身が真っ青に染まった謎の死体を釣り上げてしまう。とりあえず船の上に引き上げてみるやいなや、どういうわけだかフジツボまみれの遺体はゾンビとして覚醒。有無を言わさずたちまちハンターたちを襲い始めた。
どうやらこの海の底に眠る沈没船から、なんらかの理由で無数のゾンビが出現しているらしいということを知ったハンター。そして間の悪いことに、そのとき海で大津波が発生。海面を漂う大勢のゾンビを巻き込んで沿岸部に迫る通称“ゾンビ津波”は、そのパワーで近くのビーチに壊滅的な被害をもたらした上、波に押し流されてきたゾンビたちがそのまま陸地で破壊活動を開始。島では二重の脅威による阿鼻叫喚の地獄絵図が展開されることとなる。
頭を攻撃してもなお機能停止に至らぬ屈強なゾンビの群れを相手に、苦戦を強いられるハンターたち。それでも事態の収拾を図って奮闘する一同は、この絶望的な戦いの中で、大事件の裏に隠された沈没船の真実を知る……。
というのが、本作の概要である。
トンデモなタイトルながら大きく外さないオーソドックスなゾンビ映画
率直に言って、良かれ悪しかれ「かなりまとも」なゾンビ映画である。『ゾンビ津波』という一見トンデモ系めいたタイトルの字面はインパクト抜群で、実際作中で押し寄せてくる“ゾンビ津波”のインパクトはなかなかのものだが、その本編はおおむね主人公が陸上でゾンビ相手に立ち回りつつ、生還と事態解決を目指すというオーソドックスな内容。決して何かこう「バンバン大津波がやってきたり、その都度迫り来るゾンビを陽気にバッタバッタとなぎ倒したりする」ような作品ではない。その一方で、ゾンビの出現からパニックの拡大、逃走劇と安全地帯の確保を経て最終決戦という物語の流れはかなり堅実だ。
大津波で沿岸部が壊滅するくだりはクロマキー合成が露わで、見てくれが壊滅的。しかし、逆にその他のシーンはまずまずしっかりした画作りとそこそこの特殊効果で安定しており、映像面は及第点。ゴア表現はほどほどで、事の発端となる全身青ずくめのゾンビたちのビジュアルはチープと捉えられるかもしれないが、個人的には気に入っている。
とはいえ、同じフェランテ監督作という繋がりで、例えば『シャークネード カテゴリー2』(2014年)のような外連味や熱気を本作にまで期待してしまうと、その手堅い出来栄えゆえに、かえって肩透かしを食らうこととなるだろう。その他、直球のルチオ・フルチへのリスペクトと挿入歌の多さもそれぞれ特徴だろうか。
諸々ひっくるめてそつなくまとまっており、大きく外しはしていないゾンビ映画だ。この『ゾンビ津波』がサメ台風に続くビッグウェーブとなることに期待しよう。
文:知的風ハット
『ゾンビ津波』はヒューマントラストシネマ渋谷で2021年3月26日(金)〜4月1日(木)、シネ・リーブル梅田で4月25(日)、4月26日(月)、4月28日(水)上映
『ゾンビ津波』
美しい孤島の静かな海。いつものように漁をしていた漁師のハンターとその仲間たちの船が、突然ゾンビの襲撃を受けた!何とか反撃し逃げ切った彼らだったが、平和だった島は一瞬にして恐怖に包まれてしまう。しかも海には次々とゾンビの姿が見え隠れし始め、ハンターは愛する島を守るため立ち上がることを決める。しかし、その矢先にビーチで巨大津波が発生!大量のゾンビがその津波に乗って上陸しようとしていたのだった……。
制作年: | 2019 |
---|---|
監督: | |
出演: |
ヒューマントラストシネマ渋谷で2021年3月26日(金)〜4月1日(木)、シネ・リーブル梅田で4月25(日)、4月26日(月)、4月28日(水)上映