プランB×A24製作・配給! 2021年アカデミー賞大本命
2021年2月28日(現地時間)に第78回ゴールデングローブ賞で外国語映画賞を受賞。同3月15日には第93回アカデミー賞で作品賞ほか6部門へのノミネートが発表され、2021年の映画賞で本命のひとつとなっている『ミナリ』。1980年代を舞台に、アメリカへ移住した韓国人一家が大都市のロサンゼルスから、南部のアーカンソー州へ引っ越し農地を開拓する。日本人にはおなじみの『北の国から』を連想させるものの、かなり特殊なシチュエーションの物語に、なぜ多くの人が共感してしまうのか? それは、誰もが経験する新たな環境での夢や戸惑い、そして家族との心の行き違いと、それを乗り越える絆が、あからさまではなく静かにしみわたるように描かれているから。
製作と全米での配給を手がけたのがプランBエンターテインメントとA24と、ある意味で“最強”の2社というのも成功の要因だ。プランBはブラッド・ピットの製作会社で、A24は『ミッドサマー』(2019年)など日本の映画ファンにも“ブランド”的に人気が上昇中。ともにここ数年、アカデミー賞に絡む作品を数多く送り出しており、『ミナリ』と同じように両社がタッグを組んだ2016年の『ムーンライト』もアカデミー賞作品賞に輝いた。まさに“傑作保証”の会社、2トップである。
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監督を務めたのは、『ミナリ』の物語と同じように、両親が韓国からアメリカへ移住しコロラド州で生まれた、韓国系アメリカ人のリー・アイザック・チョン。彼が書いた脚本にプランBのプロデューサーが惚れ込んだわけだが、プランBやA24との仕事が幸運だったことを、チョン監督は次のように語る。
プランBもA24も、監督のビジョンをとても重視してくれます。とくに『ミナリ』のように監督が脚本も書いたものは“作家の作品”として大切に育ててくれる印象ですね。スタジオとしてのアドバイスも的確で、撮影中はほとんど何も言われなかったのですが、編集の段階では彼らの意見がめちゃくちゃ参考になって、取り入れました。しかも意思の疎通が難しそうな部分は、韓国語も使ってサポートしてくれたんです。他のスタジオだったら、ここまでケアしてくれたかどうか……。彼らと組んで幸運でしたね。
「完成した映画を観て、私たち家族は無言で抱きしめ合ったのです」
プランBもA24も、チョン監督を信頼しきったのは、この『ミナリ』が彼の半自伝的ストーリーだったからだろう。農地の開拓に夢中になる父。その夢に反発もする母。アメリカで生まれ、会話は英語がメインの子供たち。そして韓国から呼ばれる祖母。チョン監督は、自分の少年時代を息子のデビッドに重ね、記憶をヒントにしつつフィクションの物語をつむいだ。自身の家族には、どう説明したのだろう?
映画の撮影に入る前に、私は彼らに“フィクションの物語を撮る”と説明しました。ただ、家族構成は現実と同じですし、両親は今も『ミナリ』の舞台になったアーカンソー州に住んでいるので、彼らは“自分たちの映画を息子が作るのでは……”と心配していたと思います。祖母役でユン・ヨジョンさんが出演すると決まった時だけは、大ファンということで興奮していましたが(笑)。そして姉は、(家族を映画にする)私を犯罪者のような目で見ていました。
ようやく映画が完成し、家族に観てもらったところ、両親と姉の抱えていた不安は一気に吹き飛んだようで、私たち家族は無言で抱きしめ合ったのです。あの日のことは今でも忘れられません。
家族をモデルにしながら、当事者たちも自分のことを忘れ、素直に感動してしまう。『ミナリ』の普遍性が証明されたわけである。もちろんチョン監督の実際の体験も、作品には盛り込まれている。
映画の冒頭で、一家が新しい家であるトレーラーハウスに来るシーンは、ほぼ私の実体験どおりです。父はとても興奮しており、一方で母は動揺を隠せませんでした。そして幼い私は、車輪付きの家に大喜びして“結婚しても一生、ここに住むんだ!”と無邪気なことを言いますが、あれも事実。
ただ映画のほとんどはフィクションで、たとえば家族4人が床に並んで眠るシーンは私の記憶にはありません。でも、その映像を観た父親が“あそこは懐かしかったよ”なんて言うんです。現実ではないはずなのに、思い出の風景と一致してしまう。これって、映画の起こす奇跡なんでしょうね。
監督はユァン家のいとこ!? 次回作は『君の名は。』のハリウッド実写リメイク!
『ミナリ』はアカデミー賞で、父親役のスティーヴン・ユァンが主演男優賞、祖母役のユン・ヨジョンが助演女優賞にノミネートされ、同じ韓国系ということでは、2020年の作品賞『パラサイト 半地下の家族』(2019年)でも達成しなかった偉業もなしとげた。とくに主演男優賞に関しては、ノミネートがアジア系として初の快挙となる。
そのスティーヴン・ユァンは、妻がチョン監督のいとこという関係。ユァンにも、監督との仕事を聞いてみた。
今回のオファーがあった時、エージェントから“監督は、あなたのいとこです”と聞かされ、“えっ、誰それ?”と答えてしまいました。じつはアイザックとは結婚式などで数回顔を合わせただけで、映画の話なんてしたこともなかったので(笑)。でも企画を読んで、すぐに自分が関わるべき物語だと確信しました。
現場でのアイザックは、低予算の作品を予定どおり終わらせるべく、すべてを的確に運んでいましたね。だいたい2テイク、多くても3テイクでどんどん撮影が進んだし、撮影後に僕が夕日を見ながらリラックスしてタバコを吸っているところにカメラを向け、その映像を本編で使っていたり、柔軟な対応でした。僕ら役者もアドリブも入れて自由に演じられたんです。もちろんアイザックなら、予算のある大きな作品も手がけられるでしょう。
そうユァンが語るように、リー・アイザック・チョン監督の次回作は、あの『君の名は。』(2016年)のハリウッド実写リメイクである。『ミナリ』をはるかに上回る一大プロジェクトになるだろう。現在、どこまで進んでいるのか、チョン監督に聞いてみた。
コロナの影響もあって、当初の予定より遅れていて、今は脚本を練り上げている段階です。日本アニメの大ヒット作を再生できるなんて、とにかく光栄。私はアメリカの片田舎で、都会へのあこがれを抱いて成長しました。そこが新海誠監督と同じではないかと、勝手にシンパシーを感じています(笑)。家族や愛のドラマを、地球の環境にも結びつける新海作品の魅力を、どうやって生身の俳優で受け継げるか。そこが私にとってのチャレンジになりそうですね。
『君の名は。』の実写がどんな作品になるのか。まずは『ミナリ』を観て、チョン監督のセンスを確認しながら、予想してみるのもいいかもしれない。
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文:斉藤博昭
『ミナリ』は2021年3月19日(金)より東宝シネマズシャンテほか全国公開
『ミナリ』
1980年代、農業で成功することを夢みる韓国系移民のジェイコブは、アメリカはアーカンソー州の高原に、家族と共に引っ越してきた。荒れた土地とボロボロのトレーラーハウスを見た妻のモニカは、いつまでも心は少年の夫の冒険に危険な匂いを感じるが、しっかり者の長女アンと好奇心旺盛な弟のデビッドは、新しい土地に希望を見つけていく。
まもなく毒舌で破天荒な祖母も加わり、デビッドと一風変わった絆を結ぶ。だが、水が干上がり、作物は売れず、追い詰められた一家に、思いもしない事態が立ち上がる──。
制作年: | 2020 |
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2021年3月19日(金)より東宝シネマズシャンテほか全国公開