黒人コニュニティから寄せられる大きな期待
『ムーンライト』で鮮烈なデビューを飾ったバリー・ジェンキンス監督による2本目の劇場用長編映画。しかも原作は、20世紀半ばから勇敢に黒人で同性愛者であることについて綴り、公民権運動にもおおいに貢献した作家ジェイムズ・ボールドウィンの小説。『ビール・ストリートの恋人たち』は、映画ファンそして黒人コミュニティからの大きな期待が寄せられている作品だ。
主な舞台となるのは1970年代初頭のニューヨーク。本作の主人公は同性愛者ではなく若い男女の恋人たちだが、それでもやはり人種、階級、宗教、さまざまな要素が絡み合う権力に抑圧され、理不尽な困難に見舞われることになる。
人生の最高の甘さと苦さが、飴色がかったあたたかい色調の画面と優美な音楽によって、ひとつにまとめあげられている映画だ。カメラというものが事実として白人の肌の描画に力を注いで開発されてきた歴史を批判し、黒い肌を美しく見せようという挑戦は、実際、ここで成功していると思う。
人間同士の交わりを捉えた美しいシーンの数々
初々しく寄り添いあう恋人たちの姿を捉えた冒頭からあまりにもスウィートでビューティフルなので、この人たちがこの後つらい目に遭うんでしょ、ウワ~やだやだ~見たくない~~~やめてくれ~~~!!!! と逃げ出したくなってしまうほど。
しかしそこで逃げずに見続けることができるのは、映像と音楽の美しさに加えて、八方ふさがりの苦境にしあわせな記憶のフラッシュバックを挿入する構成のおかげでもある。友との再会、家族のいたわり、たまたま出会った人や肩寄せ合って生きるマイノリティの優しさ……。人と人との交わりを捉えたいい場面がいくつも散りばめられている。
また、アーティスト指向であまり生活力のない男性と労働する女性の組み合わせを描いているのにもドキドキさせられる。無実の罪で収監された恋人を救おうと身重の体で奮闘するヒロインは、それと同時に生活のためデパートの香水売場で働き続けなければならない。
公的な場に身を晒して見知らぬ人たちの視線を浴びる若い女性の仕事ぶりの描写には、トッド・ヘインズ監督、パトリシア・ハイスミス原作の『キャロル』(2015年)や、昨年翻訳された「ヒロインズ」が話題のケイト・ザンブレノによる小説「グリーン・ガール(原題)」が思い出された。
『ビール・ストリートの恋人たち』の時代設定は今からもう半世紀近く前になるけれど、そこで描かれている喜びと悲しみは、良くも悪くも十分に現代的なものなのだ。
文:野中モモ
『ビール・ストリートの恋人たち』は2019年2月22日(金)より全国ロードショー
『ビール・ストリートの恋人たち』
1970年代ニューヨーク。小さな諍いで白人警官の怒りを買った22歳のファニーは、無実の罪で入れられてしまった留置所で、幼いころから共に育った恋人・ティッシュから「赤ちゃんができた」と報告を受ける。二人の愛を守るため、家族と友人たちはファニーを助け出そうと奔走するが..。
制作年: | 2018 |
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監督: | |
脚本: | |
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