徹底される“客観”演出
『ROMA/ローマ』は、『ゼロ・グラビティ』(2013年)でアカデミー賞を受賞したアルフォンソ・キュアロン監督の新作であり、本作も第91回アカデミー賞で10部門にノミネートされている。
舞台は1970年から71年にかけてのメキシコ。キュアロンの少年時代がモチーフだ。描かれるのは若い家政婦と、その雇い主である家族のドラマである。
「アカデミー賞大量ノミネートの家族ドラマ」というと、いわゆる“感動の名作”的なイメージを持たれるかもしれない。いや実際に見たら感動するんだが、といって“泣ける映画”でもない。
キュアロン自身が撮影を担当した本作は、ほぼ“引き”の画で構成される。鮮やかな横移動で当時のメキシコの風景を見せてくれはするものの、編集とクロースアップでドラマを盛り上げることをしないのだ。音楽で観客の感情を揺さぶろうともしない。
過去のことだから、とりわけ監督自身のことだから、ということなのか。観客は(カメラは)登場人物たちに近づけないし触ることができない。それは取り戻せない過去への諦念を表しているようであり、“徹底的な客観”という手法はハードボイルドと言ってもいいかもしれない。
もし映画館で観たらどれだけすごいのか?
正直に言えば、個人的には積極的に食指が動くタイプの映画ではない。にもかかわらず最後まで引き込まれてしまったのは、この手法があるからだ。本作のドラマ、その背景には格差や人種の問題、当時のメキシコの政治が横たわっているのだが、キュアロンはそれをことさら劇的に描写することはない。静かに、引いた画で見せながら「でも、分かりますよね?」と言っている。
Netflix作品が数々の映画賞を受賞したということでも話題になっている『ROMA/ローマ』。しかし、あくまで映画館のスクリーンで観ることを前提に制作されているという。撮影は65ミリ、音響にもこだわっているとのこと。そんな映画を、筆者は「でもNetflixだから」と、あえてテレビ画面でもなくスマホで、ヘッドホンも使わずに観てみた。それでも本作は面白い。静かに静かに、引きの画面で描かれる家政婦の仕事ぶりから目が離せない。
逆に言うと「じゃあこれ映画館で観たらもっと凄いってことか」とも思うわけである。日本でも「アカデミー○部門受賞記念」とかで、なんとかならないものか。
文:橋本宗洋
Netflixオリジナル映画『ROMA/ローマ』独占配信中
『ROMA/ローマ』
政治的混乱に揺れる1970年代のメキシコ。ひとりの家政婦と雇い主一家の関係を、アカデミー賞受賞監督アルフォンソ・キュアロンが鮮やかに、かつ感情豊かに描く。
制作年: | 2018 |
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監督: | |
脚本: | |
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