2021年賞レース最有力候補の一角!
2020年、パンデミック下のアメリカでもう一つ、大きな社会的うねりが起きました。5月25日にミネアポリスの警察官が暴行により46歳の黒人男性ジョージ・フロイドさんを殺害した事件への抗議運動です。「ブラック・ライブズ・マター」のスローガンとともに、この運動は世界的な動きへと発展。もちろん日本でも大きく取り上げられました。
#Japan #BLM
— AFP Photo (@AFPphoto) June 15, 2020
People take part in a Black Lives Matter protest march in central Tokyo.
📸 @CTriballeau #AFP pic.twitter.com/kemDDg3Xf9
現在進行形で、決して他人事ではない問題に立ち会っている私たち。とはいえ、差別の現状や歴史についてなかなか知る機会がないのも事実です。そもそも差別はアメリカに限った話ではなく、本質的な部分をもっと理解しなければならないと感じます。そんな僕に“きっかけ”をくれるような映画が届きました。今回ご紹介する『あの夜、マイアミで』です。
超よかった。2021年1月から配信中のAmazon Primeオリジナル作品です。勉強のためにとかそういう姿勢で観たわけじゃないけど、前述した事柄に関してはもちろん、他にも感じるものがたくさんありました。
難しい映画かな……と肩肘張って鑑賞しなくても面白いと思うんですけど、まったく何も知らないで観るとチンプンカンプンな可能性もあるので、もしそんな友達がいたら……という設定でこの先は書いていきます。
本作の登場人物、歴史に名を刻む4人の偉人たちをざっくり紹介
まずこの映画、フィクションの会話劇です。映画のメインになるのは、ある夜ある一室でなされた4人の人間による口喧嘩。ほぼほぼそのシーンのみといっても過言じゃないかも。時代は1960年代で、登場するのはその時代を生きたアイコニックな黒人男性4人。マルコムX、サム・クック、モハメド・アリ、ジム・ブラウン。やばい。
ググればわかるけど、ちょっとそれぞれ説明しておくと、マルコムXは1950~60年代に活躍したアフリカ系アメリカ人でイスラム教徒の牧師、人権活動家。けっこう過激なイメージ。モハメド・アリが改名するきっかけを作った人でもある。
モハメド・アリ(本名カシアス・クレイ)はボクシングの世界チャンピオンで、後にムスリム名に改名。「蝶のように舞い、蜂のように刺す」と言われる俊敏かつ強力なスタイルで世界チャンピオンに3回なった(とんねるず石橋貴明が一時期ギャグに使ってた)。イスラムの教えに従順で、ベトナム戦争に反対し徴兵を拒否したことでも知られてる。
サム・クックは伝説のソウル・シンガー。日本だと忌野清志郎に影響を与えた。トータス松本の「ワンダフル・ワールド」のオリジナルもサム・クック。自分で著作権管理をしたことでも有名。これは当時としてはかなり攻めてることだった。ちなみに33歳で亡くなってるんだけど、死因が謎めいてるんだな。これについてはまた今度。
ジム・ブラウンはNFLのスター選手で、現役引退後は映画俳優の道を歩んだ人物。この人については僕は全然知らないで映画を観たんだけど、登場人物の中で一番好きになっちゃった! めちゃいいキャラ。
この4人が、ある晩に集まって喋る。いつの間にか公民権運動の話に熱くなってケンカするんだけど……っていうお話。
本作と併せて観ておきたい! 監督/女優レジーナ・キングのオスカー獲得作
当然ながら、4人それぞれ考え方が違うわけです。置かれている状況も違う。そこに怒れる人・マルコムXがいちいち突いて、他の3人を怒らせる。社会を動かそうとする人間たちのガチ議論としても面白いし、個性的な人物たちの口喧嘩としても面白い。自分だったらこの中の誰だろう? って考えるのも楽しいかも。ちなみに4人は実際に交流もあったようだけど、映画としては作り話。死人に口無しとはこのことだな……と思ったりもした。
原作は、2020年公開のディズニー&ピクサー作品『ソウルフル・ワールド』の共同監督・脚本家、ケンプ・パワーズによる舞台劇。なるほど、もともと舞台なんだってのが観てるとわかると思う。役者さんたちの演技が画面を越えて、こっち側に迫ってくる迫力が映画にもある。
監督は『ビール・ストリートの恋人たち』(2018年)で第91回アカデミー賞で助演女優賞に輝いたレジーナ・キング。『ビール・ストリート~』は50年代に公民権運動の旗手としても活躍した黒人作家、ジェームズ・ボールドウィンの小説を『ムーンライト』(2016年)のバリー・ジェンキンズ監督が映画化した作品なんだけど、すごくいいから観てみてほしい! ロマンチックなラブストーリー。衣装も最高だよ。すげえおしゃれ。あくまで主軸は恋愛なんだけど、人種や貧富に対する社会の差別意識が滲み出てくる。人間が想い合う愛しさも感じるし、同時にもどかしさも抱かざるをえない。ああ。
劇中で歌われる2つの名曲は予習をオススメ!
『ビール・ストリートの恋人たち』と『あの夜、マイアミで』、どちらもアメリカの黒人たちを描いた映画だけれど、前者が市井の名もなき人々の恋愛を描いているのに対して、後者は歴史に名を残す人物たちが公民権運動について議論するシーンをメインにしてる。けっこう違う。鑑賞していて湧き上がる感情もぜんぜん違うんだけど、どちらも共通して「どうしてこんなに生きづらいんだろう?」っていう気持ちに胸を締め付けられた。
道はまっすぐで、体も健康なのに、まっすぐ歩けない。そんな感じ。それでも立ち向かっていく勇気をもらえる映画だから好きなのかもしれない。どちらの映画も、たくましく生きていく人間が美しい画で、優しいストーリーで描かれているのがとにかく最高。泣いちゃう。
と、最後にちょっとクレームです。『あの夜、マイアミで』で2曲、重要なポップソングが流れます。BGMとしてではなく、劇中で実際に流れ、歌われる。これがですねえ、歌詞も重要なのに字幕が出ない! いかーん!! 音楽は歌詞が最重要ではないけれど、今回ばかりは絶対に必要だったでしょ!? と思う。
ボブ・ディラン「風に吹かれて」とサム・クック「A Change Is Gonna Come」。せっかく観るなら、この2曲をチェックしてから。特に「A Change Gonna Come」の歌詞は絶対に知ってから!!! というわけで『あの夜、マイアミで』、ぜひご覧あれ。
文:夏目知幸
『あの夜、マイアミで』はAmazon Prime Videoで独占配信中
『あの夜、マイアミで』
60年代の公民権運動や文化のうねりのさなか、各界のカリスマ的存在であるモハメド・アリ、マルコムX、サム・クック、ジム・ブラウンが自分たちの役割を熱く語り合う特別な一夜を描く。
制作年: | 2020 |
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監督: | |
脚本: | |
出演: |