誰もが通る道?「俺はキューブリックになる!」
エマ・ストーン主演の『女王陛下のお気に入り』がスタンリー・キューブリックの『バリー・リンドン』だったことにびっくりしている久保憲司です。
「後継者はお前だ」と本人から直接言われたスティーヴン・スピルバーグがいるのに、なぜみんなキューブリックになりたがる。
そりゃ、僕だって子供の頃はキューブリックみたいな監督になりたいと思いました。これを読んでいる人の半分以上がそう思ったことがあるんじゃないですか!
ジョージ・ルーカス、スピルバーグ、ウディ・アレンよりキューブリックでしょう。ヴィスコンティ、フェリーニ、ベルイマン、ゴダール、トリュフォーは高尚すぎます。キューブリックが一番カッコいい。みんな『時計じかけのオレンジ』を名画座で観て、「雨に唄えば」歌いながら、スナックの看板蹴飛ばしてヤクザに追いかけ回された経験あるでしょう、えっ、ない、すいません。
そんな中で(どんな中だ)「俺こそ真の後継者だ」と思っているのはリドリー・スコットだと思うのですが、どうでしょう。ここ最近の『プロメテウス』『エイリアン・コヴェナント』『ブレードランナー2049』はキューブリックが『2001年宇宙の旅』『A.I.』で投げかけた、“神はいるのか、神とは一体なんなのだ”というテーマを追い求めています。81歳のおじいちゃんなのにキューブリックが出せなかった答えを俺が出してやるという気迫を感じさせてくれます。何をトチ狂っているんですかね。
ツェッペリンやザ・フーにも影響!神より授かりし“モノリス”
『2001年宇宙の旅』の最終的テーマは神とはなんぞやです。
早速、ここからネタバレになっていきますので、もし観ていない人がいたら、映画を観てから読んでください。ここまでが『2001年宇宙の旅』の予習編でした。予習編を要約すると、“絶対観なければならない映画”です。
はい、初めて観られた方、どうでしたか、すごかったですね。美しかったですね。昔、観て意味が全く分からなかった人、今回はどうでした?また分からなかった?
では説明しましょう。居酒屋なんかで、自慢出来る『2001年宇宙の旅』解説です。
あのモノリスと呼ばれる黒い板はなんなんでしょう。宇宙人(もしくは神、創造主)が置いたものなんですけど、何でそんな物を置いたのか、全く分かりません。この黒い板、ロックの世界でも話題で、レッド・ツェッペリン「プレゼンス」やザ・フー「フーズ・ネクスト」のジャケットにも使われてます。よく見るとザ・フーのモノリスは高速道路の柱の一部で、メンバーはそのモノリスにオシッコをかけ、チャックを閉めながら、そこから立ち去ろうとしています。立ちションのジャケットって、とんでもないでしょう。ちなみにこのアルバム、70年代ロックの金字塔と言われてます。
『2001年宇宙の旅』のことは当時からなんじゃこれはと思ってたわけです。デヴィッド・ボウイは最後にドーンと登場するスターチャイルドを賛歌したような歌「スターマン」を歌っていましたが。当時、ある種の人たちは『2001年宇宙の旅』を見て、いつか人類は進化して、救世主になるという妄想をしていたわけです。屋上で「ウー、ウー、ウー、ワー、ワー、ヤー」と言いながら手をあげて円盤を呼ぶような人たちです。ティム・バートンの『マーズ・アタック!』で侵略してきた円盤に近寄って行ってぶち殺される人たちです。『2001年宇宙の旅』を観た人たちが大体こんなことを思ったわけです。
あのスタンリー・キューブリックがそんな能天気な映画を作るか!?モノリスを触った猿たちは武器を使える人間に進化し、月まで行けるようになった。月にあったモノリスを触った途端、なぜ頭を押さえる、あれは宇宙人(神)は「何調査しに来てんねん、そんなのええねん、お前ら戦え」というメッセージ、神はお怒りになっているのでしょう。コンピューターHAL 9000と戦って勝利したボーマン船長はご褒美にスターチャイルドになって、核戦争勃発間際の人類を救いに来たというのが、美しい解釈なのですが、『スター・ウォーズ』のデス・スターのように現れるスターチャイルドは、戦わなかった僕ら人類を吹き飛ばしに来たとしか思えません。何でそんな理不尽な、それは、神はそんなもんだと考える世界観なんでしょうね。このオチを見てると、キューブリックの真の後継者はコーエン兄弟のような気がします。
50年前のキューブリックが描いたのは、“いま”のリアル
『シャイニング』の制作中に原作者のスティーヴン・キングに「君は幽霊みたいなもの信じるんだ、ふーん」と言ってガチャンと電話を切るような失礼なキューブリックですが、神の存在については信じているんでしょうか。スピルバーグに手渡した『A.I.』では、神のような存在になった人間をその後継者がどう思うか、という物語にしたかったんでしょうが、本当にどう描きたかったんでしょうね。この辺に関してはリドリー・スコットが模索していくんでしょうけど。でももう81歳です。ホモ・デウスと呼ばれる不老不死を目指す人たちが出てきたから、100歳くらいまで元気に生きるかもしれません。
ホモ・デウスと呼ばれるスターチャイルドのような人類が出てきて、ホモ・デウスに成れない者を虫けらのように扱う時代が見えてきて、『2001年宇宙の旅』のオチが現実化してきそうな昨今、70年代にスターチャイルドが人類を救ってくれるんだと能天気なことを考えていたのが懐かしく思えます。キューブリックが生きていたらホモ・デウスになろうとするIT長者、バイオ長者などを皮肉った映画を作っただろうと思いますが。
『2001年宇宙の旅』のオチが今は結構リアルなんですよね。難解とか言って諦めないで、自分なりに読み解くと今改めて面白い映画です。
文:久保憲司
『2001年宇宙の旅』
人類の夜明けから月面、そして木星への旅を通し、謎の石版“モノリス”と知的生命体の接触を描く、SF映画不朽の名作。
制作年: | 1968 |
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特集:キューブリック没後20年
CS映画専門チャンネル ムービープラスにて2019年3月放送
【放送作品】日本初放送ドキュメンタリー「映画監督:スタンリー・キューブリック」、『時計じかけのオレンジ』、『フルメタル・ジャケット』