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いま最も気になる俳優・仲野太賀を紐解く!「自分は俳優部というスタッフの1人」どんな世界にも瞬時に馴染む不思議な魅力と個性

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ライター:#関口裕子
いま最も気になる俳優・仲野太賀を紐解く!「自分は俳優部というスタッフの1人」どんな世界にも瞬時に馴染む不思議な魅力と個性
『あの頃。』©2020「あの頃。」製作委員会

不思議な俳優・仲野太賀

仲野太賀は不思議な俳優だ。ねじれの中でキャラクターのアイデンティティを表現してみせる。彼自身は東京の出身だが、演じる人物の背景が東北であろうと、関西、九州であろうと、はたまたインドネシアであろうとも、すっとその地の空気をまとうことができるのだ。

『すばらしき世界』©佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会

そんなふうにリージョナリティを強く感じさせながらも、彼の演じるキャラクターはどこか洗練されている。鼻水を垂らしながら泣こうが、吐こうが、残酷にいじめられようが、全くイケてなかろうが、演出家の送り出そうとするものを観客が受け取るまで顔を背かせることはない。もしかすると、それは東京というニュートラルさこそが醸すものかもしれない。

何にでも染まりながら、何にも染まらない。いずれにしても稀有な存在だ。

菅田将暉や松坂桃李にも絶賛される個性と実力

2020年後半から、仲野太賀の名前を聞かない月はない。石井裕也監督『生きちゃった』、佐藤快磨監督『泣く子はいねぇが』、西川美和監督『すばらしき世界』、今泉力哉監督『あの頃。』、テレビドラマ『あのコの夢を見たんです。』(テレビ東京)、『この恋あたためますか』(TBS)など(※すべて2020年)、「働きすぎなのでは?」と余計な心配をするくらい快進撃を続けている。

2006年に13歳で子役デビューしている仲野だが、多くの人が彼の存在を知るようになったのは、2016年のドラマ『ゆとりですがなにか』(日本テレビ)で“ゆとりモンスター”と呼ばれる入社2年目の会社員を、2018年の『今日から俺は!!』(日本テレビ)で紅高のモテない番長・今井を演じたあたりからではないか? 群像劇の相乗効果によるブレイク。それを裏付けるように『ゆとりですがなにか』に主演した松坂桃李は、仲野を含む共演者に対し、「すげえやつらがここにいる」と思ったと語っている。

https://www.youtube.com/watch?v=_DqFS1EdZ38

筆者が遅まきながらことさら仲野を注目するようになったのも2016年だった。『溺れるナイフ』(2016年)の取材に応じた菅田将暉が、仲野の生活スタイル、ファッションや写真などを激賞していたのも強く印象に残ったのだ。

実際、2016年は仲野にとって映画でも飛躍の年であったと思う。『淵に立つ』(2016年)で深田晃司監督と初めてカンヌ国際映画祭へ参加。2020年に再び仲野主演の作品を発表する中川龍太郎監督と『走れ、絶望に追いつかれない速さで』(2015年)で、『壊れ始めてる、ヘイヘイヘイ』(2016年)で佐藤快磨監督と出会っている。

2013年、仲野初出演の深田監督作品『ほとりの朔子』では、全員がモノ(映画)づくりの核の部分に参加するスタイルに新鮮な驚きがあったという。特に共演の二階堂ふみが監督の提案に衒いなく異を唱える姿に覚醒していったようだ。

深田作品3作目の参加となった『海を駆ける』(2018年)では、インドネシアで撮影を行った。撮影3カ月前から学んだというインドネシア語は表現に違和感なく、現地でのオーディション採用だと言われても信じてしまうほど。その現地へのなじみ具合に、タイガ・マンジャ(甘えっこタイガ)という芸名で歌手デビューを勧められたという。

早い段階から製作に関わる「俳優部というスタッフの1人」

2021年も2月11日(木・祝)に西川美和監督『すばらしき世界』、2月19日(金)に今泉力哉監督『あの頃。』が公開される。どちらも重要な役回りだ。

『すばらしき世界』©佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会

『すばらしき世界』では、知り合いのテレビ・プロデューサー(長澤まさみ)から出所したばかりの元殺人犯・三上(役所広司)の手記をもとに、感動のドキュメンタリー番組制作を依頼される脚本家志望の津乃田役を演じた。仕事のためカメラ片手に三上を見つめるうちその人間性に触れ、彼に逆風しか吹かない社会を自分ごととして捉え始める。役所広司は仲野が以前から共演を熱望していた俳優。役所演じる元殺人犯という共感し難い主人公と観客を結び付ける、大事な役割を見事に果たしてみせた。

『あの頃。』では、2004年の大阪、2008年の東京を舞台に、ハロー!プロジェクトに傾倒することで不毛な青春から目をそらす20代の若者たちと、大事なものを見つけた彼らがそれぞれ巣立っていく様が描かれる。仲野が演じるのは、プライドが高くひねくれている内弁慶なコズミン。ふざけたキャラクターのコズミンを定点ポジションとすることで、停滞期を脱する力を身に着けていく松浦亜弥推しの主人公・劔(松坂桃李)の成長を際立たせた。

『あの頃。』©2020「あの頃。」製作委員会

脇では脇の、主演では主演の存在意義を、近年その役ごとに明確に把握しているように感じる。2020年に公開された主演作は、中川龍太郎監督『静かな雨』、石井裕也監督『生きちゃった』、佐藤快磨監督『泣く子はいねぇが』の3作品。どれも「俳優部というスタッフの1人」として、初期の段階から作品に関わった。俳優は脚本や現場が整ったうえで呼ばれることの多いが、仲野の意識は一緒に作品を作る“俳優部”。早い段階で話し合いに参加し、作品作りに関わってもいきたいと意欲的だ。

『泣く子はいねぇが』©2020「泣く子はいねぇが」製作委員会

そんな仲野を10代の頃から知る『生きちゃった』の石井監督は、大事な言葉を飲み込み続ける厚久役にどこまで耐えられるか不安もあったが、「(今の仲野は)くやしさに由来した、ものすごく熱い想いがあり、人間的に信頼できる」と語っている。厚久は、まるで本音を言いづらい現代日本の閉塞感を代弁させたような役。もしそうであればフラストレーションは多かっただろう。

様々な要素が撚り合わさって成立している俳優

仲野の演技に見られる魅力は、東京出身だということ、様々な趣味における彼のセンスと不思議な持ち味、出会いの重要性を知っていること、群像劇の役割を積極的に引き受けようとすること、自分のパートだけでなく作品全体を掴もうとすること。そして、自身の軽さも重さも隠さず見せてしまおうという潔さ。それらが撚り合わさって成立しているのだと思う。

『すばらしき世界』©佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会

「俳優部というスタッフの1人」という仲野の言葉は、亡くなった名優・高峰秀子さんの作品への関わり方を彷彿させる。また「全体を把握したうえで演技をしたい」という部分は、ジョディ・フォスターの発言を思い出させた。フォスターは「演技をすることは非常に強烈な経験を積むということ。だから同意できるテーマを知りたい」「俳優の仕事は掴みどころがなく不安が大きい。俳優やスタッフが提示した、自分を感動させるもの、自分の個性にはまるものをチョイスしていく監督の仕事のほうがヘルシー」だと初監督の際に語っていた。仲野の意図とは合致しないかもしれないが、演じる者のメンタルを知る上で興味深かったのと、早晩、彼も演出をするのではないかという気がしてならず記した次第。

https://www.instagram.com/p/CK9K39xjK_H/

文:関口裕子

『あの頃。』は2021年2月19日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか公開
『すばらしき世界』『泣く子はいねぇが』は全国順次公開中

https://www.youtube.com/watch?v=dPzKhT03SCs&feature=emb_title

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『あの頃。』

バイトに明け暮れ、好きで始めたはずのバンド活動もままならず、楽しいことなどなにひとつなく、うだつの上がらない日々を送っていた劔(つるぎ)。そんな様子を心配した友人・佐伯から「これ見て元気出しや」とDVDを渡される。何気なく再生すると、そこに映し出されたのは「♡桃色片想い♡」を歌って踊るアイドル・松浦亜弥の姿だった。思わず画面に釘付けになり、テレビのボリュームを上げる劔。弾けるような笑顔、くるくると変わる表情や可愛らしいダンス……圧倒的なアイドルとしての輝きに、自然と涙が溢れてくる。すぐさま家を飛び出し向かったCDショップで、ハロー!プロジェクトに彩られたコーナーを劔が物色していると、店員のナカウチが声を掛けてきた。ナカウチに手渡されたイベント告知のチラシが、劔の人生を大きく変えていく――。

ライブホール「白鯨」で行われているイベントに参加した劔。そこでハロプロの魅力やそれぞれの推しメンを語っていたのは、プライドが高くてひねくれ者のコズミン、石川梨華推しでリーダー格のロビ、痛車や自分でヲタグッズを制作する西野、ハロプロ全般を推しているイトウ、そして、CDショップ店員で劔に声を掛けてくれたナカウチら個性豊かな「ハロプロあべの支部」の面々たち。劔がイベントチラシのお礼をナカウチに伝えていると、「お兄さん、あやや推しちゃう?」とロビが声を掛けてくる。その場の流れでイベントの打ち上げに参加することになった劔は、ハロプロを愛してやまない彼らとの親睦を深め、仲間に加わることに――。

夜な夜なイトウの部屋に集まっては、ライブDVDを鑑賞したり、自分たちの推しについて語り合ったり、ハロプロの啓蒙活動という名目で大学の学園祭に参加するなど、ハロプロに全てを捧げていく。西野の知り合いで、藤本美貴推しのアールも加わり、劔たちはノリで“恋愛研究会。”というバンドを組む。「白鯨」でのトークイベントで、全員お揃いのキャップとT シャツ姿でモーニング娘。の「恋ING」を大熱唱。彼らは遅れてきた青春の日々を謳歌していた。

ハロプロ愛に溢れたメンバーとのくだらなくも愛おしい時間がずっと続くと思っていたが、それぞれの人生の中で少しずつハロプロとおなじくらい大切なものを見つけていく。そして、別々の人生を歩みはじめ、次第に離ればなれに――。

制作年: 2020
監督:
出演: