謎の“施設”で繰り広げられる“残飯”戦争
ボードゲームをよく友人たちとやるのですが、ゲーム自体の楽しさはありつつ、シンプルなルールの中で垣間見えるちょっとした考え方や振る舞いなども、とても面白いです。すごく慎重だったり、利己的だったり、協調を求めたり……友人たちの意外な内面が垣間見えることがしばしばあります。
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本作『プラットフォーム』もシンプルな物語ながら、人間たちが生死に関わるルール下に置かれるゲームを描いたような映画です(グロテスクなものが苦手な人は閲覧注意かも)。そのルールとは、作品のメインビジュアルを見ればわかりやすいのですが、人々が「穴」と呼ばれる複数の階に分かれた建物に閉じ込められて生活していて、1階から下層階に向かって美味しそうなごちそうの乗った机がどんどん降りていき、各階にいる2人の収容者は、机が止まっている間だけその料理を食べられるというもの。
つまり、自分より上の階にいる人が残したものが食べられるようになっていて、その食べ残しだけで生き延びなくてはなりません。他には、1ヶ月ごとに自分のいる階がシャッフルされるということと、入所する際に1つだけ好きなものを持ち込めるというルールがあります。
この施設には様々な理由で何人かが収容されているようですが、その目的は謎で、かつ彼らには事前に入所後の生活は詳しく明かされていません。ただ、出所後には「いいこと」があることは把握しているようで、主人公のゴレンは半年過ごすと与えられるとされる「認定証」を目当てに、自ら志願して「穴」に入ります。
上層階には食べきれないほどの食料があり、下層階にはほとんど行き渡らない。言ってしまえばそれだけのことなのですが、先述のボードゲームのように、他人の考え方が垣間見える……どころではなく、“なんとかして食べなくては死ぬ”という極限状況に追い込まれ、なりふり構わぬ行動に出る人間たちの姿が描かれます。
混迷する現代社会、複雑化する人間関係をシンプルな構図で風刺
ゴレンは社会的にはおそらく中間層の人間で、出所後の漠然とした「いいこと」のために、ある程度の上昇志向とまずまずの倫理観をもって入ってくるのですが、極限まで追い込まれた人々の中で生き抜かなければならない過酷さを前に、葛藤しながらも次第に手段を選ばないようになっていきます。
ゴレンが変化していく過程は、倫理感や良心、ひいては暴力をふるわない自制心を、生死を分けるような状況でも保っていられるのか? という問いかけを突きつけてくるかのよう。閉鎖空間におけるパニックホラー的な要素や過激な描写はありつつも、かなりわかりやすく人間社会の風刺として描かれています。
僕にとっては世界のあらゆる問題、例えば、なぜ些細な理由で争いが起きるのか? 安全圏にいる人間が、なぜ救いの手を差し伸べないのか? 理想的とも思える協調の訴えかけが、なぜ通じないのか? が、やや過激な映像表現で“証明”されているようでした。よく言われる、人間がいる限り社会すべてが平和であることは無理なのではないか? という考えを訴えかけているのでは、と思ったほどです。
本作では、誰もがなんとなく頭で考えている“理想”が達成されない“理由”が暴かれているようで、この施設が単純なルールで運営されているからこそ身近に感じられることに驚きました。僕は普段から「思考し続けて、なんとか大小の問題を解決していくことだけが世界を救う」と思っているのですが、その考えを一層強くした映画でした。
文:川辺素(ミツメ)
『プラットフォーム』は2021年1月29日(金)より新宿バルト9ほか全国公開
『プラットフォーム』
ある日、ゴレンは目が覚めると「48」階層にいた。部屋の真ん中に穴があいた階層が遥か下の方にまで伸びる塔のような建物の中、上の階層から順に食事が“プラットフォーム”と呼ばれる巨大な台座に乗って運ばれてくる。上からの残飯だが、ここでの食事はそこから摂るしかないのだ。同じ階層にいた、この建物のベテランの老人・トリマカシからここでのルールを聞かされる……。1ヶ月後、ゴレンが目を覚ますと、そこは「171」階層で、ベッドに縛り付けられて身動きが取れなくなっていた! 果たして、彼は生きてここから出られるのか!?
制作年: | 2019 |
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監督: | |
出演: |
2021年1月29日(金)より新宿バルト9ほか全国公開