伊達男からタダ者ではない老紳士へ! 映画ファンを魅了する名優マイケル・ケイン
現在の映画界で「タダ者ではない老紳士」がハマリ役の俳優といえば、マイケル・ケインの名前を思い浮かべる方も多いかもしれない。クリストファー・ノーラン監督作品における名演はもちろん、老体に鞭打って団地のチンピラ共を仕置した『狼たちの処刑台』(2009年)の退役軍人や、『キングスマン』(2014年)のスパイ組織のリーダー、『愛の落日』(2002年)と『スルース』(2007年)での「若者に嫉妬する男」など、若い頃の伊達男ぶりとは違った存在感で、新旧の映画ファンを魅了し続けている。そんな彼の魅力が詰まった主演最新作が、2021年1月15日(金)公開の『キング・オブ・シーヴズ』である。
「英国史上最高額&最高齢の金庫破り事件」を映画化!
本作は2015年に英国で起きた高額窃盗事件、通称「ハットンガーデン事件」の内幕を描いた実話ベースのクライムスリラー。ケインが演じるのは、平均年齢60歳以上の窃盗集団のリーダー格で、「泥棒の王(キング・オブ・シーヴズ)」の異名を取るブライアン。裏社会から長らく身を引いていたものの、知人の若者から宝飾店街での窃盗計画を持ちかけられ、妻の葬儀で顔を合わせたかつての悪友たちと共に久々のヤマに挑む。
ケイン主演の高齢者犯罪映画といえば、2017年に『ジーサンズ はじめての強盗』が公開されたが、本作はさすが実話ものというか、いかにも英国映画らしいというか、抜群のチームプレーを見せた『ジーサンズ』とは異なる展開を見せる。
若き日を懐かしむように意気揚々とヤマに挑んだのはいいものの、ある出来事がきっかけでチームに不和が生じ始め、「今のボスは俺だ」「あいつは怖じ気づいた」など内輪モメが勃発。挙げ句の果てに、分け前を巡って騙し合いまで繰り広げる始末。高齢者たちのイタい姿が、シニカルな笑いと哀愁を誘う。
実話ドラマを得意とする監督のもと、英国演劇界の名優が集結!
ニヒルな魅力を放つケインのほかにも、英国屈指の名優が本作に集結。『アイリス』(2001年)のジム・ブロードベント、『ロンドン・ヒート』(2012年)のレイ・ウィンストン、『さざなみ』(2015年)のトム・コートネイ、『ゴースト・ストーリーズ ~英国幽霊奇談~』(2017年)のポール・ホワイトハウス、『ハリー・ポッター』シリーズ(2001~2011年)の2代目ダンブルドア校長役でおなじみのマイケル・ガンボンが、<偏屈>、<偉丈夫>、<二枚舌>、<気弱>、<おとぼけ>などバラエティ豊かなシニア世代の犯罪者を好演。『博士と彼女のセオリー』(2014年)のチャーリー・コックスが演じる窃盗団唯一の若手メンバー、バジルのオドオドした佇まいもいい味を出している。
監督は『博士と彼女のセオリー』や『喜望峰の風に乗せて』(2017年)のジェームズ・マーシュ。筆者が初めて観た彼の作品は、サウンドトラックアルバムに音楽解説を書いたドキュメンタリー映画『マン・オン・ワイヤー』(2008年)だった。いま思えば、同作で綱渡り師のフィリップ・プティと仲間たちがワールド・トレード・センターのツインタワーに潜入した時の再現映像は、犯罪映画のワンシーンのような趣があった。ドラマ派監督の印象が強いマーシュだが、案外本作のようなケイパー・ムービーも向いているのかもしれない。
気鋭の作曲家によるグルーヴィーなジャズ・スコアと、粋な挿入歌も必聴!
本作の音楽を担当したのは、『IT/イット』2部作(2017年/2019年)や『ブレードランナー 2049』(2017年:ハンス・ジマーとの共同作曲)で知られる人気作曲家のベンジャミン・ウォルフィッシュ。筆者は『ハリケーンアワー』(2013年)のサウンドトラックアルバムに音楽解説を書いた時から彼に注目していたので、ここ数年のウォルフィッシュの活躍は嬉しかったりもする。
今回、ウォルフィッシュは巨匠ジョン・バリーの作風に着想を得た、スタイリッシュなジャズ・スコアを作曲。ビッグバンドの演奏とウーリッツァー(エレクトリックピアノ)、さらにスタジオでたまたま目にした打弦楽器のツィンバロムを使って、ヒネリを加えたユニークなスコアに仕上げている。
そして金庫破りのシーンでは、チャイコフスキーの「くるみ割り人形~金平糖の精の踊り」をビッグバンドで派手に演奏するという遊び心も披露。窃盗団の活躍をジャズで表現する一方、迫りくる警察の捜査の手をエレクトロニカ風のスコアで描いており、60~70年代の犯罪映画のような雰囲気でありながら、現代的な感覚も持ち合わせたサウンドとなっている。
そして劇中では、スモール・フェイセズの「What’cha Gonna Do About It」やトム・ジョーンズの「Whatcha’ Gonna Do」、ザ・タートルズの「Happy Together」、シャーリー・バッシーの「The Party’s Over」などの粋な懐メロが効果的に使われており、ブライアンたちの若き日の姿を想起させる。
エンドクレジットでは人気ジャズ・ピアニストのジェイミー・カラムが、ザ・キラーズの「The Man」をファンキーなカヴァーで聴かせてくれる。イタい内輪モメを繰り広げつつ、ラストではさすがの貫禄を見せつける、シニア世代窃盗団の物語に相応しいテーマソングと言えるだろう。
文:森本康治
『キング・オブ・シーヴズ』は2021年1月15日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開
『キング・オブ・シーヴズ』
かつて「泥棒の王(キング・オブ・シーヴズ)」と呼ばれたブライアン。一度は裏社会から引退し、愛する妻と平穏な日々を過ごしていた。しかし、妻が急逝したことをきっかけに、かつての犯罪にまみれた自分が呼び起こされることになる。知人のバジルからロンドン随一の宝飾店街“ハットンガーデン”での大掛かりな窃盗計画を持ちかけられたブライアンは、テリー、ケニー、ダニー、カールら、かつての悪友たちを集め、平均年齢60歳オーバーの窃盗団を結成。綿密な計画のもといざ実行日を迎えようとしたとき、ブライアンは突然「計画から抜ける」と言い出す……。
制作年: | 2018 |
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監督: | |
音楽: | |
出演: |
2021年1月15日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開