映画界で活躍する“女性スタント”の姿を追う
『ワンダーウーマン』シリーズ(2017年~)を筆頭に、女性を主人公にしたアクション/アドベンチャーの優れた作品が本当に増えた。“女同士のつかみ合いのケンカ”や、男の観客が「蹴られたい」か何か言ってニヤニヤするためだけのものではなく、あくまで本格的な映画だ。
そういう作品が増えるということは、女性のスタント・ダブルの需要も増えるのが必然。この『スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち』は、アクションシーンの影で映画を支える女性たちのドキュメンタリーだ。
あの大ヒット作にも貢献! 女性スタントがさらされる差別と偏見
無声映画時代から“女性とアクション”の歴史を掘り下げつつ、何人もの現役スタントウーマン、元スタントウーマンにインタビューしていく本作。彼女たちの仕事の成果として登場する映画がなにしろ豪華だ。
『キル・ビル』(2003年)など女性主人公の映画はもちろん、『スピード』(1994年)、『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』(1984年)、『トゥルーライズ』(1994年)といった名作、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015年)や『ジョン・ウィック』シリーズ(2014年~)など近年の傑作も。女性が関わるアクション・スタントシーンがあれば、そこにスタントウーマンがいる。
ただ、昔はそうではなかった。女優のスタント・ダブルも男性が演じていたのだ。スタントは危険な世界であり、危険な世界は男の世界とされていた。差別も偏見もある。作中では、スタントの世界での人種差別も言及される。
そんな中で、スタントウーマンたちはいかに闘い、道を切り拓いてきた(切り拓いている)のか。映画で明かされるその仕事ぶりは、抜群に新鮮だ。たとえばカーアクションの練習シーン。当たり前の話だが、車が急ターンしたり壁ギリギリで止まるシーンは映画の中では突発的な出来事でも、撮影がぶっつけ本番なわけはない。練習し、しっかり準備しなければカークラッシュもない。当然のことにあらためて気づかされる。
男性よりハード!? 肉体派女優ミシェル・ロドリゲスも憧れる真のヒーローたち
女性ならではの苦労もある。アクションシーンは、必ずしもアクション用の服装の人物が行なうわけではない。ハイヒールを履いていたり、男はスーツでも女性はドレスを着ていたり。女優のスタント・ダブルだからそうなるわけだ。肌の露出が多く、衝撃を緩和するパッドを入れる場所も少ない。つまり男よりも肉体的にハードな面があるのがスタントウーマンなのだ。
もちろん最優先なのは安全。少しでも疑問があったり、体調に不安を感じたら撮影を中断する勇気も必要だと彼女たちは語る。監督が求めるものに応じることだけが仕事ではないと。
製作総指揮を務め、出演もしているミシェル・ロドリゲスは、スタントウーマンたちをキラキラした目で見つめる。それが意味するのは“憧憬”にほかならない。終盤、ある人物が流す涙も印象的だ。肉体的にも精神的にも、立場としてもしんどいスタントウーマンの仕事は、しかし最高にエキサイティングな仕事でもある。
これからは女性のアクションシーンを見るたびに、彼女たちのことを思い出すだろう。作品名や人物名など固有名詞(フルネーム)が頻出するため字幕が追い付いていない面もあるが、ともあれ映画ファンは必見と言っておきたい。
文:橋本宗洋
『スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち』は2021年1月8日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開
『スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち』
『トゥルーライズ』『ワイルド・スピード』『マトリックスリローデッド』をはじめとした映画史に残るアクションシーンの裏側に迫りながら、知られざるスタントウーマンたちのリアルを捉えたドキュメンタリー。息を呑むような名シーンの数々を、彼⼥たちはいかに作りあげてきたのか。スタントウーマンたちの日々の鍛錬の様⼦や歴史を通して、ハリウッド映画の最前線で活躍するプロフェッショナルたちの姿を映し出す。
制作年: | 2020 |
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監督: | |
出演: |
2021年1月8日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開