「ブレイキング・バッド」「ナルコス」が好きなら必見!
ドラマ「ブレイキング・バッド」(2008~2013年)でドラッグを密造する化学教師ウォルター・ホワイトを演じていたブライアン・クランストンが、麻薬捜査官ロバート・メイザーとしてスリリングなおとり捜査を行うのが、実話に基づいた映画『潜入者』(2015年)です。
コロンビアに巨大な麻薬組織<メデジン・カルテル>を率いていた故パブロ・エスコバルは、1980年代に大量のコカインをアメリカに流通させます。当時のアメリカ政府は、コカインそのものや取引の過程で起こる犯罪に頭を悩ませていました。メデジン・カルテルは捜査が事前に察知されてしまうほどの情報網を築いており、密売ルートを辿っての摘発は困難でした。そこで取引の莫大な資金の流れに注目した当局は、キャッシュを足がかりにした捜査を行います。そこでロバートは資金洗浄を行う金融人になりすまし、カルテル幹部の懐に入り込むのですが……。
バレたら即死! 凶悪犯罪組織に潜入する捜査官の苦悩と葛藤、恐怖
ロバートがエスコバルに近づこうとすればするほど、カルテルと敵対する組織から命を狙われたり、自分の家族が危険に晒されてしまったりと、おとり捜査の難しさが描かれていきます。危険な相手に素性を知られないようにしながらも信用を勝ち取っていく行為は、不正解したら即殺される狂ったクイズのよう。実際に隣で人が殺される瞬間を目の当たりにしながらも、ロバートは間一髪で危機を逃れます。
その一方で、やっていることは犯罪ではあるものの人間としてとても魅力に溢れた組織の幹部・アルケイノと親しくなりすぎたあまり、ロバートには欺いている側であるという罪の意識が芽生え始め、その奇妙な関係性に頭を悩ませる瞬間があります。
おとり捜査官もまた人間であり、別の人間になりすます中でやるべきことと自分の精神や信条との葛藤が大きな問題として横たわっているのだというメッセージを、映像を通して何度も訴えかけてきます。そしてブライアン・クランストンの演技によって、その繊細な心の動きが説得力を伴って表現されていました。
エスコバルを取り巻く人々の目線から“凶悪なカリスマ”の恐ろしさを描く
アメリカの麻薬犯罪をテーマにした作品は、ある程度事前知識がないと少し難しかったりするのですが、Netflixの「ナルコス」シリーズ(2015年~)をはじめエスコバルに関する作品はたくさんあり、凶悪な犯罪者でありながら一部ではカリスマとして崇められていたりと、その複雑な生涯が興味をそそるものとして描かれています。
この映画は捜査官の目線で、いかにエスコバルが近づくことの難しい恐るべき巨悪であったかということが実話ベースで表現されていて、エスコバルの人生を追った作品とはまた違った角度で見ることができる、良い映画だと思いました。
文:川辺素(ミツメ)
『潜入者』はAmazon Prime Videoほか配信中
『潜入者』
1980年代、史上最大規模とも言われる犯罪帝国を築いたコロンビアの麻薬王パブロ・エスコバル。当時アメリカに流入するドラッグのほとんどが、彼の組織を経由したものだと言われていた。そんな事態を重く見たアメリカ政府は、エスコバルの息の根を止めるため、大規模な潜入捜査作戦を計画する。それはベテラン捜査官のロバート・メイザーを架空の大富豪に仕立てあげ、その財力を持って組織に取り入り、内側から組織を崩壊させるという大胆不敵なものだった―。
制作年: | 2015 |
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監督: | |
出演: |