民主主義を求めて戦った人々の真実の記録
2020年秋というタイミングで、Netflixオリジナル作品『シカゴ7裁判』が公開・配信されたことには意味がある。この映画のテーマは、大きくいえばデモや裁判も含めた“民主主義”だ。
題材は1968年、大統領選挙に先立つシカゴでの民主党大会における、ベトナム反戦デモ隊と警官隊の衝突。この事件を扇動したとされる面々、通称<シカゴ7>が裁判にかけられる。
映画の中で明示されるのは、この裁判が不当なものだということだ。新たに大統領となったニクソンによる“カウンターカルチャー潰し”であり、司法長官による前任者への怨みも込められていた。
そもそも被告たちは別個に活動しており、主義主張に近いものがあっても明確な仲間というわけではない。生真面目なトム・ヘイデン(エディ・レッドメイン)は悪ふざけが好きなアビー・ホフマンと仲が悪いし、裁判に向けた作戦会議でも口論を繰り広げる。
さらに裁判官は超のつく保守派。降りかかる理不尽に、若者たちと彼らを守る弁護士はどう闘ったのか――?
監督アーロン・ソーキン、主演エディ・レッドメイン、サシャ・バロン・コーエン
裁判の進行とデモ当日の“現実”を織り交ぜる構成が巧みだ。脚本・監督はアーロン・ソーキン。『ソーシャル・ネットワーク』(2010年)に『マネーボール』(2011年)、『スティーブ・ジョブズ』(2015年)の脚本を書いており、実話映画の名手と言っていいだろう。社会派であり裁判を描くのもうまい。この『シカゴ7裁判』は、つまりソーキンの真骨頂と言える題材でありテーマになる。
ホフマン(「この本を盗め」を書いた人といえば伝わる人が増えるかも)を迫力たっぷりに演じるのは、『ボラット』2作(2006年、2020年)で知られるサシャ・バロン・コーエン。活動家にもコメディアンにも見え、法廷でも冗談と減らず口をやめないホフマンは「政府転覆」の企みについて問い詰められてこう答える。
「考えてるよ。4年に1回、合法的に可能だからね」
違法行為をせずとも、そんなことはできるんだという反論であり、それがアメリカの民主主義だという宣言。合法的な方法とは、言うまでもなく“選挙”だ。
2007年には脚本が完成していた本作は、結果として2020年の秋、アメリカ大統領選にぶつけるように公開された。かつての『華氏911』(2004年)もそうだったように、この映画を公開・配信することそのものが“闘い”なのだ。
激動の2020年を代表する、アメリカをアメリカたらしめるために必要な映画
ブラックパンサー党を結成したボビー・シールが手足の自由を奪われ、さらに「息ができない」状態にされる場面は衝撃的であり、BLM運動にダイレクトにつながってくる。
まさに今、見られることに意味がある作品だ。そして大統領選の趨勢が決まってなお、アメリカは“闘い”の渦中にある。民主主義と、それを成立させる手続きが破壊されないための闘いだ。
『シカゴ7裁判』は、アメリカをアメリカたらしめるために必要な映画である。たとえば、その祖先には『十二人の怒れる男』(1957年)もいると言っていいだろう。単なる“社会派映画”ではなく、エネルギッシュな“燃える映画”でもある。2020年にこの映画がある。それがアメリカ映画の底力だし、Netflixからリリースされたというのは時代を象徴してもいるだろう。間違いなく、2020年を代表する一本だ。
文:橋本宗洋
『シカゴ7裁判』はNetflixで独占配信中
『シカゴ7裁判』
1968年、シカゴで開かれた民主党全国大会。会場近くでは、ベトナム戦争に反対する市民や活動家たちが抗議デモのために集結。当初は平和的に実施されるはずだったデモは徐々に激化していき、警察との間で激しい衝突へと発展。
デモの首謀者とされたアビー・ホフマン、トム・ヘイデンら7人の男〈シカゴ・セブン〉は、“暴動を煽った”罪で起訴されてしまい、歴史に悪名をとどろかせた《類を見ないほどの衝撃的な裁判》が幕を開けることに。
制作年: | 2020 |
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監督: | |
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