緊急通報オペレーターが受けた奇妙な電話の相手とは……?
完全ワンシチュエーション、しかも電話通話のみで進行するサスペンスとして話題の『THE GUILTY/ギルティ』。予告映像やSNSでの盛り上がりによって興味を持ったという人も少なくないだろう。それだけで映画好きの興味を惹起する設定もスゴいが、その内容にビタイチ誇張がないからまたスゴい。緊急通報オペレーターの会話や音情報だけで、息をするのも忘れてしまうほどの緊張感を生み出しているのだ。
物語の舞台はデンマーク・コペンハーゲン。緊急通報指令室でオペレーターを務めているアスガーは、パニクったジャンキーやゲスい揉めごとなど、しょうもない緊急通報ばかりにウンザリしている様子だ。しかし、ある女性からの電話に不穏な空気を感じ取ったアスガーが「あなたは誘拐されている?」と冷静に尋ねたところ、なんと「イエス」と答えたものだからさあ大変! 使えない現場警官にブチ切れたりしながらも、なんとか女性を救おうと奮闘するが……というところから物語は目まぐるしく展開していく。
シチュエーション変わらざること山の如し!
展開と言っても、カメラが緊急通報指令室を出ることはない(スリリングな音楽とかもない)。アスガーが半径5メートルくらいでウロウロしたりはするものの、それも主に彼の心理描写のための移動である。どうやらアスガーは少し前まで現場で働く警官だったようなのだが、何らかの事情で緊急通報指令室に一時的に異動させられているらしいのだ。こんな要素をスリリングな電話通話の合間に巧みに差し込んでくるものだから、観客も想像力をフルテンかつ枝分かれさせざるをえず、ますます音と画に没入していくことになる。
ケータイ所有者の名前や大まかな位置情報など限られた手がかりを頼りに、女性を誘導したり容疑者らしき人物を牽制したり、猛烈にテンパりながらも徐々に真相に近づいていくアスガー。この間も観客は、予想する→違った!→じゃあこうかな?→違うのかよ!→ちょ、まじ!? みたいな状態で、猛烈に地味な映像とは裏腹に終始翻弄される。視界不良の中で小さな鍵を探すようなモヤがかった謎解きの連続に目が、いや耳が離せなくなるというわけだ。
観客の想像力を強制的に発動させる巧みな演出
交代の時間をすっ飛ばしてまで電話に執心するアスガーだが、これは当然ながら彼が超お人好しだからとか時間にルーズだとか、そういうことではない。客観的に観ていると、私用電話を使って越権行為にまで及んでしまうアスガーに対し、何らかの精神疾患があるのでは? なんて想像をしてしまうほどだ。それも、そう思わせる誘導が冒頭から散りばめられているのであって、例えば小説を読むときと同じように観客それぞれが脳内で構築したディティールと共に、物語の顛末を見守ることになるのである。
『フォーン・ブース』(2002年)や『ザ・コール 緊急通報指令室』(2013年)などシチュエーション劇は数あれど、ここまで地味な画を貫き通した作品は『[リミット]』(2010年)以来ではないだろうか。しかも謎解きや悪人退治がメイン要素ではなく、バイオレンスやアクション要素があるわけでもない。まるで容疑者への呼びかけがそのまま主人公に跳ね返ってくるかのような複雑かつ濃厚なドラマを経て、やがて『THE GUILTY/ギルティ』というタイトルの意味を理解することになる。
結末は思わず声が出るレベルの衝撃で、ものすごく後味の悪い「あっ……(察し)」が発生するので要注意! とはいえラストカットの演出は、最終的に人間は他の誰かからの愛情を欲する生き物なのだと呼びかけてくるようだった。
ジェイク・ギレンホール主演でハリウッド・リメイクも決定したという本作、これが初長編デビュー作だというグスタフ・モーラー監督には今後も期待していいだろう。
『THE GUILTY/ギルティ』は2019年2月22日(金)よりロードショー