陽気なバカたちが奏でるロックンロール物語
ビル(アレックス・ウィンター)とテッド(キアヌ・リーヴス)はカリフォルニアに住む、気のいいバカふたりである。1989年の名作『ビルとテッドの大冒険』で初登場した彼ら、当時はまだバカな高校生だった。バカはバカなりにバンド活動に精を出し、ご機嫌な生活を送っていた。しかし実はこのふたり、いずれは自ら作り出した音楽でもって世界をひとつにするという、恐ろしく重要な任務を課せられた男たちだったのである。ところが学業成績があまりに振るわず、テッドの怖い親父が「これ以上バカになったら学校を辞めさせて陸軍に入隊させる」と宣告。そうなれば世界を救うも何もなくなってしまうため、どうにかして歴史のレポートを仕上げなくてはならなくなった。頑張ろう! といっても何をどう頑張ればいいのかわからないのがバカのバカたるところで、そういう気持ちは非常によくわかる。
そんな窮状を救い、彼らに本来課せられた使命を果たさせるべく、未来世界から賢人ルーファス(2008年に夭逝した伝説的コメディアン、ジョージ・カーリン。合掌)がやってくる。バカコンビにどうにかしてレポートをまとめさせようと、ルーファスは電話ボックス型タイムマシンを支給した。ビルとテッドはこれに飛び乗り、ソクラテスやベートーベン、ジャンヌ・ダルクにビリー・ザ・キッドら歴史上の偉人を脈絡なく次々に拉致。本人たちの口から直接歴史を語らせることに成功し、めでたく歴史の単位を得るのであった。という物語中に何かが起きるたび、間抜けふたりはだいたい「ウォウ」とか「エクセレント!」といった非常にボンヤリした感想を漏らす。どこまでも善良で楽観的なビルとテッドの冒険はいつ観てもいい湯加減で、どうも永遠に観ていたくなる。
そんな明るさが世界中の心を鷲掴みにした結果作られた続編、『ビルとテッドの地獄旅行』(1991年)。これはどこを切ってもポジティブな空気に溢れた、感動的な傑作だった。いろいろあって死んでしまい、地獄に落とされたコンビ。それでも物ごとを必要以上にシリアスに捉えない気質が幸いし、地獄の死神(『ダイ・ハード2』[1990年]でお馴染みウィリアム・サドラーが怪演)を連れてふたりは生還。可愛い恋人まで成り行きで得て、この上なく幸せな雰囲気のなかで物語を終えた。
まさかの29年ぶり続編! ミドルエイジ・クライシスに突入したバカふたりがふたたび世界を救う!?
この第2部でシリーズが終了していれば、あるいは誰もがハッピーだったのかもしれないが、そうもいかないのが人生だ。『地獄旅行』から実に29年、永遠の若手と思われたビルとテッドも今や50代手前。相変わらずご機嫌に暮らしてはいるが、そういえばいずれ世界をひとつにすると言われた曲は全然完成していなかった。概ね幸せだったそれぞれの結婚生活も何となく雲行きが怪しくなり、どうやらミドルエイジ・クライシスに直面せざるを得なくなったふたり。しかも件の楽曲を作るタイムリミットが、何と残りあと70分ちょっとに迫っているという。
なぜ70分ちょっとかといえば、それが映画自体の残りの尺だからだ。曲はビタ一文できておらず、このままでは世界が確実に滅びてしまう。あ、でも未来の自分たちならどうにかしてるんじゃね? ということで、ビルとテッドは完全に他力本願で人類を救うための時間旅行にふたたび飛び出すのである。
……という物語が展開する、約30年ぶりのシリーズ最新作『ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!』。中年になっても何ひとつ成長せず、相変わらずウォウとか言っているふたりの姿に思わず胸が熱くなる。時間旅行と地獄旅行、前2作の要素を余すことなく入れ込んだ作劇も見事だ。しかも今回はビルとテッドの愛娘、ビリーとテアが新登場。彼女たちが父親譲りの呑気な明るさと前向きさを遺憾なく発揮、シリーズに新たな息吹を与えている。
キアヌらオリジナルキャスト&製作陣が再結集!「生きていれば、きっといいことはある」という不変のメッセージ
また何とも素晴らしいのが、この新世代ビル&テッド(ビリー&テア)が楽器を使わずに、自らの音楽を表現してみせることだ。どこからどう見てもバカなビルとテッドだが、それでもギターは上手かった。何だかんだ言いつつ、一芸に秀でていなければならないのか……というあたりが、実は観客が前2作に感じていたコンプレックスではなかったか。ところが新世代の娘たちは違った。ギターなど弾けなくてもどうにかなる。ネタバレをしてはいけないので詳細は伏せるが、若いふたりが父親たちを巻き込み、自分たちなりのやり方で獅子奮迅の活躍を見せるクライマックスには普通に泣いてしまった。
生きていれば、きっといいことはある。シリーズの生みの親である脚本家コンビ、エド・ソロモンとクリス・マシスン、そして言うまでもなく主演のアレックス・ウィンターとキアヌ・リーヴスが再結集した本作。音楽がもたらす幸福を、この映画は描ききっている(そういえばウィンターはロックの鬼才、フランク・ザッパに関する入魂のドキュメンタリー、その名も『Zappa(原題)』を2020年11月に発表している。こちらの日本公開も心から待たれる)。
何から何までつらいことだらけの昨今、ここまでさまざまに明るい希望を見せてくれる映画はなかなか珍しく、それだけに極めて貴重だと思う。とにかくいまだからこそ観てほしい傑作である。
文:てらさわホーク
『ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!』は2020年12月18日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
『ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!』
「ビルとテッドの音楽が将来、世界を救う」そう予言されていた伝説のロックバンド“ワイルド・スタリオンズ”。曲作りに励み、待ち続けること30年。人気も年月と共に落ち込み、今や応援してくれるのは家族だけ。そんな2人のもとに未来の使者が伝えにきたことは、残された時間が77分25秒しかないという衝撃の事実。一秒でも早く曲を完成させないと、世界は消滅してしまうというのだ。ビルとテッド、そして彼らの娘たちは「世界を救う音楽」を作るため、モーツァルトやルイ・アームストロング、ジミ・ヘンドリックスなど、伝説のミュージシャンたちを集めて歴史上最強のバンドを結成しようと、過去へ未来へ時空を駆け巡る! どうなる地球、どうなるビルとテッド! 果たして、この世界を<音楽>で救うことはできるのだろうか!?
制作年: | 2020 |
---|---|
監督: | |
出演: |
2020年12月18日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開