のん演じるアラサー女子が年下男子・林遣都と恋の綱引き
第30回東京国際映画祭のコンペティション部門観客賞を受賞するなど話題となった『勝手にふるえてろ』(2017年)の監督・大九明子と原作・綿矢りさのタッグが再び実現した『私をくいとめて』。主演にのん、共演に林遣都や臼田あさ美、そしてのんとは連続テレビ小説「あまちゃん」(2013年)以来、約7年ぶりの共演となる橋本愛という布陣だ。
“おひとりさま”がすっかり板についてきた31歳の黒田みつ子(のん)は、ひとりで楽しく生きていく術の一つとして、脳内に相談役のA(アンサー)がいる。人間関係や身の振り方、休日の過ごし方など、自身が迷ったときにはとにかくAに相談し、アンサーを貰っては自分自身を肯定する。
そんな平穏なおひとりさま生活を満喫していたみつ子だったが、年下の営業マン・多田くん(林遣都)に恋をしてしまう。多田くんと両思いだと信じ、みつ子はおひとりさま生活から一歩踏み出そうと奔走するが……。
“おひとりさま”というワードや「人は基本孤独」といった台詞から、どこからどう見ても“こじらせてる”映画なのだが、こういった思考に対してこじらせてると感じてしまうのは、自分にもそういった経験があるからなんだろうな、と。まだそんな思考で止まってるの? というマウンティングじみた反論もあるだろうけど、この時代にはそんなマウンティングすらおこがましくない? 僕なんかはそう思っちゃう。
もう一人の自分? イマジナリーフレンド? みつ子がアドバイスを求める(脳内)相談役
そんなこんなで、このお話はみつ子の背景を想像できなければ、ただイライラするだけだと思う。そうならないようにするために、想像の軌道を明確にしておく必要がある。
背景を想像するために最も大事なのは、相談役Aの存在だ。みつ子が作り出した架空の存在Aは、常に第三者目線を持って冷静に発言する。しかし、結局のところAもみつ子が産んだ空想の産物でしかない。つまり彼女は多角的に物事を見ているのに、どうしてもこんがらがった自意識に支配されてしまうのだ。
そういった自我が形成されてしまったのには理由がある。少しずつ解き明かされるみつ子の過去を追っていくと、様々なハラスメント体験が浮き彫りとなり、諦念の果てにおひとりさまになってしまったんだろうという結論に行き着く。そんな悲しいことがあってよいのだろうか。
そんな“スレてる風”のみつ子だが、彼女は所作ひとつとっても決してガサツではなく、いろんなところが丁寧だ。多田くんが来る時だけ玄関に移動させるフレグランス、出て行った後に少し時間が経ってから閉める鍵、何度も着替えるエプロンやスリッパ、多めに買った野菜、ペアのお皿……。
多田くんの存在は、不器用だが可笑しみのあるみつ子のガチガチに固まった気持ちをほころばせ、解放する。たった2時間ちょっとの間に、誰しも身に覚えのある孤独の心地よさと、そこから踏み出したことによって広がる視野を、みつ子を通じて感じることができるだろう。
文:巽啓伍(never young beach)
『私をくいとめて』は2020年12月18日(金)より公開
『私をくいとめて』
おひとりさまライフがすっかり板についた黒田みつ子、31歳。みつ子がひとりで楽しく生きているのには訳がある。脳内に相談役「A」がいるのだ。人間関係や身の振り方に迷ったときは、もう一人の自分「A」がいつも正しいアンサーをくれる。
「A」と一緒に平和な日常がずっと続くと思っていた、そんなある日、みつ子は年下の営業マン 多田くんに恋をしてしまう。きっと多田君と自分は両思いだと信じて、みつ子は「A」と共に一歩前へふみだすことにする。
制作年: | 2020 |
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2020年12月18日(金)より公開