必死なハ・ジョンウ×軽薄なキム・ナムギルのケミストリー
映画『クローゼット』は、いきなり「ほんとにあった! 呪いのビデオ」(1999年~)チックな古いビデオ映像から幕を開ける。映っているのは、とある家で霊媒師の女性を囲み拝む人々。そしてトランス状態になった霊媒師が自らの首を掻っ切って血飛沫バシャー!! という、なかなかハイテンションで掴みバッチリなオープニング。このことからもわかるように、本編もかなり威勢の良いオカルト・ホラーだ。
交通事故で妻を失ったサンウォン(ハ・ジョンウ)は、事故以来ふさぎ気味な娘イナ(ホ・ユル)に手を焼いていた。そこでサンウォンは心機一転、新居での新生活をはじめることに。しかし、仕事が忙しくなるにつれてイナが鬱陶しくなってくる。もういっそのことどこかへ預けちまうか……。そんな身勝手すぎる考えがサンウォンに芽生えたとき、イナが行方不明になってしまう。
序盤はだいたいこんなところ。入居早々、窓ガラスにカラスが特攻してくるというホラー映画あるあるをサクっと踏襲したりしながら、目につくのはイナを演じるホ・ユルの凄まじい演技力。『マザー 無償の愛』(2018年:日本の同名ドラマのリメイク版)で注目され、韓国ではすでに“天才子役”の座をキープしつつあるそう。本作では、空洞のような虚な目から急に無邪気な笑顔になったりする場面があまりに怖く、なにこれ『エスター』(2009年)的なやつ? とつい訝ってしまうほど。しかし、娘を失ったサンウォンに謎の男ギョンフン(キム・ナムギル)が近づいてくるあたりで様子が一変!
ホラーが苦手でも大丈夫! ミステリー展開とオカルト要素の好塩梅でサクサク見せる
※注意:一部物語の内容に触れています
前半と打って変わって、後半は『インシディアス』(2010年)や白石晃士監督『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』(2012年~)的な展開を見せる本作。家中に霊視カメラを仕掛け、怨霊の登場をただひたすら待つという心霊番組状態に突入するくだりでは、『殺人者の記憶法』(2017年)でソル・ギョングと対決する殺人鬼役が印象的だった、キム・ナムギル演じる霊媒師の胡散臭さが爆発。「この世とあの世というのは裏表で繋がってまして……。あ、『インターステラー』って観ました? アレと同じです」などと雑すぎる説明。緊張感皆無で軽口が止まらないという、吹けば飛ぶようなウルトラ・ライトなキャラクターは前半の悲壮感を打ち消してくれるが、それでも笑っていられない状況となっていき、あれよあれよという間に怨霊とのバトル物の様相を呈してくる始末!
怨霊たちも「ぎゃー!」と威圧だけで人体をぶっ飛ばしたり、ナイフ片手にサクサク刺しにきたりとツワモノばかりで大変なのだが、どういうわけか怨霊たちは目の周りを黒く塗ったいわゆるコープス・ペイントなんですよね。さすがに古臭さを感じちゃうのですが、そのぶんホラーが苦手な人でも観ることができる仕様になっておりますのでご安心を。
韓国が直面したアジア通貨危機や児童虐待など、社会的な問題を映画の中にスムースに馴染ませることができているあたりはさすが韓国映画といった具合で、『哭声/コクソン』(2016年)や『サバハ』(2019年)などとはまた違った感触のオカルト・ホラーとなっている本作。霊媒師ギョンフンでスピンオフでも作れば人気シリーズに化けるはず!
文:市川力夫
『クローゼット』
事故により妻を失いトラウマに苦しむサンウォンは、心を閉ざしてしまった一人娘イナとの関係を修復すべく郊外の新居へと引っ越す。新居を気に入ったイナは徐々に明るさを取り戻すが、サンウォンは夜な夜なクローゼットの中から聞こえる奇妙な声に悩まされるようになる。そんなある日、イナが忽然と姿を消した――。イナの行方を捜して1ヶ月が経ち、手がかりすら見つからず憔悴しきったサンウォンであったが、彼のもとにイナの行方を知るという謎の男ギョンフンが現れる。ギョンフンはイナの部屋のクローゼットにすべての秘密が隠されていると言う。サンウォンはイナを見つけ出すため、ギョンフンの力を借りるのだが……。
制作年: | 2020 |
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監督: | |
出演: |
2020年12月18日(金)よりシネマート新宿ほか順次公開