実話をもとにした濃厚な親子愛を、時にユーモラスに描いた感動作
映画のレビューでこんな個人的なことを書いていいのかと相当悩んだのだが、映画の感想に深く関わってくることなので恥を忍んで告白する。私の母はマイペースで自分勝手で協調性ゼロ、子どもは親の苦労を彩る添え物としか思ってないような見事な毒親だったが、昨年、独り暮らしで遺体となって発見され私は淡々と葬儀をして母を送り出した。自分に親子愛について語る資格はないと思っているので、この作品のレビューが書けなかったらどうしよう、観る前はそんなことばかり考えていた。
タイトル通り、終始息子と母の濃厚な親子愛が描かれ、余命短い母(倍賞美津子)をなんとか助けたい息子の愛情はありえない方向へと奔走する。自分が滝に打たれれば母の病気が良くなると本気で信じるし、葬儀では思わず母の遺骨をポケットに入れてしまう。作中、息子が考えることは見事なまでにずっと母親のことばかりだ。私は自分にここまで愛せる親が居なかったことを改めて思い知らされ、作品序盤は親子愛に感動するというよりは、自分の心の闇が辛くて涙が止まらなかった。
亡き母からの驚くべき贈り物とは?
しかし途中から、私のこの負の感情は、自分が息子・サトシになって母の葬儀を出しているような気持ちへと変化していった。安田顕演じる息子の行動は実話だけあって滑稽だけどリアリティにあふれていて、観る者をぐいぐい惹きつけてゆく。そんなサトシを支える恋人(松下奈緒)、兄(村上淳)、父(石橋蓮司)らの演技も印象深い。彼らを観ていると、自分のネガティブな気持ちなど些末なことで、これだけ誰かに愛し愛されたら人間として本望だ、これからはそのために生きてゆこう、と素直に思えてくるのだ。
母を失って放心状態だったサトシ一家も、死後1年が経ち新しい生活を前向きに考えられるようになるが、ここで“母からの驚くべき贈り物”の存在が明らかになる。ネタバレになるので絶対に内容は書けないが、こんなの反則だよ!! と叫びたくなるくらい泣ける代物で、心に深い感動が押し寄せてきた。
親子関係が良好な人も、親子関係に悩んでいる人も、この作品のタイトルを見て気になった人は絶対に観たほうがいい。私は今、この作品を観て本当に良かったと思っている。
『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』は2019年2月22日(金)より公開