猫と風景の撮り方が抜群に美しい!
タイトル以外全く情報を頭に入れない状態で観たこの作品。冒頭から猫が次々と登場し、当たり前のようにじゃれあっている様子を観て、開始5分で「なんか『岩合光昭の世界ネコ歩き(NHK)』観てるみたいだな~」という感想が頭に浮かんだら、全くその通りで驚いた。本作は岩合光昭の映画監督デビュー作だ。
妻が遺した愛猫・タマと暮らす大吉は、慣れない家事をなんとかひとりでこなしつつ、毎日タマを連れて島を周り、島の住人や彼らの飼い猫、みんなで世話をしている野良猫たちと会話するのを日課としている。彼は猫嫌いを公言する巌(小林薫)が猫を追い払うのを止めたり、近所のおばあちゃんが毎日繰り広げる喧嘩をなだめたりして暮らしていたが、ある日、島の外から若い女性・美智子(柴咲コウ)が移住してカフェをオープンしてから、その日常は少しずつ彩りのあるものに変わってゆく。
人間の心情を表す存在としての猫
監督は猫たちを彼らの心情を表すものとして位置づけ、全編にわたって猫は人間のそばでその本心を表す行動をとっている。島の老人たちはおしゃべりだが、決して自分のことを話そうとはしない。みんな配偶者に先立たれ孤独や不安を抱えているはずなのに、寂しいという言葉をぐっと飲みこんで独りで暮らしている。夕暮れを眺める大吉のそばに座るタマの背中が、その寂しさを雄弁に物語っていた。これが初監督作品とは思えない、とても重厚な人間描写だ。
島の診療所の若先生が「赴任した時に、この診療所の一番の仕事は死亡診断書を書くことだ、と言われた」と告げるシーンがある。死と隣り合わせだからこそ、老人たちは寄り添い、助け合う。そして、それを島に住むことを選んだ若者たちが支え励ます。一見ここは理想郷のように思えるのに、監督はその裏にある過疎の問題もきちんと描くことで、観る者に一石を投じている。
老人映画と思うなかれ、できれば一人でも多くの猫好きの若者に観て欲しい。そして日本の高齢化問題について深く考えるきっかけとなってほしい。
『ねことじいちゃん』は2019年2月22日(金)=猫の日よりロードショー