SF映画の金字塔であり青春映画の傑作
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズ(1985~1990年)というのは、本当に多くの人に長きにわたって愛されている作品です。すでに沢山の評論家やファンの皆さんが熱い解説やレビューを寄せていらっしゃいます。僕自身、全作品の日本初公開時に立ち会えた身なので、その時のワクワク感を思い出しながら本シリーズの素晴らしさについて語ってみたいと思います。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(以下『BTTF』)はタイムトラベルを扱ったSF映画ではあるのですが、海外のある雑誌が選んだ「高校が舞台の映画ベスト50」にも選出されています。これは『BTTF』の魅力の秘密を語る上で、とても大きなヒントでしょう。
つまり『BTTF』はハイスクール・ムービーの名作、青春コメディ映画であり、ここがより多くの人々をひきつけたわけです。
すごく大雑把なことを言うと“タイムパラドックスを扱ったSF映画”と言われるより、“50年代文化へのオマージュに満ちた青春コメディ”という顔つきの方が、鑑賞のハードルが低いでしょうから(笑)。
また『BTTF』の脚本は、多くの映画クリエーターを輩出した南カリフォルニア大学映画学科のシナリオの授業で“最も完璧な脚本”として教材に使われているそうです。これも本作が長きにわたって愛される理由の一つ。
『BTTF』シリーズはSF映画ですから、当然VFX(いわゆる特撮)を使った見せ場がある。こうしたシーンは時代がたつにつれ古臭くなってしまいます。本シリーズを見直すと、いまのようにCGでなんでも表現できるわけではないから、合成とかのシーンには時代を感じてしまうのです。
しかし、映画の肝である脚本の完成度が高いから、そうした些細な事が気にならず今でも(今のファンでも)ストーリーにのめりこむことができるわけです。
抜群のキャスティングとデロリアンの存在、そして信頼のスピルバーグ印!
ところで、いくら脚本が良くても“誰がどう演じるか”で映画の出来は変わってきます。マイケル・J・フォックス、クリストファー・ロイド、リー・トンプソン、トム・ウィルソンら素晴らしい俳優陣が、このシリーズのキャラに命を与えたことも大きい。リスペクトです!
こうした中身の良さに加え、本シリーズの人気を不動にしたものは、やはりデロリアンの存在でしょう。人々の記憶に残っていくためにはキャッチーなアイテムがマル必。本作で言えば、それがデロリアン型のタイム・マシン(この“デロリアン”は正式にはデロリアン・モーター社という会社が唯一製造・販売したDMC-12のことを指すようです)。
当時の映画雑誌等を読むと、最初の脚本では冷蔵庫がタイム・マシンという設定でしたが、万が一子どもがマネしたら……というケアからデロリアンに変わったそうです。『BTTF』シリーズは、このデロリアンのおかげで商品化もしやすかった。冷蔵庫じゃあ、おもちゃ展開しずらいですから(笑)。作品以外に、グッズという形で人々と長きにわたって接点を持てるというのもコンテンツの寿命を延ばします。
すべて結果論ではありますが、こうしてみると『BTTF』シリーズがいまだに人気があるのがうなずけます。
そんな『BTTF』は1985年夏、アメリカで公開され空前の大ヒットとなりました。日本で封切られたのは同年の12月。当時はアメリカで夏にヒットした映画が日本ではクリスマス~お正月映画として公開されるというパターン。だから、アメリカで大ヒットしたすごい映画がやってくる! みたいな感じでワクワクしながら待つわけです。
そして80年代はハリウッド大作がとにかく興行界の華。加えてスティーヴン・スピルバーグの人気が日本でも高かった。1982年に『E.T.』、1984年に『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』と大ヒット作が続き、スピルバーグといえば大作! 面白い! というイメージで、スターではなくクリエイターの名がブランド化していたのです。『BTTF』はそんな彼が製作総指揮を務めた作品ですが、監督のロバート・ゼメキスよりもスピルバーグの名がフィーチャーされ、予告編などの煽りコピーは「スピルバーグがまたやった!」でした。なお1985年の日本におけるクリスマス~お正月映画のもう一つの本命は、これまたスピルバーグ製作総指揮の『グーニーズ』でした。この作品もファンが多いですね。
ご存知の通り『BTTF』は大ヒットしましたが、当時のゼメキス監督たちは全く続編は考えていなかったそうです。先にも述べたように“完璧な脚本”ですから、この1作で十分完結していたのです。
しかし、続編は作られます。
もともと連作構想?『PART2』と『PART3』はぶっ通しで観ると楽しさ倍増!
『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2』が公開されたのは1作目から4年半後の1989年暮れ。ちょっとブランクがありますよね。僕が聞いた話では、1作目がビデオ化された際、エンディングに“To be Continued”みたいなテロップを入れたらこれが噂をよび、続編製作にGO! が出たらしい。大ヒットしたから続編を改めて検討した、で、ビデオ発売の時に“観測気球”的にそれを匂わせて反応をみたのかな。
面白いのは『PART3』は1990年の夏公開で。『PART2』からわずか半年後のリリース。しかも2作は同時に撮影。そう『BTTF』のPART2とPART3は、はなから二部作構造になっていました。ここにも製作陣の意志を感じます。つまり「『BTTF』は安直にシリーズ化させない。ここできっぱり終わりにするぞ」と。実際、監督のロバート・ゼメキスおよび脚本のボブ・ゲイルは『BTTF』のリメイクや新たなる続編は一切考えていないと公言しているみたいですから。
『BTTF』は1985年(公開当時の“現在”)と1955年の過去が舞台ですが、『PART2』はここに2015年(公開当時から見た“未来”)のエピソードが描かれ、『PART3』は1855年の西部開拓時代が主な舞台となります。
だからこのシリーズで、いわゆるSF映画らしい“フューチャー=未来社会”が登場するのは『PART2』だけなのです。ここに登場する未来のガジェットが大きな話題を呼びました。中でも人気だったのは空飛ぶ(宙に浮かぶ)スケボーのホバーボード。
実際の2015年時は『BTTF』公開30周年かつ『PART2』で描かれた未来の年だったので、劇中の未来が現実をどこまで予想していたか、その答え合わせみたいな記事が多かったように記憶しています。映画では2015年には空飛ぶ車が行き交っていますが、これは実現できていません。一方、スマホの登場は予想できていなかったみたいで、出てきません。
『PART3』は、おそらく3作の中では前2作よりも人気がないかもしれません。これは西部開拓時代=西部劇(特にクリント・イーストウッドの西部劇)へのオマージュが強いので、この時代への想いがないと今ひとつピンとこないからかもしれませんが、先にも述べたように『PART2』と『PART3』はもともと1本の映画として企画されたので、両作を連続して観ると、このパートの楽しさが際立ってきます。
それにしても“バック・トゥ・ザ・フューチャー”というタイトル、“未来に行こう!”ではなく“未来に帰ろう!”とは、素敵な言葉だと思います。3作を通じて描かれたのは「未来はいつだって白紙。だから未来の自分がハッピーかどうかはいまの自分にかかっている」です。だから、ふと悩んだ時はもう一度、未来の自分がどうありたいか? そこに立ち返ろう(=バック・トゥしよう)ということなのです。
文:杉山すぴ豊
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズはCS映画専門チャンネル ムービープラス「特集:バック・トゥ・ザ・フューチャー イッキ観!」で2020年12月ほか放送
https://www.youtube.com/watch?v=p_4YngcQgrA