賞を獲ることだけが“いい映画”の基準ではない
第91回アカデミー賞で感慨深いのは『ブラックパンサー』が作品賞、『スパイダーマン:スパイダーバース』が長編アニメーション賞にノミネートされていることです。
アメコミ・ヒーロー映画は、派手な特殊効果(VFX)を使うから視覚効果賞等にノミネートされる(実際、今回は『アベンジャーズ:インフィニティ・ウォー』がノミネートされています)ことはありましたが、作品賞という“賞の中の賞”に、この2作が名を連ねていることを素直に嬉しく思います。
僕は決してアカデミー賞やカンヌ映画祭で賞を獲ることだけが“いい映画”とは思っていません。実際、僕が大好きな映画で賞とは無縁の映画というのは沢山あります。特にアメコミ・ヒーロー映画は批評家よりもファンに愛される映画だから。しかしながら「アメコミ・ヒーロー映画というだけで評価するに値しない」みたいな風潮が嫌なのです。アメコミ・ヒーロー映画とアカデミー賞という意味で印象的なことが2回ほどありました。2009年の第81回と2015年の第87回です。
アメコミ映画への逆風をはねのけた2作品
第81回は2008年公開の映画が対象になりますが、08年というのは『アイアンマン』と『ダークナイト』が公開され、アメコミ・ヒーロー映画快進撃のきっかけとなる年でした。そして『ダークナイト』のジョーカーを演じたヒース・レジャーが故人ながら助演男優賞を獲得。しかも、このアカデミー賞の司会はウルヴァリンことヒュー・ジャックマンだったのです。
この第81回は僕はアカデミー賞にアメコミ・ヒーローが登場した記念すべき年と思っているのですが、一方で『ダークナイト』が作品賞候補にならなかったことで「アカデミー賞=スーパーヒーローが嫌い」、というイメージがついた、という見方もあります。その後、アメコミ・ヒーロー映画はハリウッドを席巻していくわけですが、これに対して一部映画人からバッシングが起こります。それが露わになったのは2015年の第87回。まずショーのオープニングでジャック・ブラックが「なんとかマンがいっぱいでうんざりだ」みたいなジョーク(歌)をとばし、アメコミ・ヒーロー映画ブームにチクリ。
https://www.youtube.com/watch?v=pP5oJqFnTCk
偶然にもこの年の作品賞は『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』という、ヒーロー映画を辞めた俳優が舞台に挑戦する作品でした。しかも演じているのは『バットマン』(1989年)のマイケル・キートン、さらに『アメイジング・スパイダーマン』シリーズ(2012年~)のエマ・ストーンも共演。「映画会社はヒーロー映画ばっかり作りやがって」という逆風が吹いたのです。
だからアカデミー賞とスーパーヒーローは相性が悪い。その“復縁”を期待したのが、女性映画としても評価された『ワンダーウーマン』(2017年)でしたが、アカデミー賞ではノミネートされませんでした。『ブラックパンサー』の高評価・社会現象化は『ワンダーウーマン』と似ていて、片や黒人映画、片や女性映画でした。『ワンダーウーマン』がアカデミー賞に無視されたので『ブラックパンサー』もどうかな? とは思っていたのですが、作品賞にノミネートされました。『スパイダーマン:スパイダーバース』もアート性とアクションが見事に融合したエンターテインメントですが、黒人少年の成長物語でもあります。ここが評価されたのかもしれません。
黒人映画だからノミネートされたわけではない
今年のアカデミー賞の結果が楽しみですが、ただこれだけは言っておきたい。仮にアカデミー賞を獲れなかったとしても『ブラックパンサー』『スパイダーマン:スパイダーバース』は素敵な作品です。そして両作品とも“黒人映画”だから素晴らしいのではなく、エキサイティングなヒーロー・エンターテインメントとして、エモーショナルな人間ドラマとして楽しめる。これを機会にぜひご覧ください。
しかし今年のアカデミー賞の俳優さんたち、クリスチャン・ベール、ウィレム・デフォー、ブラッドリー・クーパー、エマ・ストーン、エイミー・アダムス、サム・ロックウェル、マハーシャラ・アリ(『スパイダーマン:スパイダーバース』に声の出演もしています)は皆、アメコミ・ヒーロー映画に出ていますね!
文:杉山すぴ豊
https://www.youtube.com/watch?v=pEx4fy-yJ1A
アフリカの秘境にありながら、最新テクノロジーをもつ<超文明国ワカンダ>。ここには世界を変えてしまうほどのパワーを持つ鉱石<ヴィブラニウム>が存在する…。突然の父の死によって王位を継いだティ・チャラは、この国の“秘密”を守る使命を背負うことになる。漆黒の戦闘スーツをまとい、ブラックパンサーとして戦うティ・チャラは、祖国を……そして世界を守ることができるのか?
制作年: | 2018 |
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監督: | |
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