「アンフェア」原作者×「SP」監督が描く、センセーショナルな物語
「アンフェア」(2006年)と「SP」シリーズ(2007年~)、映画化もされた人気ドラマの2大クリエイターが組む――映画ファンにとってはワクワクするコラボレーションだろう。「アンフェア」の原作である「刑事・雪平夏見」シリーズの著者・秦建日子による小説「サイレント・トーキョー And so this is Xmas」を、「SP」シリーズの波多野貴文監督が映画化したノンストップ・サスペンス『サイレント・トーキョー』が、2020年12月4日(金)に劇場公開を迎える。
両者はともに、スピーディに畳みかけるような、それでいてシリアスなテーマ性をはらんだ作品を得意としている。2人が本作で描き出すのは、「クリスマスイブに、日本でテロが起こったら?」というセンセーショナルな物語だ。
過剰な人物描写やまどろっこしいイントロダクションを廃し、物語は恵比寿や渋谷にいきなり爆弾が仕掛けられたところから始まる。映画が始まった瞬間、観客は準備する間もなく「渦中」に放り込まれる。何が起こったのか把握できないまま、命の危機にさらされる恐怖――これこそテロのリアルであり、秦が小説でえぐり出し、波多野監督がこれまでの作品で見せつけてきたものだ。
例えば、映画『SP 野望篇/革命篇』(2010年/2011年)では、国会議事堂がテロリストに占拠される、という攻めたストーリーが展開。近年の現代劇では“国家転覆”のような政治的要素を含む作品は忌避されがちだが、あえてそこに切り込み、緊迫感あふれるサスペンスアクションに仕立てた。
そして今回も、テロという題材だけでなく、その裏に「これは戦争だ」というセリフや危機感を持たない世間に対する怒りが、強く明示されている。クリスマスに無差別爆弾テロが起こる、という状況だけでもぞっとさせられるが、断片的に犯人の思考が開示されていくことで、ミステリーとしての面白さも担保しつつ、社会派作品のエッセンスも帯びてくるのだ。
犯人はなぜ、クリスマスイブのタイミングを狙ったのか? 「首相との生対談」を要求する理由は? この一連のテロで何を成し遂げようとしているのか? “戦争”という言葉の意味とは? さらに、時折フラッシュバックする映像は、何なのか? ハイスピードに進む物語の中で、観客の脳内に去来する疑問点は、あるタイミングで一気に、爆炎が晴れるかのごとく真実の姿をさらけ出していく。
その辺りは、秦が名曲「Happy X-mas(War Is Over)」にインスパイアされて書いた、というエピソードからも感じ取ることができる。現代日本に生きる私たちにとって、どこか距離感のある“戦争”という事象を、『サイレント・トーキョー』は目の前に引きずり出してくる。
もし今、日本でテロが起こったら? というシミュレーション的な怖さを示すため、約3億円の巨費を投じ(他作品との共同出資)、渋谷駅前を再現した巨大なオープンセットを建造。のべ1万人のエキストラを動員し、渋谷のど真ん中で爆発が……という<考えたくないif>を、まざまざと見せつける。
ちなみに波多野監督は、撮影の約1年前から警察や医療関係者などに徹底して取材を敢行し、テロが発生した場合に起こりうることを細部に至るまで盛り込んでいったという。映画的なダイナミックかつスピーディな展開と、現実に根差した考証の数々、そして“戦争”をキーワードにした、薄氷のごとき平和への警鐘――いわゆる「お正月映画」の大作ではあれど、『サイレント・トーキョー』には、高濃度の“毒”が沈殿している。
「過去」や「背景」を演技でにおわせた、役者たち
このような、ある種、思想やメッセージ性が強い物語においては、スタッフ陣とキャスト陣の熱がそろわなければ、セリフが上滑ってしまい、せっかく作り上げた土台が台無しになりかねない。空間設計や物語の筋を入念に組み立てたとしても、緊迫感のある物語において、観客が拠りどころとするのは登場人物の表情だ。彼らの演技が真に迫っていればいるほど、私たちが暮らす日常との距離が近づき、他人事ではいられなくなる。
しかし厄介なのは、スピード感を重視する目的もあり(本作は当初から100分以内に収めることを目標としていたそう)、しかも群像劇という性質も相まって、登場人物それぞれの過去や人物像の掘り下げが、ほぼ行われない。そのため出演者としては、限られたシーンの中で、自分たちの演技に人物像を込めなければならなかったはずだ。
生半可な役者では太刀打ちできない高難易度のミッションといえるが、佐藤浩市、石田ゆり子、西島秀俊、中村倫也といった演技達者な面々が、それを見事にこなしている。時には、彼らの想いが映像を凌駕するほどに熱く、強く、物語からはみ出しているほど(佐藤をはじめとする出演陣は、あえて足りなくさせているピースをどう画面内でにおわせるか、波多野監督と話し合いを重ねてキャラクターを構築していったという)。
佐藤はテロ事件の首謀者とされる男、石田はテロに巻き込まれる女性、西島は事件を追う一匹狼の刑事、中村は謎めいた行動を繰り返すIT起業家。それぞれの想いが交錯し、物語は衝撃的なクライマックスへとなだれ込んでいく。誰もが怪しく、そして誰もに“理由”があるかのよう。それぞれの想いが交錯し、物語は衝撃的なクライマックスへとなだれ込んでいく。
新型コロナウイルスが猛威を振るう2020年。年の瀬が近づいても、終息の気配はまだ見えない。“日常”や“平和”のニュアンスが根底から覆されてしまった今、『サイレント・トーキョー』はある種の運命的なリアリティを付加され、私たちの前に立ちはだかる。
文:SYO
『サイレント・トーキョー』は2020年12月4日(金)より全国公開
Presented by Silent Tokyo Film Partners
『サイレント・トーキョー』
12月24日、東京。恵比寿に爆弾を仕掛けたとTV局に電話が入る。半信半疑で中継に向かった来栖公太は、そこにいた主婦・山口アイコとともに犯人の罠にはまり、実行犯へと仕立てられてゆく。その様子を朝比奈仁が静かに見つめるなか、爆発は起きた。そして次の犯行予告が動画サイトに上げられる。「標的は渋谷・ハチ公前。要求は首相との生対談。期限は午後6時」。独自の捜査を行う刑事・世田志乃夫と泉大輝、不可解な行動をとるIT企業家・須永基樹、イヴの夜を楽しみたい会社員・高梨真奈美、そして一帯を封鎖する警察、事件を一層煽るマスコミ、騒ぎを聞きつけた野次馬たち。様々な思惑が交差する渋谷に“その時”が訪れる。それは、日本中を巻き込む運命のXmasの始まりだった。
制作年: | 2020 |
---|---|
監督: | |
出演: |
2020年12月4日(金)より全国公開