実は黒澤明リスペクト作品!?『閉ざされた森』はトラヴォルタ＆サミュLの再競演に燃えるサスペンスフルなミステリー

この映画はズバリ軍隊版『羅生門』だ！

『閉ざされた森』（2003年）はジョン・トラヴォルタとサミュエル・L・ジャクソンという『パルプ・フィクション』（1994年）なコンビがおくる1本。『パルプ・フィクション』は「チープなお話の時系列をいじくり倒して斬新な感触でお届けする」という構造だが、本作も似たようなベクトルで一筋縄ではいかない作品。筆者的には、なるべく予備知識を入れずに観てもらうのがいちばん良いと思う。

 

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……なんて書くと「なにか仕掛けやどんでん返しがあるの？」なんて勘繰ってしまうのが人の常。「なるべく予備知識を入れずに観るのが良い」なんて書いてる時点でもうすでに地雷は踏んでいるわけで……。とにかく、しっかり紹介すればするほど映画を観たときの衝撃が薄まるというジレンマを抱えている厄介な映画なのだ。

舞台はパナマにある米軍基地。特別訓練中のとあるレンジャー部隊7名が、パナマの密林地帯で消息不明となってしまうところから映画はスタートする。ほどなくして捜索隊のヘリが向かうと、豪雨の密林の中で仲間同士による撃ち合いが起きていた！ そして撃ち合っていた2名は救出され、残りの5名は行方不明。そこで舞台を基地に移し、捜査官が事件を究明すべく生き残りの2名に対し「密林でいったい何が起きたのか？」と尋問をはじめるのだった……。

本作はズバリ言ってしまうと軍隊版『羅生門』。『羅生門』とはもちろん黒澤明監督の『羅生門』（1950年）のことで、ある犯罪が4通りの異なる視点で描かれる作品。海外では映画はもちろんのこと、「ラショーモン」という言葉としても有名で、意味は『羅生門』の内容そのまんま「ひとつの出来事について、その当事者たちの証言がそれぞれ食い違い、矛盾をおこして真相がつかめない状態」のことをいう。そういった「ラショーモン」な語り口の映画や小説を「ラショーモン・スタイル」と呼んだりもする。

本作はそんな『羅生門』の、ほとんどリメイクといってもいいぐらいの影響を受けていて、複数の異なる視点が描かれている。観客はどっちの言い分が正しいのか？ と推理し続け、何度も「はいはい、そういうことね」と推測し、騙され続けてしまうのだ。ちなみに本作は「ラショーモン・スタイル」の適用以外にも、例えばずーっと土砂降りの雨が降りっぱなしというのはモロ『羅生門』だし、『羅生門』でモーリス・ラヴェル作曲の「ボレロ」風の曲（「真砂の証言の場面のボレロ」作曲：早坂文雄）が使われていることにちなみ、オープニングとエンディングに「ボレロ」が使われている。

アクション映画黄金期を代表するジョン・マクティアナン監督の事実上引退作

本作の主人公で事件を捜査することになるのは、ジュリー・オズボーン大尉。演じるのは、DCエクステンデッド・ユニバースでワンダーウーマンの母であるヒッポリタ女王を演じているコニー・ニールセンで、いかにもな“男社会の中で生きる強い女性”だが、素直にとてつもなくカッコいい。そして、オズボーン大尉のサポートをするのがジョン・トラヴォルタ演じる元レンジャー隊員で現DEA捜査官のトム・ハーディ（今となっては同名俳優がいるため大変ややこしい役名）。尋問する側なのに胡散臭さ満点でいつも以上にスカしまくった演技は安定のトラヴォルタ節だ。

 

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そしてサミュエル・L・ジャクソン演じるのは、失踪した部隊を率いたネイサン・ウエスト軍曹。『フルメタル・ジャケット』（1987年）のハートマン軍曹や『地獄の黙示録』（1979年）のキルゴア中佐を彷彿させる、とにかく口汚く罵りまくる鬼軍曹という役柄で、サミュエルお得意の「マザファッカ！」回数はちょっと少なめの2回。ちなみに、ウエスト軍曹がポンチョを羽織っているのは『荒野の用心棒』（1964年）でのクリント・イーストウッドからヒントを得ているのだとか。『荒野の用心棒』は黒澤明の『用心棒』（1961年）が基になっているので、ちょっと遠回りな黒澤リスペクトだったりする。

最後に、監督を勤めたジョン・マクティアナンのことも本作を語る上で欠かせない。マクティアナンといえば『プレデター』（1987年）『ダイ・ハード』（1988年）などの傑作を残した監督で、80年代後半から90年代のアクション映画界にとって最重要人物だった。その証拠に、『スピード』（1994年）、『バットマン フォーエヴァー』（1995年）、『ミッション：インポッシブル』（1996年）、『X-メン』（2000年）、『ターミネーター3』（2003年）などの大作を監督する話もあった。しかし本作を監督した後、2001年に監督した『ローラーボール』のプロデューサーを盗聴した容疑でFBIに証言を求められ、偽証したことで逮捕されてしまう……。

それ以来監督業には復帰していないので、現在『閉ざされた森』はジョン・マクティアナンの事実上引退作なのだ。そんなことを予期していなかったはずなのに、本作は出世作『プレデター』らしさが満載。舞台は同じ北アメリカ大陸の密林だし、そこでたたずむサミュエル・L・ジャクソンは実にプレデター風味ある動きを見せてくれる。というわけで、ミステリー映画ながら『プレデター』ファンにもオススメしておきたい作品だ。

文：市川力夫

『閉ざされた森』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2020年11月放送