ドイツ占領下のワルシャワとパリで猟奇的殺人事件が発生!
『将軍たちの夜』は1967年に制作された、異色の戦争映画です。なにが“異色”かというと戦略や戦闘ではなく、ドイツ占領下のワルシャワとパリという2つの街で起きた猟奇的殺人事件にまつわる人間模様がテーマだからです。そしてタイトルが示すように、容疑者は3人の「将軍たち」です。
この映画は“権力層内の殺人者を追う捜査官映画”であり、しかもピーター・オトゥール、オマー・シャリフ、ドナルド・プレザンス、クリストファー・プラマーら往年の名優の快演&怪演が異様な迫力と不思議な魅力を放つ、異色作にして傑作なのです。
戦時下の殺人事件
「戦争という破壊と殺戮の最中に殺人事件が起きたからって何が問題なんだ?」と思うかもしれません。
たしかに戦争は破壊と暴力の究極の形態です。けれども、国家の政策である戦争と、個人の欲望/衝動の挙げ句の殺人や掠奪は、まったくの別物なのです。戦時下であっても「破壊と暴力の時代だから勝手に何をしてもイイんだ」では決してないのです。さらに言えば、こうした国民国家戦争観を逸脱して他民族殺戮と掠奪に狂奔したからこそ、ナチスはいまなお批判され続けているのです。
ちなみに、ベトナム戦争中のサイゴンを舞台に南ベトナム人娼婦惨殺事件を追うアメリカ陸軍犯罪捜査隊を描く『サイゴン』(1988年)という、やっぱり異色のベトナム戦争映画があります。
そこでの「糞みたいな戦争だけど、俺たちは捜査官としてトコトンやるゾ」という2人(ウィレム・デフォーとグレゴリー・ハインズが好演)の姿は、容疑者が将官であっても捜査官として容赦しない、『将軍たちの夜』のグラウ少佐/中佐(オマー・シャリフ)に相通じるものがあるのではないでしょうか。
ティーガーⅠ重戦車も登場!
俳優陣だけではありません。第二次世界大戦期ドイツ軍の戦闘車両も本物・レプリカ交えて出演、これがイイ味を出しているのです。まず筆頭は、ワルシャワでのレジスタンス掃討作戦に登場するティーガーⅠ(タイガー/虎)重戦車です。
映画でのティーガーⅠは転輪で分かるようにソ連軍のT-34-85を改造したものですが、傾斜装甲が特徴のT-34-85の車体に、ティーガーⅠならではの垂直装甲をスッポリと被せています。そこで車体前面左側の操縦手の視界確保のため、跳ね上げ式ハッチを作って対処していたりして芸が細かい! さらに発砲時には反動による砲身後座も見せてくれたりします。
実のところ、ティーガーⅠの量産開始は1942年夏頃なので劇中の1944年12月に投入されることはないのですが、まぁティーガーⅠはドイツ軍の象徴的存在ということで……。
同じくワルシャワのシーンでは、ドイツ軍装甲車役でBTR152というソ連軍の6輪装甲車もチラっと顔を出しています。これは撮影当時にポーランド軍が装備していたのを借りたのでしょう。
パリのシーンでは『パリは燃えているか』(1966年)にも登場した、アメリカ軍のM24軽戦車改造のパンター(パンサー/豹)戦車が出てきます。このM24改造パンターは、車体規格が違う(24トン対45トン)のでサイズ的にツライものがありますが、それでもパンターの雰囲気タップリと好事家にも高い評価を受けている一品。
アメリカ軍M3ハーフトラック改造のSd.Kfz.251ハーフトラックも、側面装甲を本物のように傾斜させた入魂の作。ちなみにハーフトラックの「トラック」とは、貨物を運ぶ車「トラック(truck)」ではなく「履帯(track)」のことで、ハーフトラックとは前が車輪で後が履帯の車両のことです。
他にも、ドイツ軍のジープ的軽車両のキューベルワーゲンやシュビムワーゲンも本物が出演しているのでお見逃しなく。
ワルシャワとパリ、その運命
撮影は、実際に物語舞台であるワルシャワとパリで行なわれました。
『パリは燃えているか』や『パリよ、永遠に』(2014年)で描かれたように、占領軍司令官コルティッツ将軍の判断で破壊を免れたパリに対し、『戦場のピアニスト』(2002年)や『リベリオン ワルシャワ大攻防戦』(2014年)が描き出したように、ワルシャワは1944年夏にドイツによって徹底的に破壊され、瓦礫の原と化してしまいました。
それを戦後、ポーランドの人々は瓦礫を集め、記録と記憶を元に戦災前のワルシャワの街を復元したのです。だから本作で映し出されるワルシャワの街は、瓦礫から復元された街なのです。
犯人探しモノとしては淡泊な(?)展開の『将軍たちの夜』ですが、挿入されるヒトラー暗殺未遂事件と合わせて、ワルシャワとパリという2つの首都、これらの歴史を想いながら鑑賞すると、また別の味わいがあると思います。
文:大久保義信
『将軍たちの夜』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2020年11月放送
『将軍たちの夜』
1942年、ナチス・ドイツ占領下のワルシャワで、娼婦の惨殺死体が発見された。目撃者によると、犯人はドイツ軍将校の制服姿だったという。情報部のグラウ少佐が調査を進めるうちに、3人のドイツ将校が容疑者として浮上。だが、その矢先にグラウはパリへ左遷されてしまう。
制作年: | 1966 |
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出演: |
CS映画専門チャンネル ムービープラスで2020年11月放送