恋人の親父とタマ(命)の取り合い!
シリアスな物語に似合わない軽快な音楽、ぶっ飛んだ喧嘩シーン、斬新な映像の数々。こんなロシア映画……新鮮!
映画『とっととくたばれ』の主人公は、恋人に“親殺し”を頼まれた青年マトヴェイ。両親のアパートへ招かれた彼は金槌を後ろ手に隠し、警察官でもある恋人の父親アンドレイを襲うタイミングを窺っている。何気ない会話、仕草から二人の警戒心が漲り、やがて怒涛の喧嘩シーンへ!
ド派手なアクション映画ばりの数分間には興奮しました! 映画全編、主にこのアパートの中で進む物語で、上映時間100分というのも実に小気味良い。
恋人の父親を彼氏が殺そうとする、という衝撃シチュエーションのシンプルなお話かと思いきや、この父親、実はとんでもない悪徳警官だった……。次第にわかってくる様々な事実。登場人物が少なく複雑にならない構成はとても分かりやすく、細かく刻むようなカメラワークと軽快な音楽によって間延びしない、とてもポップで見やすい映画です。
ロシアのタランティーノ!? 新鋭監督が魅せるバイオレンスとポップの豪快ミックス
監督は本作が長編デビューとなるロシアの新鋭キリル・ソコロフ。「ロシアのタランティーノかパク・チャヌク」と激賞されているようだけど、僕の印象は少し違う。確かに初期のタランティーノを彷彿させるものの、僕の大好きな監督ヨルゴス・ランティモスを明るくしたような印象も受ける。現実的なようで非現実な歪んだ行動にブラックジョークが乗っかり、思わずクスリと苦笑してしまう。照明の使い方や部屋の壁紙、映像の色の濃さにいたるまでとても美しく、細部にセンスを感じました。
そしてこの映画……血の量が半端ない! スプラッタ映画の父ことハーシェル・ゴードン・ルイス監督もびっくりな流血!! もう殴る、蹴る、噛む、叩きつける、撃つ、と“痛い”描写をこれでもかってくらい詰め込んだゴア指数の高さ。電気ドリルを足にぶっ刺す様は『ドリラー・キラー』(1979年)を彷彿させる衝撃! とはいえ『ホステル』(2005年)みたいに目を背けたくなるような嫌悪感はないのでご安心を。ただし、劇中に登場する変態男の部屋はなかなかヤバかった!
ネタバレを避けながら紹介するのが非常に難しい映画ですが、ゴア描写が苦手な人でも楽しんで見られるんじゃないかなー? どうかなー? いわゆる「汚い、怖い、効果音に頼る」の3K(初めて使いましたが)ではないので、ホラーが苦手な方も楽しく見らるれでしょう。そこは保証します! でも、マトヴェイの一途さが可哀想になってきて……ここは見てのお楽しみですね。オススメです!
文:ゾニー(KING BROTHERS)
『とっととくたばれ』は2020年10月30日(金)より「シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション2020」で上映
『とっととくたばれ』
恋人の父親を殺そうと決意した若者、そう簡単には殺られない筋金入りの悪徳刑事、そんな父親への復讐心を秘めた娘、それぞれの殺意がひとつのアパートメントで激突し、血しぶき舞い散るバイオレンスバトルになだれ込む。
制作年: | 2018 |
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2020年10月30日(金)より「シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション2020」で上映