何がいいって、とにかく明るい!
DCコミック映画の最新作『アクアマン』は、カッコいいヒーローが胸踊る冒険と闘いを繰り広げる映画だ。あえて言うが、それ以上でも以下でもない。それでいいし、そこがいい。
地上人と海底人の“ハーフ”にしてアトランティス王家の血筋、ジェイソン・モモア演じるアクアマンが何しろ魅力的だ。アクションは豪快、テンポは軽快。海底王国のビジュアルも素晴らしい。
いや、何がいいって明るいのである。モモアいわく「この男(アクアマン)は片時もユーモアを忘れない。命がけで戦っている最中でもね」。ここが本当に大事なところで、クリストファー・ノーラン以降のDC映画に足りなかった部分なのだ。
マンガだから、現実にはありえないから面白いということもある
ティム・バートンの『バットマン』(1989年)もそうだったが、DC映画はフランク・ミラーの「バットマン:ダークナイト・リターンズ」の影響下にある。ダークな雰囲気、リアルな設定と深いドラマ性。それは“大人の鑑賞に耐えうる”世界であり、だからこそ大作実写映画化も進んだ。バートンもキャラクターに深い陰影を加えた。
とはいえコミック原作だ。そんなにリアルなドラマにこだわりたいなら、バットマンが題材である必要もない(商売上の理由を除けば)。マンガだから、現実にはありえないから面白いということもあるはずで、たとえばバートン版、ジャック・ニコルソンのジョーカーにはバカバカしい楽しさもあった。『バットマン・リターンズ』(1992年)の巨大なアヒルのおもちゃ、武装ペンギンの行進はコミック原作だからこその画の力があり、それゆえに物悲しかったのだ。
ノーラン版バットマンはリアルだったしドラマ性が高かった。ヒース・レジャーのジョーカーも確かによかった。でも見ていて「じゃあもうバットマンじゃなくていいじゃん。オリジナルの犯罪もの作れば?」と思ったりもしたのである。
『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』(2016年)や『ジャスティス・リーグ』(2017年)になると、もはや“ダークであること”自体が目的になっているように見えた。何かもう、暗ければそれでいいのかという。それって結局、コミックが好きではないんじゃないか。
リアルじゃなくてもダークじゃなくても、ドラマは描ける
と、そういう不満があったところで気合いを入れ直したということか。『ワンダーウーマン』(2017年)で逆襲開始、そして『アクアマン』である。主人公はアトランティス王家の末裔。リアルに、ダークにしようにも限界ってもんがある。それにリアルじゃなくてもダークじゃなくても、ドラマは描ける。深刻ぶる必要なんてないってことだ。
アトランティスのデザインに至っては、画面そのものが明るい。モチーフは「生物発光という現象や蛍光を発するサンゴ」とのこと。こちらとしては、とにかく目を奪われていればいい。それでも登場人物の心情はしっかり伝わる。脇を固めるのはニコール・キッドマンにウィレム・デフォー、加えていま最も旬な俳優と化したドルフ・ラングレン。隙なしの布陣と言っていいだろう。
日本での宣伝展開も、ジェームズ・ワンを『ワイルド・スピード SKY MISSION』(2015年)の監督として押し出し、海中バトルを強調。頭よく見られようという気が皆無なのも正解だ。これまでのDCヒーローが性格俳優志向だったとすれば、アクアマンは千両役者。ラストカットには思わず拍手したくなる。
『アクアマン』は2019年2月8日(金)より全国ロードショー