本当に好きなことなら独学で自由にやればいい
自分は音楽を聴きながらワイワイやるのが好きなのですが、それに持ってこいな状況を作り出してくれるのがDJの存在だと思っています。なので、そんな気分の時はクラブに遊びに行くのですが、それぞれが嫌な思いをしないように尊重しあってさえいれば基本的に自由な雰囲気があり、他に代えがたい良さがあります。
なぜそういう解放的な空間になりやすいかについてはクラブカルチャーの歴史を詳しく解説してある本に譲るとして、映画『とんかつDJアゲ太郎』で伊勢谷友介が演じるDJオイリーが「DJは教わるものではなく独学で自由にやったらいい」と言っているように、DJについても決まったやり方はなく、それぞれが考えてやるのがいいという認識がこの映画の世界の中にもあるようでした。
しかし、主人公アゲ太郎(北村匠海)の誤解と暴走によって「DJ道」的な物語が展開されていきます。「とんかつとDJは同じ」と思い込むことによって、料理人が修行を経て立派に独り立ちして行くのと同じ図式がDJに持ち込まれ、技術の向上や、DJとはなんぞや? について探求しながら、いつの間にかDJオイリーも加わってアゲ太郎が一人前に育っていく、という物語です。
原作漫画のコミカルさを忠実に実写化! 数々の名曲が物語を彩る
アゲ太郎の考える“DJ”の中心にはいつも“とんかつ”があり、彼がDJについて考える際は、ほぼ確実にとんかつのビジュアルがクロスオーバーします。単にとんかつだけでなく、機材や衣装に至るまでその影響は及びます。その表現にも大きく関わっている美術はかわいらしく、所々に遊び心もあって、原作漫画のコミカルさをそのまま実写化しているようで良かったです。
特に旅館の地下にある、アゲ太郎とその仲間たちが使っている秘密基地的な場所にはとてもワクワクしました。DJ中の映像については幻覚を見ているような演出なのですが、実際に渋谷にあるクラブで撮影されているんだよなと我にかえり、撮影風景を想像してとても奇妙な感覚になりました。
劇中で使用される楽曲は、誰もがクラブで一度は聴いたことがあるんじゃないかと思えるものばかりで、とてもしっくりくる選曲になっています。個人的にとても好きで、思い出の曲でもあるベリンダ・カーライルの「Heaven Is A Place On Earth」は聴くたびに涙腺にくるのですが、本作の重要なシーンで流れたときも思わず泣きそうになりました。
DJについて全く知らない人には入り口として、慣れ親しんでいる人には『少林サッカー』(2001年)や『デトロイト・メタル・シティ』(2008年)的な現実を漫画的な方向に拡張した作品として、楽しめるんじゃないかと思いました。
文:川辺素(ミツメ)
『とんかつDJアゲ太郎』は2020年10月30日(金)より公開
『とんかつDJアゲ太郎』
とんかつ屋3代目の跡取り息子・アゲ太郎。とんかつもフロアもアゲられる「とんかつ DJ」を目指そうとする! すべては一目惚れした苑子ちゃんの心を射止めるために――。
でも、豚肉にもDJ機材にも触ったことがないアゲ太郎。いい加減な性格のDJオイリーに弟子入りしたり、大人気DJ屋敷を勝手にライバル視しちゃったり、ノーテンキなアゲ太郎の道のりは、一に勢い、二に勘違い、三に運命の出会い? と大ハプニングだらけ!
制作年: | 2020 |
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監督: | |
出演: |
2020年10月30日(金)より公開