2019年2月8日(金)から公開中の『We Margiela マルジェラと私たち』は、メディア露出を避け多くの謎に包まれているマルジェラに迫ったドキュメンタリー 。西宮を拠点に活動するガレージロックバンド、キングブラザーズのゾニーに、この映画から感じ取ったモノについて語ってもらった。
小ぎれいなコンサバ時代に異なる美しさを投げかけたマルジェラ
『We Margiela マルジェラと私たち』を観ながら、バンドマンはこのドキュメンタリーに共感できる、と感じた。とはいえファッションブランドに疎い僕は、知り合いのスタイリストさんに「マルジェラとは?」と相談した。
「彼がデビューした80年代終わりはそれまでの派手なディスコファッションから、90年代のニューヨークコレクションのカルバン・クライン、ラルフローレンなどに代表されるシンプルでクールなラグジュアリーファッションに移行した時代。そんな綺麗でコンサバなファッション時代に違う美しさを投げかけたのがマルタン・マルジェラ。コム デ ギャルソンの川久保玲やワイズの山本耀司らに影響受けて、さらに実験的で哲学的なファッションを打ち出した。ポッシュなファッション業界にアンチテーゼとして現れたのが、彼を始めとするアントワープの6人(※1)」
マルジェラは、とても“バンド的”だと感じた
多くの謎に包まれたマルジェラ。なぜ彼は姿を消したのか? なぜマルジェラは数人いるのか? なぜ“そもそも存在しているのか”とまで噂されたのか?
『We Margiela マルジェラと私たち』は、共同創立者であるジェニー・メイレンスを中心に、彼に関わってきた様々な人物の証言から「We Margiela」が見えてくる作品。「We」とは?「マルジェラ」とは? 決してファッションの話ではなく、そこに存在した「マルジェラ」はとても“バンド的”だと感じた。
「セクト(宗教)」と呼ばれるその会社には情熱があった。皆、研究員みたく白衣を着て写真に写っている。真ん中には黒い服を着たジェニー。その隣には誰も座っていない椅子がある。
本作の中で「真の先見者たちは理由も場所も知らず、奥深い情熱に到達して創造する。出来事が起こる前に予期するのだ」という言葉が出てきて、ふと5年前にメンフィスの路上でライブしたことを思い出した。そこでのライブを予期していたのかは知らないが、僕らのライブを見ながら10歳に満たない子どもが歯を食いしばって腕をプルプルさせていた。
きっと彼は帰ってギターを買っただろう。もしかすると、未来のロックスターが誕生した瞬間だったのかも。
モノづくりの孤独、資本主義とクリエイティビティ、情熱……
真に何かを伝える時は深く熱い情熱が必要だと思う。そこには断固たるモノが必要で、映画を観ながらそんなことを思っていた。
「この映画で定義すべきなのは“私たち”がいる場所だ」
会社が大きくなるにつれて、それまでのクリエイティブ先行だけでは発展の見込みが立たず、苦悩するスタッフたちの孤独。ジェニー、そしてマルジェラの孤独。商業的に行うこと、クリエイティブに進むこと、情熱とは? ……この映画を観て、その答えを深く考えている。
(※1)アントワープの6人:アントワープ王立芸術学院出身のファッションデザイナー(アン・ドゥムルメステール、ウォルター・ヴァン・ベイレンドンク、ダーク・ヴァン・セーヌ、ダーク・ビッケンバーグ、ドリス・ヴァン・ノッテン、マリナ・イー)の総称
文:ゾニー(KING BROTHERS)
『We Margiela マルジェラと私たち』は2019年2月8日(金)よりBunkamuraル・シネマほか全国順次公開
『We Margiela マルジェラと私たち』
ファッショニスタから熱烈に支持され、メディアには匿名性を貫いた「メゾン マルタン マルジェラ」のデザイナー、マルタン・マルジェラ。1997年~2003年にはエルメスのウィメンズ・プレタポルテのデザインも手がけ、ファッションの最先端を築いたマルジェラだが、2009年、表舞台から突然姿を消した。
挑発的でコンセプチュアルな作品群を発表するマルジェラ自身はどんな人物だったのか。初のドキュメンタリーとなる本作では、彼と共に一時代を築いたメイレンスやクリエイティブチームの「私たち」が激動の20年間と、謎に包まれたままファッション業界を去った異端児について初めて語り出す。
「私たち」がタグの代わりにした白い布に込めた意味とは?
制作年: | 2017 |
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監督: |