謎に包まれた英国の一大ムーブメント“ノーザン・ソウル”
もう40年以上前の話ですが、デヴィッド・ボウイ、ザ・フーのピート・タウンゼントが「イギリスでモッズ以降の一番興味深いユース・カルチャーはノーザン・ソウルだ」と言っていた。これくらい大事なムーブメントなのに、その存在は謎に包まれている。
音楽に詳しい人なら「ノーザン・ソウルね、モータウンなんかの都会的な洗練されたソウル・ミュージックでしょ」と言われると思うが、イギリスで派生したノーザン・ソウルはアメリカで言うノーザン・ソウルとは少し違う。
派生したと言っても、イギリスの若い子たちがアメリカのソウルを聴いて、「俺たちもあんなのやるぜ」と独自の音楽を作ったわけでもない。イギリスのDJがわざわざアメリカに行って、レコード店やレコード会社の倉庫の片隅に忘れ去られたレコードを探して来て、「どうだお前ら、こんないい曲知らないだろ、これが俺の熱い思いだ、食らえ」と回していたのです。
しかもイギリス全土ではなく、ウィガンやブラックプールといったイギリスの北部を中心に流行っていたわけです。イギリス南部にはキャンビー・アイランドのソウル・ボーイ、ソウル・ガールと呼ばれたサザン・ソウルのシーンもあるのですが、この映画を観るまでほとんどの人たちは、イギリスの若者たちは一体何をやっていたのだと思うでしょう。
今で言うと、日本の70年代、80年代のシティ・ポップを探してきて、当時の日本のCMやテレビ番組をコラージュしてYouTubeにアップしている人たちですね。この人たちはレッドブルを飲みながらですが、ノーザン・ソウルの若者たちはモッズ時代から受け継がれているアンフェタミンというドラッグで、毎週オールナイトで踊っていたのです。そんなムーブメントを映画化したのが『ノーザン・ソウル』です。
こんな人たちが映画になるのかとお思いでしょうが、これが大傑作なのです。ノーザン・ソウルに関しては今作の前に『ソウル・ボーイ(原題)』(2010)と言う映画も作られているんですが、今作の熱量は『ソウル・ボーイ(原題)』の何百倍も熱い。それはエレイン・コンスタンティン監督の実体験から来ているからでしょう。
英ファッションのハイブランドも、ノーザン・ソウルの重要性を分かっている
イギリスを代表する写真家ニック・ナイトの弟子で、ヴァニティ・フェア、ヴォーグなどの一流雑誌、グッチ、ヴィヴィアン・ウエストウッド、バーバリーなどの撮影をしていた女性ファッション・フォトグラファーの初監督作品です。映画化するのに出資者が集まらず15年もの歳月をかけ、個人投資家と監督の資産をつぎ込んで作られたのです。
ポール・スミスもノーザン・ソウルのファッションのティストを自分のブランドに取り入れてましたが、ファッション関係の人たちにとってもノーザン・ソウルは重要なムーブメントなのです。メインカルチャー、ハイカルチャーとは違った大衆文化サブカルチャーの大事さをよく分かっている人たちにとってノーザン・ソウルが何だったか語っていくことはとっても重要なことなのです。
この映画には若者の夢が崩れ去る以上の快楽がある
もちろん二人の主人公にとって自分たちが大衆文化の戦士だとかそんなことはどうでもいいことです。演じたエリオット・ジェームズ・ラングリッジ、ジョシュ・ホワイトハウスの初々しい演技を見ていると、この楽しさが永遠に続けばいいのにと願います。もちろん、こういう映画にありがちな夢みる若者が落ちていくんだろうなという展開は見えてくるんですけど、それを超える快感がこの映画にはあるのです。
『ノーザン・ソウル』が日本でどういう評価を得ていくのか全く分からないですが、僕にとっては『サタデー・ナイト・フィーバー』(1977)、『さらば青春の光』(1979)などを超える青春映画です。
『ノーザン・ソウル』は2019年2月9日(土)より新宿シネマカリテ、神戸・元町映画館ほかにてロードショー
文:久保憲司
『ノーザン・ソウル』
1960年代にイングランド北部のワーキング・クラスの若者から生まれ、後のレイヴ・カルチャーなどに影響を与えた音楽ムーヴメント“NORTHERN SOUL”。その最盛期である70年代を舞台に、“NORTHERN SOUL”に魅了された青年たちの成長を描く青春物語。ユース・カルチャーの描写に定評がある人気ファッション・フォトグラファー、エレイン・コンスタンティンが70年代に彼女自身も熱烈な“NORTHERN SOUL”フォロワーとして体験した当時の熱狂を、あまりにもリアルに初監督作品でスクリーンに蘇らせる!
制作年: | 2014 |
---|---|
監督: | |
出演: |