ノルマンディー上陸作戦 75周年記念作品! アサイラム製ミリタリー・アクション
もはや言わずと知れた米国の映画製作及び配給会社、アサイラム。日本においてはSFアクション映画やパニック映画、どこかで見たようなモックバスター作品や、『シャークネード』(2013年)に代表されるサメ映画の印象が強いスタジオかもしれない。
が、このアサイラム、なにもサメの頭が増えたり空を飛んだりする映画ばかりを作り続けているわけではない。ときとして彼らは、そこそこかわいらしいCGアニメーションや、適度にお下劣ながらも甘酸っぱい青春ラブ・コメディ、はたまた硬派な戦争物にまで着手する。本作こと『D-デイ ノルマンディー1944』(2019年)も、そのアサイラムが史実を基に製作した戦争物の一本にして、“ノルマンディー上陸作戦75周年記念作品”である。
というわけで今回はいつもと少しばかり毛色が違う、アサイラム製ミリタリー・アクションについて紹介していこう。ただし、例によって過度の期待は禁物だ。
ニコケイの息子や『エクスペンダブルズ』のランディ・クートゥアが出演!
1944年6月6日、アメリカ合衆国陸軍のジェームズ・アール・ラダー中佐は、ナチス・ドイツが保有する6門の155ミリ砲を破壊すべく、第2レンジャー大隊を率いてノルマンディー上陸作戦に挑む。多数の死傷者を出しながらも、かろうじて断崖を登り海岸防御陣地を制圧した一同。しかし、肝心の155ミリ砲はそこに存在していなかった。ある者は死に、またある者は病み、そして部隊全体が徐々に疲弊していく中で、ラダー中佐は目標を探し作戦を続行するが……。
というのが、本作の概要である。史実から特に「敵要塞内の砲台の発見と破壊」に関する部分をピックアップしたストーリーであり、それ以外の歴史的諸要素には少なからず改変なり省略なりの措置が加えられている、という点については注意していただきたい。
監督は『バトル・オブ・バミューダトライアングル』(2014年)や『オペレーション・ダンケルク』(2017年)などのアサイラム作品で知られるニック・ライオン。ホラーにディザスター・パニック、アクションから戦争物と、幅広いジャンルを手掛けている人物だ。
キャストには『エクスペンダブルズ』シリーズ(2010年~)でトール・ロードを演じた元総合格闘家ランディ・クートゥアや、同じく元総合格闘家のチャック・リデル、あのニコラス・ケイジの息子として知られるウェストン・ケイジ・コッポラなどが名を連ねている。
過剰に期待さえしなければ、アサイラム作品群のなかでは異色の一品として楽しめる
さて、この『D-デイ ノルマンディー1944』だが、「アサイラム作品にしては」すこぶるシリアスでまともに見られるアクション映画である。もちろん、「アサイラム云々を抜きにした、一本の戦争物としては」かなり安っぽいという点は否めない。そこそこ人数を揃えてはいるものの、ノルマンディー上陸作戦を描き切るには絶対的にエキストラが足りておらず、戦争の悲惨さよりもむしろ寒々しい低予算感の方が漂ってくる海岸。登場人物のいかにも空々しく芝居がかった演説と、すかしたユーモアを交えた、ちょっぴり鼻につく語り。そういった会話劇すら、やや間延びしてくる中盤付近。これらを無視して本作を語ることはできない。
しかし一方で、展開には必要最低限の緩急があり、絵面はチープながらきちんと戦争物として話は進んでおり、登場人物は皆それなりに個性的で、脚本もシンプルにまとまっている。「本来、映画としては基本的なことばかりを長所として並べ立てている」と言われれば、それまでではある。とはいえ、冗長かつ凡庸なあまり特筆すべき点が見つからなかったり、逆に内容が支離滅裂で頭を抱えたりすることも多いアサイラム作品群の中では、本作はかなり「がんばっている」部類に入るだろう。
なにか本格的なノンフィクション超大作だと勘違いしてしまった方や、まじめな歴史好き・軍事好きの方にとっては、本作は許しがたい一本になるかもしれない。一方で、『シャークネード』を含むサメ映画からアサイラム作品全般に手を出し始めた低予算映画ファンの方にとっては、本作は良くも悪くもアサイラムの少し違った一面を知る、またとない機会になるはずだ。
文:知的風ハット
『D-デイ ノルマンディー1944』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2020年10月放送
https://www.youtube.com/watch?v=OXcQZQ5aP0c