期待値爆アゲ! メルギブ&ペン主演でタイトル『博士と狂人』
ショーン・ペンとメル・ギブソンという普段の素行になかなか問題のある二人が初共演する『博士と狂人』は、 アカデミー賞受賞コンビの名演が堪能できる実話に基づいた歴史ヒューマンドラマ。19世紀中頃のイギリスを舞台に、<オックスフォード英語大辞典>の編纂という大仕事をめぐるドラマチックな出来事をメル・ギブソンとショーン・ペンのW主演で描く、サイモン・ウィンチェスターによるベストセラー・ノンフィクションの映画化作品だ。
この二人が主演する『博士と狂人』(原題もズバリ『THE PROFESSOR AND THE MADMAN』)と聞けば、誰もが「メルギブが狂人を演じるのか」と予想するかと思うが、残念ながら(?)彼が演じるのは博士のほう。スコットランド出身の言語学博士ジェームズ・マレーを演じるメルギブは、『ブレイブハート』(1995年)で披露した訛りスキルを控えめに発揮しつつ、貧しさのため独学で言語学博士になった努力の人マレーを好演。いっぽう、ペン演じるウィリアム・チェスター・マイナーは南北戦争時のトラウマから妄想に取り憑かれるようになった元軍医で、勢い余って見知らぬ男を殺害してしまった罪で逮捕されるも、心神喪失を理由に死刑を免れ投獄された人である。
ペン渾身のクレイジー演技が炸裂! それをメルギブが真正面から受け止める!!
物語は、辞書の編纂を任されるマレーと刑務所でハッスルするマイナー、それぞれの事情をしっかり描きながら、やがて“言葉集め”の過程で二人が邂逅していく……というのが基本構成。人員不足と予想以上に困難を極める作業に焦るマレーに、突発的な事故から看守の命を救ったことで刑務所内で信頼を得たマイナーが協力を申し出るのだ。
辞書の作成に市井の人々の協力を得ようとするところなどは韓国映画『マルモイ ことばあつめ』(2019年)と通じる部分もあるが、本作では編纂作業に伴うカタルシスはあえて捨てていて、思わぬ横やりや個々の苦難のほうをバシバシ叩き込んでくる仕様。
言葉のスペシャリストであるマレーと医師のマイナーが主人公だけあって、聖書からの引用など堅苦しい台詞がかわされたりもするが、二人のおじさんのいびつな友情、そして近いようで果てしなく遠い愛情の物語として楽しめばOK。マイナーからは「悪霊がついた鼻毛」などパンチのきいた妄言も飛び出すし、ペンの鬼気迫る演技は問答無用で感情を揺さぶってくる。言葉を収集する作業が“悪霊”に怯えていたマイナーにセラピーのような効果をもたらすも、殺人犯が編纂に関わっていることが知られ大問題に発展! などというスリリング展開も盛り込まれ、飽きることなく引き込まれる。
ある意味、二人とも狂人!? 頑固おじさんたちを支える豪華キャストにも注目
現代の日本人も当たり前のように使っている英単語を含め、見下されていた俗語に至るまであらゆる単語を収録しようとしたマレーは、言葉は時代を経て変化していくものだという先見性があったのだろう。そんなマレーを献身的に支える妻エイダ(ジェニファー・イーリー)も文句一つ言わず……みたいなステレオタイプに陥らないように、不安や不満も爆発させる深みのある人物として描写。夫を殺したマイナーの贖罪を受け入れられず苦悩する未亡人イライザ(ナタリー・ドーマー)もかなり重要な役どころで、頑固なおっさん二人ではなし得なかった偉業であることが強調される。
また、マイナーに協力する看守を演じるエディー・マーサンや、『ファンタスティック・フォー』シリーズ(2005~2007年)のヨアン・グリフィズ、イギリスの名優スティーヴ・クーガンなどなど、あ、この俳優さん見たことある! なバイプレーヤーたちが顔を揃えていて、映画/ドラマ好きならばキャストだけでグッとくること請け合い。複雑ないざこざにより監督が変名でクレジットされていたりと紆余曲折もあったようだが、濃いいキャラクターが登場する伝記ドラマが好きならば観ておいて損はない隠れた大作だ。
『博士と狂人』
19世紀、独学で言語学博士となったマレーは、オックスフォード大学で英語辞典編纂計画の中心にいた。シェイクスピアの時代まで遡り、すべての言葉を収録するという無謀ともいえるプロジェクトが困難を極める中、博士に大量の資料を送ってくる謎の協力者が現れる。その協力者とは、殺人を犯し精神病院に収監されていたアメリカ人、マイナーだった――。
制作年: | 2018 |
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監督: | |
出演: |
2020年10月16日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷ほか全国公開