ロングランを記録したカルトミュージカルのパイオニア!
2020年もハロウィンの季節が近づいてきた。残念ながら新型コロナウイルスの影響で例年のような盛り上がりはなさそうだが、ハロウィン=コスプレという文化はすっかり日本でも定着している。ある限定された時間や空間で、ふだんの自分とはまったく違う姿に変身して、日常のウップンを晴らす。コスプレ効果は絶対に、ある……はず!
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そんなコスプレ文化に早くから貢献した映画がある。『ロッキー・ホラー・ショー』(1975年)だ。1973年にロンドンで開幕したこのミュージカルは、ジム・シャーマン演出で、リチャード・オブライエンの作詞・作曲。両者とも当時は無名に近かったが、この『ロッキー・ホラー・ショー』の常識ハズレな世界観は、徐々にロンドンの目の肥えたミュージカルファンを虜にして、7年ものロングランを記録する。
その常識ハズレな世界とは……婚約を決めた若いカップル、ブラッドとジャネットが車で走行中、暴風雨に遭って謎の古城にたどり着く物語。城には、トランスヴェスタイト(異性装)のマッドサイエンティスト、フランクン・フルターが人造人間の実験を行なっていた。城内はフランクン博士以外にも奇妙なキャラクターばかりで、ブラッドとジャネットは彼らの狂乱に巻き込まれていく。
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きわどい描写も多数のストーリーが、歌とともに怪しく、楽しく展開。要所では派手なダンスも繰り広げられ、カルトミュージカルのパイオニアとなった『ロッキー・ホラー・ショー』。もともとミュージカルは、日常とかけ離れた世界へ連れて行ってくれるので、その役割を最大限に駆使した作品と言ってもよさそうだ。
どのキャラクターも超個性的でコスプレしがいあり! 参加型上映がウケて大ヒット
そんな舞台初演から、わずか2年後に映画版が完成。人気ミュージカルの映画化といえば、最近の例だと『シカゴ』(2002年)が27年、『オペラ座の怪人』(2004年)が18年、『レ・ミゼラブル』(2012年)が27年、『キャッツ』(2019年)が38年と、舞台初演から長い道のりになっている。『ロッキー・ホラー・ショー』は異例のスピードで映画になったわけだ。前年の1974年、ロックオペラとも呼べるミュージカル映画『ファントム・オブ・パラダイス』(ブライアン・デ・パルマ監督)が話題を集め、その流れにも乗ったのだろうが、映画化の速効性が災いしたのか、残念ながら1975年の公開時、集客はイマひとつ。というか、壊滅的。このまま映画史から消えてしまう作品になりかけた『ロッキー・ホラー・ショー』が復活をとげるのが、1976年、ニューヨークで始まったミッドナイト上映である。
1978年から会場がニューヨーク8丁目のプレイハウスに移り、週末の金・土の夜の上映ではコスプレした観客が殺到。『ロッキー・ホラー・ショー』はニューヨークの「名物」になっていく。上映中には、観客がスクリーンに向かって米(コメ)を投げ、野次をとばし、雨のシーンでは水鉄砲で水をまき、濡れないように新聞紙を頭にのせるなど、まさに「観客参加型」スタイルが定着。近年、日本でも映画の「応援上映」が話題になるが、その元祖なのである。極めつけは、劇中のダンスナンバー「タイムワープ」のシーンで、コスプレした観客がスクリーン前に並んで登場人物たちと一緒に踊る。この一部始終が1980年の映画『フェーム』で描かれたことで、さらに知られるようになり、プレイハウスには世界中から観光客が集まるようになった。
このコスプレ&観客参加上映は他の国々にも広まり、日本でも1988年、渋谷のシネマライズのレイトショーで初めて開催。ちょうどその翌年の1989年、雑誌「フライデー」がハロウィンで仮装した外国人が山手線で大騒ぎする記事を出しているので、このあたりから、日本のハロウィンブームの火種が生まれたというのは、考えすぎ?
『ロッキー・ホラー・ショー』で最もコスプレをしてインパクトがあるのは、やはりフランクン博士。過剰なメイクアップにボンテージ的な下着ファッション。これ以上、インパクトの強い外見はないだろう。その他にも爆発したような髪型のマジェンタ、金ピカのパーティー用帽子をかぶったコロンビア、パンツ1枚のムキムキな人造人間ロッキーなど、各自の好みでコスプレしがいのあるキャラクターばかり登場するのが、『ロッキー・ホラー・ショー』の魅力だ。
2020年のハロウィンはどうなる? 後年の作品にも多大な影響を与えた偉大なミュージカル映画を改めて鑑賞しよう。
ドラマ『glee/グリー』(2009~2015年)では、2011年のシーズン2でまるまる1つのエピソードで『ロッキー・ホラー・ショー』を再現し、映画のオリジナルキャストもゲスト出演。2012年の映画『ウォールフラワー』ではエズラ・ミラーがフランクン博士になりきるなど、伝説は受け継がれている。
では、ミュージカルとしてはどうなのか? みんなで踊る「タイムワープ」などノリの良さを中心にしたロックナンバーから、バラード風の哀切な曲まで全体にバランス感があり、一度聴いたら耳に残るフレーズも多数。さらに作詞・作曲を手がけたリチャード・オブライエンが、ミュージカルであること以上にこだわったのがSF映画やB級ホラーへの愛で、人造人間やマジェンタのキャラがオマージュを捧げた『フランケンシュタインの花嫁』(1935年)をはじめ、マニアックな引用を発見する楽しみに溢れている。何度観ても、その発見が味わい深いのが『ロッキー・ホラー・ショー』なのである。
こうして現在に至るまで、ハロウィンに合わせてイベント的上映も行われ続けている『ロッキー・ホラー・ショー』。さすがに2020年は大々的なハロウィン・パーティーを開催するのは難しいとは思うけれど、ぜひ今こそ観直してもらいたい。半世紀(!)近く経っても古びないそのセンスに、いろんな意味で衝撃を受けるはずだから!
文:斉藤博昭
『ロッキー・ホラー・ショー』はAmazon Prime Videoほか配信中
『ロッキー・ホラー・ショー』
平凡な若いカップルが不気味な城へ迷い込んだ。その城の主はフランクン・フルター。トランスセクシャル星(性別のない星)からやってきたご乱心の科学博士。そのとき城内では、博士の愛と夢の結晶、人造人間ロッキーが誕生しようとしていた。
制作年: | 1975 |
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監督: | |
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