超人的な英雄は登場しない正攻法な航空パニック
本国で大ヒットを記録した航空パニック『フライト・キャプテン 高度1万メートル、奇跡の実話』が2020年10月2日(金)より公開中だ。
タイトル通り、2018年に実際に起きた事件の映画化だ。重慶からチベット・ラサに飛ぶ旅客機、その操縦室の窓が突然、大破。副操縦士の上半身が窓の外に投げ出されてしまう。
窓の外は氷点下30度。機内の気圧も失われる。極限状態の中で機長、クルーたちが取った選択とは?
……というストーリーからも分かるように、非常にベーシックというか正攻法な航空パニックである。大がかりなセットを使って撮影されたという機内の大混乱ぶりは、かなりの迫力。自分が経験した乱気流による揺れを(体が)思い出したりもした。
タイトルが『フライト・キャプテン』で原題も『中国機長』だから、主人公であるリュー機長(『マンハント』[2017年]のチャン・ハンユー)の超人的、英雄的な活躍を描くものだと思われるだろう。だが実際には、この英雄譚の英雄は1人ではない。
あくまで実話ベースでリアル志向! 航空業界の“プロ”たちを丹念に描く
『インファナル・アフェア』(2002年)で知られるアンドリュー・ラウ監督は、フライト前の様子を手際よく、かつ丹念に描き出す。機長の朝のルーティン、フライト前のミーティングや食事、機内での準備、それに管制室。
ことが終わってからの描写も丁寧だ。たとえばタラップを降りる乗客の姿を映して「めでたしめでたし」ではない。調査員が操縦室を点検する場面もある。機長と同じくらい、客室乗務員も活躍する。
つまり本作の主人公、英雄たる存在は航空業界に携わるチーム全員だ。乗客の命を最優先し、安全な運航のために全力を尽くすプロフェッショナルたちである。
そうしたところからリアル志向であり、あくまで実話ベース。「機長が倒れCAが旅客機を操縦」とか、そういった突飛なことは起こらない。めちゃくちゃなトラブルを巻き起こす迷惑な乗客もいない。そうなりそうな場面はあるのだが、ほどよく収まる。それが実話というものだ。
建国70周年記念、<中国の誇り三部作>の一本(『ブレイブ 大都市焼失』[2019年]ほか)ということで愛国的な感じに「あぁ……」となったりもするのだが(そういう中国映画は他にもある)、それはそれとしてというか、映画の“本線”を邪魔するところまではいかない。パニック大作ながら、抑えるところは抑えているのがこの映画の長所だろう。
文:橋本宗洋
『フライト・キャプテン 高度1万メートル、奇跡の実話』は2020年10月2日(金)よりシネマート新宿・心斎橋ほか順次公開
『フライト・キャプテン 高度1万メートル、奇跡の実話』
2018年5月14日。重慶市からラサに向かう四川航空3U8633便。リュー機長をはじめとする9名のクルーは、乗客119名を乗せて飛び立った。当初フライトは順調かに思えた。しかし、地上1万メートルの高空を飛行する中、突如操縦室のフロントガラスにひびが入り、瞬く間に大破。副操縦士のチェンの体が外に投げ出される。辛うじてチェンの体を掴んだリュー機長だったが、氷点下30度の冷風が前方から激しく吹き込み、圧力を失った操縦室は自動操縦も不可能になる。激しく揺れる機体に、クルーたちの制止も虚しく乗客たちはパニックとなるが、それはまだ、その先に待ち受ける空前の危機の序章に過ぎなかった―。
制作年: | 2019 |
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監督: | |
出演: |
2020年10月2日(金)よりシネマート新宿・心斎橋ほか順次公開