2019年秋に公開された初主演作『おいしい家族』以降、松本穂香の快進撃が止まらない。その後の『わたしは光をにぎっている』(2019年)、『酔うと化け物になる父がつらい』(2019年)、『君が世界のはじまり』(2020年)に連なる主演第5作目の映画が、角川春樹監督による大作『みをつくし料理帖』だ。御歳78歳のレジェンドが生涯最後の監督作として主演を託し、かつ20代の若手監督たちからも厚い信頼を寄せられるというこの振れ幅は何だろう。じっくり話を聞いてみた。
「撮影が終わって振り返ってみたら、すごい役だったんだなと思います」
―主演作『みをつくし料理帖』拝見しました。端から端までスターだらけで、ここまで超豪華な作品も珍しいですね。
そうですね。ベテランの方がたくさん出てくださっていて。薬師丸(ひろ子)さんとかも、1日で全部撮ったり。松山ケンイチさんや反町(隆史)さんもワンシーンだけ登場したりしますから、すごい作品だったんだなと改めて感じています。
―角川春樹さんの10年ぶりの監督作品であり、ご自身でも「最後の監督作だ」と公言していらっしゃるということで、プレッシャーもあったかと思います。
角川さんと最初にお話ししたときから、「最後の作品にしたいから、全て揃える」ということをおっしゃっていて。キャストもそうだし、歌もそうだし、スタッフもそうだしっていうのをおっしゃっていたので、その作品の主役というのは、やっぱりいろいろプレッシャーもありました。撮影中は、そこをいろいろ考え出したらあまり良くないことになりそうだなと思っていたので、意識しないことを意識していましたね。
―あまり余計なことを考えないようにしようと?
はい。いま撮影が終わって振り返って考えてみたら、やっぱりすごい役だったんだなと思います。
―かつての角川映画を観たことはありましたか?
まったく観ていなかったんですが、観ない方がいいだろうなと思って、あえて観ないようにしていました。いろんな伝説があるとか、周りの方もおっしゃっていましたが、あえて調べないようにして。変に気負ってしまうような気がしたので、これまでお仕事させていただいた監督さんたちと同じような距離感でやりたいなって。本当に、普通に“角川監督”として接していました。
―撮影前に何か言われたことなどはありましたか?
「そのまんま演じてほしい」っていう……役になりきるというよりは、「穂香がその時代にいたらどうなのか、穂香のまま演じてほしい」ということと、「他の人のセリフが言えるほど(脚本を)読み込んできてほしい」ということは言われました。
「同世代の若い監督の皆さんは、周囲が協力したくなるような熱や勢いを持っている」
―今作に至るまで、ここ1年間で主演作がすごく続いてますよね。角川春樹さんから若手まで、松本さんに主演を託す監督が増えてることに対して思うことはありますか?
ふくだももこ監督は20代の若い監督さんなんですが、2作(『おいしい家族』『君が世界のはじまり』)とも主演で撮ってくださっていて、これからも撮りたいと言っていただけるのは一番嬉しいです。
―同世代の監督も出てきているんですね。
多いですね。中川龍太郎監督(『私は光をにぎっている』)は、撮っていただいたときはまだ20代でした。またお声がけくださっているので、そういうのが一番嬉しいですね。(最近は)本当に若い監督さんが多いです。映画に限らず、松本花奈監督は私より年下で、最初に撮ってくださったときは20歳でした。それなのにもうドラマの監督をされていて、最近もまた違うドラマのゲストで松本監督に撮っていただけたりだとか、若い監督の方々と今すごく仕事する機会が増えていて。二宮健監督もそうです。そういう若い監督さんとのつながりはけっこうある気がします。
―ちょうど今、そういった若い監督さんが出てくるタイミングなのかもしれないですね。
そうですね。ふくだ監督とは……おこがましいかもしれませんが「一緒に頑張っていきたい」というか。少しずつ一緒に成長できたらなぁと、2作目が終わった時に感じました。
―松本さんから見て、20代の監督特有の感覚みたいなものを感じ取れるところはありますか?
うーん、皆さん“美しい心”を持っているなと。
―美しい心!
なんだろう……例えばふくだ監督とかは近くで見ていて、一緒にやりたい方とやれているのがすごいなと思っていて。それはふくださんの人柄とか、ふくださんが言うことに付いていきたい、とみんなが思う。信頼されているからこそ、ふくださんがやりたいことがいろいろ叶っていると思いますし、それが映画にもすごく現れているので。一人一人がしっかり描かれていて、ちゃんと愛情を持っているからこそ、そうできるんだろうなって。
若い方々の勢いっていうのは、映画に対する情熱みたいなもの、きっと若さ特有のものというか、熱を感じてみんな協力したくなるような。「この人が言うなら大丈夫か」と思わせるような何かが、きっと中川さんやふくださんとかにはあるんじゃないかなと思います。
―なるほど。そういう風に思える方々が、ちょうど同世代に出てきているというのはすごくラッキーというか、良いことですよね。
そうですね。一緒にやれるっていうのは、すごくいいなぁと思います。
「予算の規模が違う作品、どちらの現場も知っているというのは良いなと思いました」
―監督の皆さんと映画のお話をしたりされますか? これがおもしろいよ、とか。
この前、二宮監督とお話したのはホラー映画で、「これが怖かったよ」みたいな話はしましたが、普段、監督さんとはあまりがっつり話さないですね。撮影中は特に話さないと思います。一番近いようで、一番話さないといいますか……。
―そういうものなんですか。
(撮影が)終わって、やっと宣伝のタイミングで話すという……お二人(ふくだ監督、中川監督)とも、そうだったと思います。撮影中は適度な距離感がある。一番話さないかもしれないです。
―あえてお互いに近くなりすぎないようにしている?
そうですね。ふくだ監督とは1作目は全然しゃべらなくて。多分、言わなくてもわかってるだろうみたいな感じでした。2作目になって、脚本の相談とかをしてくださるようになって。お互いに色々と少しずつ変わっているので、また次、3作目になったら変わるんだろうなと思います。
―いろんな幅があるから楽しいでしょうね。70代の人と20代の人と同じものを作るという意味でも、感覚も全然違うだろうし。
どっちも知っているっていうのも、なんかいいなと思いました。角川監督の現場をやってから、ふくださんの2作目だったのですが、やっぱり規模で言ったら全然違うので、“この中間があればいいな”って思いながら。
―日本映画は両極端で、中間があまりないというのは聞きますね。
そこがあれば、より良い作品ができるんじゃないかと思います。本当に時間もお金もないという現場と、角川監督のような大作の現場と……だけど、こちら(低予算)の方がいろんな距離が近い気がして、時間もお金もないほうが結果的にみんなの距離が近くなる。場所が狭いだけかもしれないですけど(笑)。
―なるほど。
やっぱりお金があると、いろんな工夫ができるんだなっていう。『みをつくし~』ではカメラワークとかも、すごく工夫しておもしろいものになっていたと思うので。監督が長回しでワンカットにこだわっていて、そうなるとみんな工夫しなくちゃいけなくなってくる。でも、時間もお金もないとワンカットにいろいろ考える暇もなかったりして。勢いで、あと編集とかで、それでも十分おもしろいものはできるけど、その要素がここにあったら、もっと若い制作陣ならではアイディアとかでおもしろいものができたかもしれないなと、どちらも経験して考えたりはしました。
インタビュー:稲田 浩(ライスプレス代表)
写真:嶌村 吉祥丸
撮影協力:JINNAN HOUSE
『みをつくし料理帖』
享和二年の大坂。暮らし向きは違えども8歳の澪と野江は、まるで姉妹のように仲の良い幼なじみだった。しかしそんな二人が暮らす大坂を大洪水が襲い、二人の仲は無残にも引き裂かれてしまう。それから10年後。大洪水で両親を亡くした澪は引き取られ、江戸の神田にある蕎麦処「つる家」で女料理人に。野江は吉原にある遊郭に買い受けられ、幻の花魁・あさひ太夫と名乗っていた。澪が苦心して生み出した料理が、別々の人生を歩む二人を再び引き寄せていく。
制作年: | 2020 |
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監督: | |
出演: |
2020年10月16日(金)より全国公開
JINNAN HOUSE
渋谷と原宿の間、緑に囲まれた裏道に 位置するJINNAN HOUSE 。茶食堂「SAKUU 茶空」ギャラリー「HAUS STUDIO」フードトラック「RiCE TRUCK」企画制作会社「KIRINZI inc.」出版社「RICE PRESS INC.」 飲食・カルチャー・ビジネスが並立するミニマルな複合施設。