70年代ブラックスプロイテーションの代表作
第91回アカデミー賞で脚色賞を受賞したスパイク・リーの『ブラック・クランズマン』(2018年)に、主人公たちがブラックスプロイテーション談義を繰り広げる場面があった。そこに出てくる一本が『黒いジャガー』(1971年:原題『SHAFT』)だ。
ブラックスプロイテーションとは、70年代にブームとなった黒人をメインキャストとした黒人観客向けの娯楽映画。その代表作にして元祖とも言われるのが『黒いジャガー』なのである。
マフィアと戦い、警察を手玉に取り、女性にもよくモテる探偵!
筋立ては単純。ニューヨークで探偵業を営むジョン・シャフト(リチャード・ラウンドトゥリー)が誘拐事件の捜査を請け負い、マフィアとも敵対していく。事件の中で見せるシャフトの活躍ぶり、カッコよさが映画のキモだ。
いや実際、シャフトのカッコよさはかなりのもの。革のコートの下にはショルダーホルスター。どんな大物を目の前にしても尻込みせず、警察と真っ向から渡り合ったかと思えば手玉に取り、ついでに女性にもよくモテる。それも人種を問わず。
これまでヒーローといえば(映画の主人公といえば)白人ばかりだったところに、誰もが憧れるカッコいい黒人のヒーローが現れた。しかも、いわゆる社会派じゃなく娯楽映画だ。アカデミー賞を獲得したアイザック・ヘイズの主題歌、挿入歌もまた最高。
品行方正ではないからこそカッコいい黒人ヒーロー。音楽はソウル。マフィアにも警察にも屈しない。ニューヨークの街並みも含め、今見ると70年代という時代の空気が凝縮されているようでもある。
いま見てもまったく色褪せないヒーローがそこにいる、ということが何より重要
本作は大ヒットを記録し、続編『黒いジャガー/シャフト旋風』(1972年)、『黒いジャガー/アフリカ作戦』(1973年)、さらにはテレビシリーズも作られた。アフリカを舞台にした3作目の監督はジョン・ギラーミン、脚本はスターリング・シリファント。『タワーリング・インフェルノ』(1974年)で知られる大作コンビである。
さらに2000年には、サミュエル・L・ジャクソン主演でリメイク(『シャフト』)。2019年にもNetflixで新作が配信された。この2000年代版は70年代のシリーズとつながっており、ラウンドトゥリーも登場する。それだけ“原典”がリスペクトされているわけだ。
スパイク・リー作品にしても、シビアなテーマを扱っていながら映像はポップと言ってもいいほど。そのあたりのルーツを『黒いジャガー』に見ることもできる。そんな歴史はもちろん、BLMが注目される(そんな活動が起こらざるを得ない)今だからこそということもありつつ、とにかくいま見てもまったく色褪せないヒーローがそこにいるということが何より重要だ。
文:橋本宗洋
『黒いジャガー』『黒いジャガー/シャフト旋風』『黒いジャガー/アフリカ作戦』CS映画専門チャンネル ムービープラスで2021年2月放送