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終始悶絶! 恐怖の被差別スリラー『ゲット・アウト』 アカデミー賞脚本賞受賞ジョーダン・ピール監督作

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ライター:#松㟢翔平
終始悶絶! 恐怖の被差別スリラー『ゲット・アウト』 アカデミー賞脚本賞受賞ジョーダン・ピール監督作
『ゲット・アウト』© 2018 Universal Studios. All Rights Reserved.

歓待されてるはずなのに……圧倒的な居心地の悪さ!

公開時さんざん話題になったし、至る所で語り尽くされているので、いまさら『ゲット・アウト』(2017年)について書くのは難しい。どうしようかなと、ぼんやり映画を観返した。もちろん、何度観てもやっぱり最高に面白い映画である。

『ゲット・アウト』
発売・販売元: NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン
価格:Blu-ray 1,886円+税/DVD 1,429円+税
発売中

主人公のアフリカ系アメリカ人クリスは、白人の恋人ローズの両親に挨拶をしに行く準備をしている。「俺が黒人だってことは伝えたのか?」と心配するクリスに、ローズは「オバマに3期目があれば彼に投票するような人たちよ」と答える。実際、ローズの実家でクリスは大げさに歓待される。世の中は平等であるべきだと語る両親。しかし、不自然なことに家には使用人が2人もいて、どちらも黒人。しかも2人はクリスを無視する……。

少しずつ不安が募る中、家ではパーティーが開かれる。白人ばかりが集まるパーティーに気疲れしたクリスは、白人の老人に連れられた若い黒人男性を見かけて声を掛けるのだが……というのが『ゲット・アウト』の軽いあらすじ。

『ゲット・アウト』© 2018 Universal Studios. All Rights Reserved.

「黒人はすごい」「あなたを認めている」という態度の裏に潜む差別意識の暴走

僕はこの映画の何が好きなんだろうと考えると、やっぱり前半の部分が特に好きなのだ。ストーリーライン的には「起・承」の部分に当たると思うのだけれど、そこでこの映画が見せるべき全てをサラッと見せてしまう感じがクールだと思う。具体的にいうと、つまりクリスが歓待を受けるシーンだ。

ローズの両親、パーティーの客たちはクリスを見つけるたびに、自分がどれだけ黒人を評価しているかを語っていく。「これからは黒の時代だ」とか「黒人は身体能力の頂点にいる」とか。クリスはそこに所在のない不安さを募らせることになる。

『ゲット・アウト』© 2018 Universal Studios. All Rights Reserved.

このシークエンスの不穏さは、劇中の白人たちが自らを観測者であると信じきっている気持ち悪さから来るものだろう。逆に言えば、クリスや他の黒人たちを観測の対象物として規定する暴力性、というか。

「私」は「あなた」を認めている、という意識の根底にある差別。もし本当に「私」と「あなた」が均等であるならば、「認める」という考え方はできないはずだ。認めるとか評価するという動詞は、はなから優劣があるという決めつけから生まれる動詞だろう。

例えば、師匠が弟子を評価する、というのはおかしな話ではないと思う。そこにはそもそも能力の優劣を互いに認めたうえでの関係があるからだ。しかし、当然ながら人種間にそうした“関係”などあるわけがない(あってはいけない)。そう考えると、劇中冒頭の会話「オバマに3期目が~」の笑えないトンチンカンさに気づく。クリスの不安に対してオバマ云々と言うのは、全くクリスの立場に立った言葉ではないし、それが恋人から発せられる(しかもいちゃつきながら)シーンが、もはやこの映画の全てなのかもしれない。

以前、同じくジョーダン・ピール監督の『アス』(2019年)の感想も書いた。監督がこれまで一貫して差別問題に関わる映画を撮っているのは知られたことだが、『アス』は社会の構造的な差別についての映画で、『ゲット・アウト』は個々人の歪んだ認識が生む差別についての映画だ。

文:松㟢翔平

『ゲット・アウト』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2020年10月放送

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『ゲット・アウト』

ニューヨークに暮らすアフリカ系アメリカ人の写真家クリスは、ある週末に白人の彼女ローズの実家へ招待される。若干の不安とは裏腹に、過剰なまでの歓迎を受けるものの、黒人の使用人がいることに妙な違和感を覚える。翌日、亡くなったローズの祖父を讃えるパーティに多くの友人が集まるが、何故か白人ばかり。そんななか、黒人の若者を発見し携帯で撮影すると、フラッシュが焚かれた瞬間に彼は鼻から血を流し豹変し「出ていけ!」と襲い掛かってくる。“何かがおかしい”と感じたクリスは、ローズと一緒に実家から出ようするが……。

制作年: 2017
監督:
出演: