リアム・ギャラガーと複雑な兄弟愛ドキュメンタリー
『リアム・ギャラガー:アズ・イット・ワズ』は最後のロックンロール・シンガー、リアム・ギャラガーのドキュメンタリー。彼が、なぜロックンロール・スターじゃなく、最後のロックンロール・シンガーなのかというのは、これを見れば分かるのです。
今、なぜ彼が若いファンから愛されているのかも理解できる。もしコロナ騒動がなければ、今頃はレディング&リーズ・フェスティバルでヘッドライナーを務め、リアム完全復活とメディアで騒がれていたことでしょう。
このドキュメタリーを観るまで、そんな彼が、オアシス解散後ここまで落ち込んでいたとは思いもしなかった。お兄ちゃん、ことノエル・ギャラガーと大喧嘩して、その後10年以上も喋っていなかったなんて、信じられなかったです。
だって、何だかんだいっても家族じゃないですか。家族が10年間も会わずにやっていけるなんて全く想像できず、あの兄弟喧嘩もミュージック・ビジネスだけのことかと思ってました。何だかんだいって、クリスマスとかお母さんの誕生日には会ったりしているんでしょ、と思ったりしてました。リアムの方は何回か電話してるんだけどノエルは出ないそうで、一体何があったのかと思うのです。
こんなに根深かったとは……リアムとノエル、世界一有名な兄弟喧嘩の真相!
ロックの世界だと、兄弟同士で仲が悪い人はたくさんいます。一番有名なのはザ・キンクス、レイとデイヴのデイヴィス兄弟。この二人はツアー中、かち合わないようにホテルの階が違います。楽屋とステージでは会っているんですけど、昼間にホテルの廊下ですれ違ったりしたら、1日が台無しになるということなんですかね。そんな二人なんですけど、お兄ちゃん(って言っても、もうお爺ちゃんですけどね)のレイは弟のデイヴのことはちゃんと気にしていて、インタビューなんかでは「最後のツアーはちゃんと一緒にやらないといけないよね」と語っています。
それに比べるとオアシス兄弟の喧嘩は根が深いですね。このドキュメンタリーでは、最後の喧嘩が語られています。ツアー中、お兄ちゃんが雑誌の電話取材を受けていて、目の前にリアムが座っているのに「リアムのバカがあることないこと喋るから」などと言っていて、それにぶち切れたリアムが会場に着くなりお兄ちゃんのギターを叩き壊したら、お兄ちゃんもリアムのギターをぶち壊して、それ以来10年以上、二人は喋っていないそうです。
お兄ちゃんの大事なギターをぶち壊すというのはどうかなと思うし、その仕返しに弟のギターをぶち壊すというのもどうかなと思います。
なぜシンガーのリアムがツアー中にギターを持ち歩いているかというと、お兄ちゃんから「お前ら、俺ばっかりに曲を作らせるんじゃない。お前らも曲を作れ」と言われたからです。リアムもお兄ちゃんのように、いつも重いのに(お兄ちゃんのギターより小振りのギブソン B-25なんですけどね)を毎日担いでツアーを続けていたのです。
ギターなんか弾けず、曲も書けなかったのに、徐々にギターも弾けるようになり、曲も作れるようになっていたのです。本当にいい弟だと思います。お兄ちゃんの言うことを守って、お兄ちゃんのギターより安いギターにして、今も一生懸命、曲を作っています。
健気なリアムの姿に涙! 現代の若者にとって“理想的な父親”となった現在の姿に感慨
このドキュメンタリーの中で、もう一人のお兄ちゃんのポールだったか、元バンドメイトのボーンヘッド(ポール・アーサーズ)が言ったのか忘れましたが、「リアムは何万人もの前でやっていても、実はたった一人の人間に認められたくてやっているんだよ」と語っていて、泣いてしまいました。
そうなんですよ、リアムはずっとお兄ちゃんに認められたくって、バンドをやってきたんです。このドキュメタリーでも、飼い主に捨てられた犬ころみたいで、ずっと寂しそうなのです。今はいいパートナーも見つかり、その人に助けられながらなんとかやっていますが、いつもリアムは寂しそうなのです。
オアシスの頃もそういう所はありました。なんか守ってやらないといけないなという気にさせられる美男子で、そういう部分が周囲を惹きつけていたと思うのですが、オアシス解散後は人間としてちゃんと生きていこうとする姿勢が加わり、オアシスの後に作ったビーディ・アイを解散し、ソロになってからはジョン・レノンのような人間としての悲しさみたいなものも滲み出ていて、いいなと思っていたんですけど、その理由がよく分かりました。
彼が今、若い人から受けているというのはこれなんです。お父さんみたいだけど、どこか頼りなさそうで、アニキや友達、一緒に成長する仲間みたいな。今の若い子は、頼りになる父親像なんて幻想だと知っています。それよりも、一緒に同じような悩みを共有する父親像に共感するんだと思います。ツアー中は二人の息子がよく遊びに来てるんですけど、親子の関係が、まさにこんな感じなんです。
つまり“俺はロックンロール・スター”じゃなくなっているんです、謙虚に“俺はロックンロール・シンガー(働くおじさん)”というのがにじみ出ているのです。これが彼の復活だったのです。それを記録したのが、この映画なのです。兄弟二人が仲悪くなった原因がリアムから語れるんですが、呆れて笑ってしまいますけどね。
リアムが思っていることが正解なのか分からないですけど、いろいろあったリアムが成長した姿を楽しめるドキュメタリーなのです。
文:久保憲司
『リアム・ギャラガー:アズ・イット・ワズ』は2020年9月25日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開
『リアム・ギャラガー:アズ・イット・ワズ』
オアシス解散の瞬間を捉えた衝撃的な映像から始まり、圧倒的なライブ映像を織り交ぜながら初めて明かされる家族と兄ノエルへの想い。元オアシスギタリストのボーンヘッド、母ペギー、長兄ポール、息子ジーンとレノン、そしてパートナーのデビー・グワイサーら身近な関係者の貴重な証言から人間リアム・ギャラガーの素顔が浮かび上がってくる。
制作年: | 2019 |
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監督: | |
出演: |
2020年9月25日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開