傑作アニメが描く“最強の世界”の実写化は成功したか!?
大童澄瞳の人気マンガの実写化でありドラマの映画版であり、さらに言えば湯浅政明監督によるアニメも大評判だった『映像研には手を出すな!』の実写劇場版である。まさに「手を出さなきゃよかったのに」と言われそうな題材。センスの塊である湯浅監督のアニメが先行するというのは、かなりのビハインドだ。
主人公は3人の高校生。設定マニアの浅草(齋藤飛鳥)、俳優を両親に持ち読者モデルとして人気ながらアニメーター志望のツバメ(山下美月)、アニメに興味はないがプロデュースに抜群の手腕を発揮する金森(梅澤美波)が、映画研究会でもアニメ研究会でもない「映像研」を設立してアニメ製作に奮闘する。その背骨となるのは浅草の脳内に展開し、紙の上で躍動する“最強の世界”だ。
学園ものの常として生徒会との闘いがあり、ものづくりに対するそれぞれのこだわりがあり、なにしろ全員、個性が強い。一口にアニメ製作といっても役割が違えば考えがぶつかって当然。
高校生がアニメを作る話。それだけでなかなかマニアックに思える。特にこの映画版のストーリーは、原作にもアニメ版にもあるロボットアニメ編。「果たしてロボットアニメに説得力はあるのか」という話からである。
そういう題材をポップに見せてしまうのが原作とアニメ版の魅力だった。この実写映画版も大健闘と言っていい。浅草の脳内にある世界が“画”となって動き出す高揚感はかなりのもの。原作もアニメも、テーマはアニメそのものであり、その奥にあるのは“想像と創造の喜び”だ。実写版もポイントを外していない。原作にできるだけ忠実に、原作の魅力を損なわないようにという真摯な姿勢があるからこそだろう。その真摯さが映画全体の美徳になっている。
「苦肉の策」を採りながらも最大限“本来の魅力”を引き出した実写化!
もちろん弱点がないわけじゃない。アニメ版は浅草役の伊藤沙莉はじめ声優陣の原作イメージの合致ぶりや力量が圧倒的だった。それと比べてしまうと、演技キャリアの浅い映画版のキャストはサブキャラも含め全体に稚拙に感じてしまう(主人公3人を演じるのは乃木坂46のメンバー)。無闇に大げさなギャグ演技、原作にあるシーンの解釈に違和感を覚える場面もある(何か“感動”に誘導するような。それはそれで一つの解釈ではあるが)。「アニメにする」という場面を実写で表現するというのが、そもそも正解なのかどうか。これは英勉監督も「苦肉の策」と言っているわけだが。
しかし話が軌道に乗ってくると、浅草がもう浅草にしか見えなくなってくる。「アイドルが演じる浅草」として、アニメ版にはない魅力を放つのだ。独特の口調は過去の映画からの引用や方言を散りばめながら、“実写でギリギリ成立する変さ”で楽しませてくれる。極度の人見知りという設定、その表現もうまい。
「“3人を見てればずっと面白い”ってならなくちゃいけない」
英勉監督は、実写化の難しさをそう語っている。主人公3人をどう表現するか、若いキャストにどう演じさせるか。そのハードルに関しては、本作は見事にクリアしたと言えるだろう。いや、マジで齋藤飛鳥の浅草がめちゃくちゃ可愛いんですよ。齋藤飛鳥が可愛いんだから当然とかそういう話ではなく、あくまで浅草として可愛い。つまりそれは、この映画が成功しているということだ。
文:橋本宗洋
映画『映像研には手を出すな!』は2020年9月25日(金)より全国公開