【007/ポスターより愛をこめて 第2回】世界中の男の子たちの憧れの象徴となった『サンダーボール作戦』の美女とボンド
『007』シリーズは、第4作『サンダーボール作戦』(1965年)で大きくそのポスター・イメージを変える。製作費は前作の3倍、世界的ブロックバスター映画として大ヒットを約束されたアクション映画にふさわしく、それまではジェームズ・ボンドとボンドガールの一点盛りが基本だったデザインから、アクションとお色気のフルコース&満漢全席スタイルへ大きく変貌を遂げたのだ。
『サンダーボール作戦』がバハマを舞台にした海洋アクションだったこともあって、ボンドの周囲に水着姿の半裸美女を何人もはべらせる「ボンド・スタイル」が確立された。イラスト担当として白羽の矢が立ったのが、『ティファニーで朝食を』(1961年)でオードリー・ヘプバーンを描いたロバート・マッギニスだった。
ロバート・マッギニスは1926年オハイオ州シンシナティ生まれ。10代でディズニー・スタジオの見習いになるが、第二次大戦のおかげでディズニーがアニメーション製作を中止したため故郷に帰って美術学校へ進む。1958年からペーパーバック小説の表紙画を担当し、ドナルド・E・ウェストレイク、カーター・ブラウンらの娯楽小説をセクシーな女性たちの素晴らしいイラストで飾るようになる。1961年に『ティファニーで朝食を』で初の映画ポスター・アートを担当、オードリー・ヘプバーンのクールでゴージャスなイメージは1960年代ハリウッド映画のシンボルとなった。ちなみに、マッギニスは妻の肩に愛猫を乗せ、ヘプバーンのスチール写真と組み合わせてイラストを描きあげたという。
もうひとりのボンド・イラストレーター現る!
「次はアクションだ!」とプロデューサーのアルバート・ブロッコリとハリー・サルツマンが叫んだかどうかは定かではないが、宣伝を担当していた当時のユナイテッド・アーティスツ社アドヴァタイジング・ディレクター、ドナルド・E・スモーレンは、もうひとりアメリカのトップ・イラストレーターを雇うことにする。1956年の『十戒』はじめ、『ハタリ!』(1962年)、『大脱走』(1963年)、『あしやからの飛行』(1964年)など、エキサイティングで動きのあるアクション・イラストを得意としたフランク・マッカーシーだ。
ニューヨーク生まれのフランク・マッカーシー(1924~2002年)は1948年から広告・出版界で活躍、マッギニスの先輩格に当たり、すでに『大脱走』でユナイトとも仕事をしていた。マッカーシーは、まず映画冒頭のボンドがロケットベルト(ジェット・パック)で空に飛び立つ場面、水中のアクションシーン、そして派手な大爆発を背景にそれらを組み合わせたもの、少なくとも3点のイラストを提供した。
マッギネスも、銃を構えるボンドの背後にボンドガール3人が小さく見えるバージョン、ウェットスーツにモリを持ったボンドの周囲を“マッギニス・ガール”4人が囲むもの、そしてドミノと一緒にビーチにいたボンドがモリで敵を倒す場面の3点を提供している。
これだけでも通常の映画の3倍はイラスト製作費がかかっているはずだが、ユナイト社はそれらを組み合わせて前代未聞の一般公開用レギュラー宣伝ポスターを制作した。
上部にマッカーシー・イラストを3点、その下にマッギニスを1点配したデザインは、「上を見ろ!」「下を見ろ!」「(007に)気をつけろ!」とイキなコピーに飾られて、2人のアーティストに描かれた3人のジェームズ・ボンドが登場する豪華版となった。
2人のアーティストの作品を同時使用してでも思い通りのポスターを作ろうとするユナイト&ボンド・チームのやり方は、まるで手塚治虫と石森章太郎のマンガを2つ合わせて1つにしてしまう……(古いか)、あるいは、ビートルズとローリング・ストーンズの曲を合体させて主題歌に仕立ててしまうかのような荒業だったかもしれない。しかし、逆にそれは1960年代における映画界、そして『007』シリーズの人気と勢いを象徴していたともいえる。
とにかく、「空を飛び」「水中で戦い」「セクシー美女をはべらせる」男ジェームズ・ボンドは、少年からおっさんまで、すべての男性たちの憧れの象徴となった。そして、世界中で雨後のタケノコのごとく『007』もどきのスパイアクション映画が作られるようになっていった。
3作品にわたったマッギニス+マッカーシーの豪華コラボレーション
『007/サンダーボール作戦』は世界中で記録的大ヒットを飛ばすこととなる(現在でも通貨価値換算するとシリーズ最大の興行成績とされている)。そして、美女はマッギニス、アクションはマッカーシー、と2人の名イラストレーターを豪華に共演させた『007』シリーズのポスターは、『007は二度死ぬ』(1967年)を経て、『女王陛下の007』(1969年)まで続くこととなる。
ボンド役がショーン・コネリーからオーストラリア人のジョージ・レーゼンビーに交代した『女王陛下の007』(1969年)では、マッギニスとマッカーシーのイラストがより有機的に合体されている。マッカーシーが背景とアクション場面を描き、マッギニスが担当したボンド(レーゼンビー)とヒロインにしてボンドの新妻トレーシー(ダイアナ・リグ)を狙い撃ちにしている。
ボンド映画以外でも大活躍したマッカーシーとマッギニス
このマッカーシー・イラストによるマッギニス・アート狙い撃ちが象徴していたかのように、2人のコラボレーションはこれが最後となる。
表向き、フランク・マッカーシーは映画ポスターなどのコマーシャル・イラストレーションの世界から身を引き、画家としてウエスタン・アートを追及していくことになる。そのきっかけとなったかどうかは不明だが、1969年にマッカーシーが担当したのがセルジオ・レオーネが撮ったマカロニ・ウエスタン『ウエスタン』(1968年)だ。マッカーシーのアクション表現の究極ともいうべきウルトラ・クールな決斗場面は、映画を越えているさえ思えるほどだが、マッカーシー自身は、アクションよりも西部の自然の風景を描きたかったのかもしれない。
一方、ロバート・マッギニスは、世界を席巻するスパイ映画&ボンド・ブームのどさくさまぎれに製作された『007』映画のパロディ『007/カジノ・ロワイヤル』(1967年)のポスター・イラストの依頼を引き受ける。普通だったら本家を描いている立場から断るのが筋かもしれないが、理解できる気もする。なにしろ、こちらは「マッカーシーとの共作」ではないのだ。しかも映画は007役のピーター・セラーズが撮影途中で降板してしまい、デヴィッド・ニーヴン、ウディ・アレン、果ては女優までがボンドを演じるハチャメチャな内容となり、ポスター・イラストレーションにジェームズ・ボンドが一切登場しないという、またしても前代未聞の状況に……。
マッギニスが描いたのは、全身サイケデリックなタトゥーだけを身にまとったボンドガールだけだった。
ロジャー・ムーアとマッギニス黄金時代
2代目ボンドの不評&初代ボンドの復帰で話題となった『007/ダイヤモンドは永遠に』(1971年)は、ダイヤモンドの人工衛星をバックにボンドが美女を2人従えたマッギニスのゴージャスなアートワークが全ポスターを飾った。マッギニス・ガールはついに地球を飛び出し、宇宙にまで進出したのだ。ところが、実はこのポスターにはいわくがあり、当初マッギニスが仕上げたイラストレーションでは、ボンドが美女二人組よりも背が低く見えるという欠点だあったのだという。指摘されてボンドの身長が伸ばされたのだが、永らく「美女担当」だったマッギニスの皮肉だったのかもしれない。完成したイラストを見ても、どことなくボンドよりも美女のほうが目立って見えるのは気のせいだろうか。
続いて3代目ボンドにロジャー・ムーアが登場した『007/死ぬのは奴らだ』(1973年)は、ボンド・ポスターの中でも最高傑作の声も高いカラフルでゴージャスな仕上がり。映画に登場するタロットカードをモチーフにいつも通りに美女をはべらせながら、クライマックスになるモーターボート・チェイスを組み合わせたアートワークは、もはやフランク・マッカーシーは不要とばかりにマッギニスが渾身の力で描き切った。
ショーン・コネリーよりもジョークが多めになったロジャー・ムーア=ボンドが世界的に受け入れられた頃、実は『007』製作チームには大きな問題が生じていた。ボンド・シリーズの生みの親といえば、プロデューサーのハリー・サルツマンとアルバート・ブロッコリであることは知られているが、サルツマンが『女王陛下の007』でレーゼンビー抜擢を強く主張して興行的に失敗、ブロッコリによる『ダイヤモンドは永遠に』でのコネリー復帰、そして今度のロジャー・ムーアの起用にもサルツマンは反対していた。
そのおかげで、このプロデューサー・コンビの関係にひびが入り、なんと世界映画史的にみても珍しい現象を生むことになる。プロデューサー名のクレジットの順番である。それまでは、先にイアン・フレミングによるボンド・シリーズの映画化権を獲得していたサルツマンが先にクレジットされるのが普通だった。が、『死ぬのは奴らだ』『007/黄金銃を持つ男』(1974年)のオリジナル英語版ポスターには、小さく「WEST HEMI」「EAST HEMI」の文字が入っており、前者ではアルバート・ブロッコリの名が、後者ではハリー・サルツマンの名が先にクレジットされているのだ。「WEST HEMI」は主にアメリカ国内用、「EAST HEMI」はアメリカ以外の国での使用に限られていたようだ。もちろん、日本は「EAST HEMI」扱いということで、従来通りサルツマンの名が先に記されていた。
ムーア=ボンドは2作の成功で軌道に乗り、最終的に7作も続くことになるのだが、ハリー・サルツマンは『黄金銃を持つ男』を最後にシリーズから離れることになる。個人的に製作していた映画(『オリビア・ニュートン・ジョンのトゥモロー』[1970年]など)の不入りや、個人事業(不動産や食人工場経営など)の失敗で財政的に苦しんでいたサルツマンは、保有していた権利をユナイテッド・アーティスツ社に売却し、『007』シリーズに別れを告げたのだ。
……<007/ポスターより愛をこめて>は「第3回 イラスト・ポスターの終焉/ボンド・ポスターよ、どこへ行く」へ続く。
文:セルジオ石熊
007グッズ #プレゼント🎁
— 映画評論・情報サイトBANGER!!!【公式】 (@BANGER_JP) September 1, 2020
『007/#オクトパシー』
日本語 #Tシャツ が1名様に #当たる
日本のマンガ・アニメに与えたとてつもない影響とは
007は男子のディズニーランド
👉 https://t.co/tvkQ47JqPY
応募
1⃣@BANGER_JP をフォロー
2⃣9/30(水)までに本ツイートをRT
3⃣当選者にDM連絡#BANGER007 pic.twitter.com/HXACJBjKLs
『007』シリーズはCS映画専門チャンネル ムービープラスで2020年9月ほか放送