ジェームズ・ディーンはひたすらにカッコいい!
ある朝、目覚めたらジェームズ・ディーンになっていたとしたら、あなたはどうするだろうか。鏡の前で、どんなポーズを取っても、どんな表情をキメても、最高だ。僕だったら、とりあえず赤いジャンパーを買って、あとは酔っ払って路上の猿を探しに行く。女の子にはこう言う。「今朝起きたら、太陽は光り輝き、あらゆるものが素晴らしかった」と。
見終わったら、そんなことを考えてしまうくらい『理由なき反抗』(1955年)の「ジェームズ・ディーンはひたすらに格好良い」。この20文字で、原稿を終わりにしても良いくらいだ。良いですかね、BANGER!!!さん? それくらい、この映画のジェームズ・ディーンは良い男で、ナイーブで、キュートだ。
時代を問わない普遍的なテーマ! 心と体のバランスが取れず暴走していく若者たちを描く
不謹慎な言い方ではあるが、早くして亡くなったアーティストには“死者アドバンテージ”とでも言うようなものがあり、つまり伝説になりやすい。『理由なき反抗』とて、ディーンの早すぎる死、幻のような人生と結ぶつけられることは、やはり避けられないだろう。しかし仮に、仮にだが、ジェームズ・ディーンが若くして亡くなることなく、そのまんま年老いて、たとえば時期によってはB級SF映画にも出演してギャラを稼ぐようになったりなんかしちゃったり、万が一“過去の人”となる世界線があったとしても、この『理由なき反抗』のジェームズ・ディーンは変わることなく伝説であり続けるだろう。ここにいる1人の青年、1人の俳優は、それほどに時代を超えた存在感を放っているのだ。
冒頭、路上で酔っ払って猿の玩具と添い寝する若者、ディーンが演じるジム・スターク。突如、何の説明もなく始まる(アドリブで撮られたという)セリフも無いこのシーンを見た誰もが、彼のことを好きになる。テロップでよく見えない時もあるのに、隙間からディーンがドボドボ漏れてくる。良い役者だと思う、とかではなく、目が離せないくらい“好き”になるのだ。そして、そこから始まる彼の苦悩、脆さ、優しさを、強烈に身近に感じることになる。ディーンは、恐ろしいほどのスピードで見るもののハートに飛び込んでくる。
この映画が決して古ぼけた化石にならないのは、根底にあるテーマ=心と体のバランスが取れず暴走する若さが、いつの時代にも少なからず共通しているからだろう。この映画の登場人物たちは、たしかにそれぞれが不満と苛立ちを抱えている。しかし、ジムもジュディもプラトーも、それなりに裕福な家庭に育ち、側から見れば特別に劇的な不幸の中にいるわけではない。それでも彼らがどうしようもなく感じてしまう孤独が、彼らを“反抗”へと駆り立てていく。時代の移り変わりと共に“理由”は変わっていく。しかし、“理由がない”ことは変わらない。だから、この映画は色褪せない。
そして、彼らの出会いから結末までを「24時間」という枠の中で見事に描いてみせるスピーディーな演出、ディーンを始め脇役に至るまで魅力的な役者陣……。『理由なき反抗』は題材、演出、役者、どこをとっても70年前の作品とは思えないエバーグリーンな輝きに満ちている。
ジュワッ! ジェームズ・ディーンは「ウルトラマン」にも影響を与えていた!?
そんな映画史に残る『理由なき反抗』なので、当然多くの影響を後世に与えてきたわけだが、実は我が国にも意外なところにディーンの姿が隠れているのをご存知だろうか。それは「ウルトラマン」の中にある。……そう、あの誰もが知っている子供たちのヒーロー、ウルトラマンだ。
1966年に放送された初代『ウルトラマン』では、それまで誰も見たことがなかった巨大な銀色の巨人と怪獣たちの死闘が繰り広げられ、当時の子供たちを熱狂させた。ウルトラマンは、腰を落とし背中を丸めて、手を前に突き出した独特のファイテイングポーズで数多の怪獣と対峙する。実は、この前傾姿勢のファイテイングポーズが、『理由なき反抗』のジェームズ・ディーンの格闘シーンに影響を受けているのだ。
スーツアクターとして初代ウルトラマンを演じた古谷敏さんは、映画館で見た『理由なき反抗』のディーンに憧れて映画俳優を目指したという。そしてウルトラマンの中に入り格闘シーンを演じることなったとき、いつかやりたいと考えていたディーンの構えを参考にしたのだ。たしかに、天文台での格闘シーンのディーンの構えは、見事に初代ウルトラマンそのものである。子供の頃から見てきたウルトラマンとジェームズ・ディーンの意外な関係、これを初めて知った時の衝撃は凄かった。
敏さんとお話ししていると、ジェームズ・ディーンに対する思い入れが本当に特別な物だということが伝わってくる。『理由なき反抗』を見る際には、日本の子供たちにも大きな影響を与えた「ディーンの構え」にも注目して見てもらいたい。
文:タカハシヒョウリ
『理由なき反抗』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2020年9月放送
『理由なき反抗』
街に越してきたばかりの17歳のジム。泥酔して集団暴行事件の容疑者として警察に連行された彼は、夜間外出で保護された少女ジュディ、仔犬を撃って注意された少年プラトーと知り合う。間もなく3人は帰宅を許されるが、この出会いが街の不良たちを巻き込んだ争いと悲劇に繋がっていき……。
制作年: | 1955 |
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監督: | |
出演: |
CS映画専門チャンネル ムービープラスで2020年9月放送