ヴェネツィア金獅子賞に輝いた映画史に残る名作!
黒澤明監督の名を世界に轟かせるきっかけとなった映画『羅生門』(1950年)の公開70周年を記念して、国立映画アーカイブ展示室(東京・京橋)で「公開70周年記念 映画『羅生門』展」が2020年9月12日(土)から12月6日(日)まで開催される。前身のフィルムセンター時代を含めて、同館が1本の作品に限って特集するのは初めて。
『羅生門』は、芥川龍之介の短編「藪の中」と「羅生門」が原作。平安時代に起こった侍の殺害事件を、目撃者や関係者らの食い違う証言で真相に迫りつつ、人間のエゴイズムを浮かび上がらせた不条理劇だ。日本では1950年8月に劇場公開されるも大ヒットに至らず。しかし、翌1951年9月に開催された第12回ヴェネツィア国際映画祭に選出され、最高賞の金獅子賞を受賞。続いて1952年3月に米アカデミー賞名誉賞を獲得するという国際的な評価を得たことで日本映画の世界進出という道筋を作り、かつ国内でも再評価されるという数奇な運命を辿った映画史に残る名作である。
貴重な展示が満載! 世界のクロサワ映画を多面的に解明
同展では「企画と脚本」「美術」「撮影と録音」「音楽」「演技」「宣伝と公開」「評価と世界への影響」と7章に分けて『羅生門』の軌跡を解明。
三船敏郎や志村喬が実際に使用していた撮影台本や、ベネチア国際映画祭出品までの日本側と映画祭側の交渉内容が記された書簡と電報といった記録資料の展示のほか、今回は新型コロナウイルス感染拡大予防を鑑み、マウスやタッチパネル方式ではなく非接触で作動するデジタル展示を取り入れたのが特徴だ。
その技術を使って黒澤監督の創作ノートを閲覧できるコーナーに加え、名カメラマン・宮川一夫とスクリプター・野上照代の撮影台本と実際の映像を合わせて検証できる展示もある。
さらに今年2月、新たにスクリプター・野上照代と録音・紅谷愃一にインタビューを敢行したビデオ映像や、ロバート・アルトマン監督が同作の魅力を語った映像も公開されており、多方面からより深く作品世界に触れることのできる内容となっている。
最後に特別コーナーとして、「旅する羅生門」と題して世界各国で制作されたポスターや宣伝材料を展示。
そして会場出口には、鳥取在住の映画ファンから届いた「世界を勝ち得た『羅生門』より不遇の『白痴』の方が好きだ」と書かれた手厳しい内容の手紙に対して、黒澤監督が返信した直筆の書簡も公開されており、当時の日本のファンのリアルな反応と、黒澤監督の人柄がうかがえる内容となっている。
また開幕には間に合わなかったが、10月下旬には<日本映画・テレビ美術監督協会>の創立80周年を記念して制作された羅生門の10分の1ミニチュアセットが同館1階に展示予定だという。
三船敏郎の特集上映アリ! 京都でも開催!!『羅生門』が世界に与えた影響とは
2020年9月11日(金)に行われた内覧会で、同展企画担当の主任研究員・岡田秀則は「この映画は70年経っても色褪せないと言われてますが、意外に日本人は本作を知ってはいても、具体的にどのように世界に大きな影響を与えたのかについては、あまり意識していないかと思います。こうして改めて光を当てることで、多くの人に理解していただけたらと思います」と語った。
公式図録は10月中旬に国書刊行会より書店でも発売予定。2021年2月6日(土)~3月14日(日)には、京都府京都文化博物館総合展示室でも開催される。
また同展と合わせて、国立映画アーカイブ・長瀬記念ホール OZUでは2020年10月2日(金)~22日(木)まで、「生誕100周年 映画俳優 三船敏郎」と題した特集上映を実施。『羅生門』のデジタル復元版をはじめとする27作品が上映される。
なお10月17日(土)午後1時30分からの岡本喜八監督『暗黒街の対決』(1960年)はバリアフリー上映となる(ヒアリングループ座席と音声ガイドラジオの貸出は事前予約制)。
文:中山治美
「公開70周年記念 映画『羅生門』展」は国立映画アーカイブ展示室2020年9月12日(土)から12月6日(日)、京都府京都文化博物館総合展示室で2021年2月6日(土)~3月14日(日)開催、特集上映「生誕100周年 映画俳優 三船敏郎」は国立映画アーカイブ・長瀬記念ホール OZUで2020年10月2日(金)~22日(木)開催
「公開70周年記念 映画『羅生門』展」
国立映画アーカイブ展示室2020年9月12日(土)~12月6日(日)、京都府京都文化博物館総合展示室で2021年2月6日(土)~3月14日(日)まで開催