『TENET テネット』公開目前！『インセプション』で難解なノーラン世界を脳トレ予習!!

ノーランが構築するシンプルかつ難解な“夢潜入”物語

『インセプション』（2010）は、『ダークナイト』（2008年）の世界的大ヒットで注目されたクリストファー・ノーラン監督の7本目の長編映画で、驚異的な映像でセンセーションを巻き起こした。

『インセプション』
ダウンロード販売中、デジタルレンタル中
（3枚組）￥5,990 ＋税
Blu-ray ￥2,381＋税／DVD ￥1,429 ＋税
ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
© 2010 Warner Bros. Entertainment Inc. and Legendary Pictures. All rights reserved.

ストーリーはシンプルだ。主人公のコブ（レオナルド・ディカプリオ）は他人の意識（＝夢）に潜入し、アイデアを“エクストラクション（抽出）”する、エクストラクターと呼ばれる産業スパイである。彼は大物実業家サイトー（渡辺謙）から、ライバル社の御曹司フィッシャー（キリアン・マーフィ）の潜在意識に侵入し、＜「父親が築いた巨大企業を潰す」というアイデアを“インセプション（挿入）”する＞依頼を受ける。

『インセプション』© 2010 Warner Bros. Entertainment Inc. and Legendary Pictures. All rights reserved.

一度は断ったコブだが、妻殺しの容疑で追われた祖国へ帰らせることを条件に引き受ける。困難な作戦のため、コブは世界中からスペシャリストを招集。相棒アーサー（ジョセフ・ゴードン＝レヴィット）を右腕の“ポイントマン”に、恩師で義父のマイルズ教授（マイケル・ケイン）から推薦された女学生アリアドネ（エレン・ペイジ）を“設計士”に、イームス（トム・ハーディ）を“偽装士”に、ユスフを“調合士”に選び、結果を見届けたいというサイトーを加えた6人でフィッシャーの夢に潜入する。

『インセプション』© 2010 Warner Bros. Entertainment Inc. and Legendary Pictures. All rights reserved.

が、夢の中でいきなり武装集団に襲われ、サイトーが重傷を負う。フィッシャーは、産業スパイの侵入を防ぐために“潜在意識を武装化”する訓練を受けていたのだ。しかも、コブには死んだ妻モル（マリオン・コティヤール）に関する秘密があり、意識下に封印された彼女が夢の中に現れ、作戦を妨害し始める……。

夢という迷路の奥には愛という名の怪物が住んでいる

クリストファー・ノーラン監督によれば、『インセプション』は“夢の世界を映画にする”をコンセプトに映画製作の10年ほど前から温めていた企画で、製作の合間にシナリオを書き足しながら構想を膨らませていったのだという。映画に登場する驚異的なイメージは、監督自身が実際に見た夢を映像化したもの。とすると、冒頭のサイトーとコブが出会う浜辺の城が崩れる場面や、パリの街が立ち上がり、まるで1枚の紙のように折れる場面もノーランが見た夢なのだろう。エッシャーのだまし絵の階段を再現した場面なども、凝り性のノーランならではの素晴らしさだと思う。

『インセプション』© 2010 Warner Bros. Entertainment Inc. and Legendary Pictures. All rights reserved.

映像は文句なく面白いのにストーリーが分かりにくいのは、まるでマトリョーシカのように、夢の中に夢があり、そのまた夢の中に夢があるという3層構造になっているうえ、層が深まるほど時間が長くなり（現実の10時間が1層目では1週間、2層目では半年、3層目では10年という設定）、3層の夢と3つの時間軸が（おそらく意図的に）迷路のように組み合わされているから。夢というものはそういうものだ、と言われればその通り。それでもストーリーがシンプルに思えるのは、コブと妻モルの愛がすべての核になっているからだろう。

『インセプション』© 2010 Warner Bros. Entertainment Inc. and Legendary Pictures. All rights reserved.

ギリシャ神話では、迷宮に閉じ込められた怪物ミノタウロスを殺したテセウスは、アリアドネの糸をたどって迷宮を脱出した。逆に『インセプション』では、コブはいくらアリアドネが現実へ連れ戻そうとしても聞く耳を持たず、妻を求めて夢という迷宮の奥深く入っていく。迷宮の奥で待っているのが妻であろうと怪物であろうと、その行為こそがコブにとって究極の愛の形なのだ。出世作『メメント』もそうだったが、クリストファー・ノーランの描く愛は、時間と空間を超越している。

文：齋藤敦子

『インセプション』はAmazon Prime Videoほか配信中

『TENET テネット』は2020年9月18日（金）より全国公開