激動の2020年、非常事態宣言によって行動が制限されていることもあってか、良識ある人々の間では戦争の恐ろしさや理不尽さを再考する風潮も強まっているように感じられる。そんなタイミングで公開されるローランド・エメリッヒ監督の最新作『ミッドウェイ』はその名の通り、第二次大戦下の1942年にハワイ北西のミッドウェイ諸島で繰り広げられた海戦の顛末を描いた戦争映画だ。
その後の戦況を大きく変え、1976年にはチャールトン・ヘストンやヘンリー・フォンダ、三船敏郎ら日米豪華キャストによって映画化された歴史的海戦を、エメリッヒ監督はどう描いてみせたのか? そのデイティールに関しては軍事アナリスト・大久保義信氏の新旧比較・解説記事にお任せするとして、ここではド迫力の映像や好バランスのキャスティングについて紹介していこう。
エメリッヒ監督のキャリア中もっとも“意義”のある作品!
言わずもがな、エメリッヒ監督といえば『インデペンデンス・デイ』シリーズ(1996年、2016年)や『GODZILLA』(1998年)、『デイ・アフター・トゥモロー』(2004年)に『ホワイトハウス・ダウン』(2013年)などなど、とにかくド派手なアクション映画ばかり手がけてきた“破壊の匠”だ。ポップコーン・ムービーという呼称もエメリッヒ監督にとっては褒め言葉かもしれないが、この『ミッドウェイ』はあきらかにその枠を超えた、確かな“意義”のある映画に仕上がっている。構想20年という惹句もあながちハッタリではない、これまでのエメリッヒ作品を総括するような重厚な作品だ。
本作は日米開戦前の緊張感あふれる空気を描き、そのまま真珠湾攻撃のシーンにつなげる。ただし“破壊大帝”ことマイケル・ベイ監督の『パール・ハーバー』(2001年)のような分かりやすいケレン味はあえて排除し、あからさまに偏見や憎悪を煽るような描写もないところなどは、ドイツ出身のエメリッヒならではの客観性が奏功していると言えるだろう。1976年版『ミッドウェイ』もキャストの豪華さの割に資料映像の切り貼りで製作されたトホホ映画として語られることが多いが、さすがCGの多用に衒いのないエメリッヒ版の映像はすさまじい迫力。巨大なセットのおかげで違和感のあるシーンは皆無という、ぜひ劇場の大スクリーン・大音響で楽しんでいただきたいシロモノだ。
トヨエツ! アサノ! クニムラ! ハリウッド映画ながら日米ほぼ半々のバランスに感慨
バランスの取れた日米描写~キャスティングも、本作を鑑賞する大きな理由になる。連合艦隊司令長官・山本五十六を演じる豊川悦司と、米太平洋艦隊の主任参謀エドウィン・レイトンをパトリック・ウィルソンが日本語→英語でやり取りする冒頭のシーンからしてヨダレものというか、そのへんの日本映画では観られない重厚な映像の中で、日米の名優が共演する光景は感慨深いものがある。
あの三船敏郎にアフレコをかました1976年版と違ってトヨエツの英語セリフシーンもあり、ウィルソンのほうも日本語セリフを披露してくれて胸キュン! トヨ六はコッテリした三船版と比べて若干セクシーすぎやしないかという気がしないでもないが、お互いしっかり坊主頭の浅野忠信(山口多聞少将)との絡みもニヤニヤが止まらないイイ絵面だ。なお日本側のキャストが手薄(字幕がないと少しキツい)なぶん、國村隼への安心感もマシマシだ。
本作の主人公はエド・スクラインが演じるバカテク・パイロットのディック・ベスト大尉で、確かな操縦スキルとデカい肝っ玉を持つ男。パールハーバーで仲間たちを無残に殺した日本軍への怒りを顕にするこの若き大尉は、常に感情を爆発させ上官とも度々ぶつかるが、多くの米国民の感情を代弁する役どころでもある(実際にベスト大尉がこんなにアツい人物だったかどうかは不明)。
その眼光の鋭さとシャープな雰囲気からアウトロー的な役どころで存在感を発揮してきたスクラインだが、熱い友情と愛国精神にあふれたエモい演技で新たな魅力を発揮。米軍側は、他にもニック・ジョナスやルーク・エヴァンス、アーロン・エッカートなど、誰がいつ戦死してもおかしくなさそうな絶妙な塩梅のキャスティングが光る。
太平洋艦隊司令長官チェスター・ニミッツ大将を控えめに演じるウディ・ハレルソンの銀髪ヅラは違和感ありまくりだが、デニス・クエイド演じるウィリアム・ハルゼー中将はポール・マッカートニー&リンダ・マッカートニーのヒット曲「アンクル・アルバート ~ ハルセイ提督」(1971年リリース)の揶揄ネタだったりもするので、鑑賞後に登場人物それぞれの“その後”を調べてみるのも面白いだろう。
ケレン味を犠牲にしてでも「戦争にNO」を貫いたエメリッヒの“本気”を感じる作品
第二次大戦はこれまで幾度となく映画化されてきただけに過去の名作を踏襲したようなシーンも多々あり、米軍と日本軍のシーンをはっきりパート分けして進行していく構成などは、リチャード・フライシャー監督が真珠湾攻撃を描いた『トラ・トラ・トラ!』(1970年)を彷彿とさせる。
また、ミッドウェイ海戦を撮影したドキュメンタリー『ミッドウェイ海戦』(1942年)で知られるジョン・フォード監督が同地を撮影に来ているシーンはコミカルに描かれていて、数少ないポップコーンタイムのひとつ。本作の前に『ミッドウェイ海戦』を予習しておけば……と思ったが、むしろ後で観たほうがその無謀なロケにドン引きできるはず。っていうか、ケガだけで済んだのが奇跡だよフォード監督!
さて。若干悪ノリ的に紹介してしまったが、当然ながらエンタメ要素などビタ一文ないのが実際の戦争であり、当然ながら兵器のトラブルや戦略ミスによって戦わずして命を落とす者もいるのが現実だ。「お国のために」云々なんていう言葉はお為ごかしでしかなく、エメリッヒ監督も冒頭の真珠湾攻撃のシーンから楔を打つかのように、戦争がもたらす悲劇的な結果や愚かさを強調する。本作を一級のエンタメ作品として楽んだうえで、無残に散っていった大勢の命があったことを心に刻まなければならないし、絶対に再び戦争をしない/起こさせないと決意を新たにする機会になればと思う。
『ミッドウェイ』
1941年の日本軍による奇襲とも言える真珠湾(パールハーバー)攻撃。戦争の早期終結を狙う山本五十六連合艦隊司令官の命により、アメリカ艦隊に攻撃を仕掛けたのだ。大打撃を受けたアメリカ海軍は、新たな指揮官に士気高揚に長けたニミッツ大将を立てた。両国の一歩も引かない攻防が始まる中、日本本土の爆撃に成功したアメリカ軍の脅威に焦る日本軍は、大戦力を投入した次なる戦いを計画する。一方、真珠湾の反省から、日本軍の暗号解読など情報戦に注力したアメリカ軍は、その目的地を“ミッドウェイ”と分析、限られた全戦力を集中した逆襲に勝負を賭ける。そして遂に、総力をあげた激突へのカウントダウンが始まる──。
制作年: | 2019 |
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監督: | |
出演: |
2020年9月11日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開