巨匠マーティン・スコセッシが描くマフィアの栄光と転落
『ゴッドファーザー』シリーズ(1972~1990年)や『スカーフェイス』(1983年)、『カジノ』(1995年)に『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』(1984年)……。ギャング/マフィアを描いた名作は数あれど、もっとも最高傑作に挙げる者が多い作品がマーティン・スコセッシ監督の『グッドフェローズ』(1990年)だろう。
1970年のニューヨーク、レイ・リオッタ演じる主人公ヘンリー・ヒル、ロバート・デ・ニーロ演じる兄貴分ジミー・コンウェイ、そしてジョー・ペシ演じる狂犬トミー・デヴィートが登場してわずか1分ほどで、車のトランクに詰め込んだ敵にナイフと銃で容赦なくトドメを刺す……という強烈なインパクトで幕を開ける本作。そして舞台は1955年までさかのぼり、まだ10代だったヘンリーが憧れのマフィア社会のイロハを学んでいくシーンが、ヘンリー自身のナレーションとともにテンポよく描かれる。
このシークエンスが実にクールで楽しそうで、イタリア式の厳格なマフィアの掟を守りながら、ちょっとした悪事を重ねつつ大人たちに認められていくヘンリーを観ていると、つい「自分もマフィアになりたいっス!」と手を挙げたくなってくるはず。最高にギラついていた時代のデ・ニーロ=ジミーに肩を組まれて「よくやったぞ」なんて褒められたら、ヘンリーでなくとも「一生この道で食ってくぞ!」と気合が入るはずだ。
恍惚と恐怖のジェットコースター! 堕ちていくマフィアの姿を圧倒的な緊張感で描く
時は少し戻って1963年。トミーと共に立派なマフィアに成長したヘンリーが、窃チャ感覚で巨大な貨物トラックを白昼堂々と盗み出す。そして見るからにマフィアな面々がズラリと揃った酒場のシーンでは、いまやこの手の映画のお約束となった“主観カメラで順番にメンツ紹介”を拝むことができる。そしてヘンリーの「マトモな稼業はアホ。つまらない仕事でケチな金をもらい、毎日地下鉄で通う奴らはクソくらえ」というナレーションには、やっぱりヤクザな仕事でガツッと儲けて一旗揚げたいよな~と、胸の奥に秘めたヘアアイロンがパンチパーマを巻き始めること請け合いだ。
ここでデカいヤマを持ってきた仲間とヘンリーが合流し、そこにジミーも参加。流れるように密談に入るこのシークエンスも最高にカッコよくて、50万ドル云々というセリフを現在の貨幣価値に置き換えるとかなりヤバい規模の仕事を即決しているということがわかって、思わずため息が出るのだった。しかし、そんな空気に水を差すのが狂犬トミー。ブチ切れたふりをして仲間を本気でビビらせ、ツケを払えと詰め寄る店主の頭をビンでカチ割る……多くの映画ファンが赤っぽい照明の薄暗い店が怖くなったのはこのシーンのトミーのせいだと思うが、実際このあたりで誰もが「あれ、やっぱマフィアって恐いな……」と気づいたことだろう。
いま観ても背筋ゾクゾク! スコセッシ御大、まだまだ映画を撮り続けてください!!
本作は同じくスコセッシ監督によるレジェンド俳優の超豪華マフィア映画『アイリッシュマン』(2019年)のように、裏世界で堕ちていった男の実話を基にしている(原作:ニコラス・ピレッジ著「ワイズガイ -わが憧れのマフィア人生-」[徳間書店])。2020年8月28日(金)公開のマルコ・ベロッキオ監督作『シチリアーノ 裏切りの美学』も組織を裏切って警察の情報提供者となった大物マフィアを描いた実録モノだが、あちらは本家シチリアの超秘密主義なマフィアの内部漏洩という大事件を描いていて、どちらかと言うと『ゴッドファーザー』シリーズのような“やくざ者の美意識”が軸にあった。しかし本作はイタリア系アメリカ人たちの“おっぴろげ”マフィアぶりが印象的で、よく言えば身を焦がす狂熱、悪く言えば何も残らない“虚無”である。
物語終盤、クリームの「サンシャイン・オブ・ユア・ラヴ」が流れる瞬間の、歌詞と相反するような“嫌な予感”の描き方などは、いま観ても背筋がゾクゾクするほどだ。1976年に『タクシードライバー』、1980年に『レイジング・ブル』、1990年に『グッドフェローズ』、2006年に『ディパーテッド』(異論は認めます)、そしてテン年代の最後に『アイリッシュマン』と、約10年ごとに傑作を生み出してきたスコセッシ監督。映画撮影もままならない2020年になってしまったが、まだまだ御大には映画を撮り続けていただきたい! と、この大傑作を観て改めて思うのだった。
『グッドフェローズ』はCS映画専門チャンネル ムービープラスにて2020年9月放送
『グッドフェローズ』
元ギャングのヘンリー・ヒルが振り返る、暴力と犯罪に明け暮れて大金を手にした栄光の時代。だが、バラ色の日々は色あせ始め、悪夢のような転落の瞬間が訪れる。
制作年: | 1990 |
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CS映画専門チャンネル ムービープラスにて2020年9月放送