ジャズには疎い? フラッと映画館に入っても問題なしの分かりやすさ!
音楽をちょっとでも聴く人ならば誰もが一度は耳にしたことがあるでしょう、ジャズトランペッター、マイルス・デイヴィスの個人史と音楽史に迫るドキュメンタリーが『マイルス・デイヴィス クールの誕生』です。残された肉声を軸に、65年にわたる波乱万丈な生涯と彼が生きた(主にアメリカの)社会を、当時のレアな映像、写真とともに描きます。
日本で音楽に触れているとあまり感じないかもしれませんが、車の形や性能が50年前と異なるのはもちろん現在進行形で変化しているように、音楽も時代を通じて常に変化し続けています。キャリアを通してその最先端に立ったマイルスは、枠に収まらず広く刺激を求め、革新的な作品をたくさん生み出しました。音楽の歴史を何度も変えたわけです。
本作は難しい音楽理論や専門的領域には一切触れずに、彼のそういった強いアティテュードと芸術的才能を感じさせる作りになっています。なので、かなり見やすいです。フラッと映画館に入っても問題なし。
脆くてロマンチックな男……ひとりの人間としてのマイルスが見えてくる
むしろ比重が置かれているのは彼のプライベート。家族や元妻、かつてのバンドメンバーやスタッフ、それからクインシー・ジョーンズ、ジュリエット・グレコなんていうレジェンドたちへのインタビューを通して、ロマンスや薬物中毒について、また彼が受けた人種差別についても語られます。
つらい話が多いけど、なぜかみんなマイルスのモノマネをするのがちょっと面白い。映画が進むにつれて見えてくる「ジャズの帝王」の表と裏。ひとりの人間としてのマイルスがだんだん見えてくる。脆くて、ロマンチックな男の姿――。
マイルスのひとつの作品や重要な一時代に焦点を絞ったドキュメント、もしくは専門的な音楽的探求を求める映画ではないです。なにしろ2時間で65年を振り返るのでちょっと早足ですが、上記してきた演出によって、マイルスの鳴らす音への感受性がびんびんに高まる映画でした。「プァー」っとドライに鳴るトランペットの音色がいつもとはちょっと違って、色気成分増しで聴こえるはずです。
文:夏目知幸
『マイルス・デイヴィス クールの誕生』は2020年9月4日(金)より全国順次ロードショー
『マイルス・デイヴィス クールの誕生』
“ジャズの帝王”と称されるマイルス・デイヴィス。幾度となくジャズの歴史に革命をもたらし、ロックやヒップホップにも影響を及ぼしたトランペット奏者。その素顔に迫るドキュメンタリー。
制作年: | 2019 |
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監督: | |
出演: |
2020年9月4日(金)より全国順次ロードショー