決して分かりやすい男前ではないものの、その確かな演技力とナチュラルなドヤ顔、そして独特な憂いをたたえた表情で、いまやハリウッドを代表するスター俳優の一人となったジェレミー・レナー。特に好きじゃないという人はいるかもしれないが、彼のことが大嫌いという人もいないだろう。クソ真面目なタイプではなく、ナンパなおふざけキャラでもない。しかし、その自信に満ちあふれた表情はどんなジャンルの映画でもどっしりとした存在感を放ち、アメコミ好きからサスペンス~アクション好きまで幅広い層のファンを虜にしている。
https://www.instagram.com/p/B3TV0p2Dt9o/
そんなレナーは弓使いのヒーロー“ホークアイ”というハマり役に出会い、近年は『アベンジャーズ』シリーズ(2012年~)を中心に大活躍中! なのは御存知の通り。ということで今回は、力強く寡黙な正義のアメコミ・ヒーローとは一味違う、意外性のあるキャラクターを演じたレナー出演作を3本ご紹介したい。確かなキャリアを実感させる快(&珍)作での全力演技に、眉間にしわ寄せたストイックなイメージが一変すること請け合いだ。
https://www.instagram.com/p/BwuYsqcjjm3/
撮影中に両腕骨折!? 驚きの実話を基にした痛快アクション・コメディ『TAG タグ』
いい歳した大人たちが、仕事もプライベートも犠牲にして全力で鬼ごっこする……という、うらやましいやら関わりたくないやらな設定のコメディが『TAG タグ』(2018年)だ。
『ハングオーバー!』シリーズ(2009~2013年)の歯抜けメガネことエド・ヘルムズや、『ベイビー・ドライバー』(2017年)のセクシー強盗犯ことジョン・ハムと共演した本作は、にわかには信じられないが実話をモチーフにしているという。そんなコメディ映画でレナーが演じるのは、30年にわたる鬼ごっこキャリア中ただの一度も鬼になったことがないという最強のメンバー、ジェリーだ。
医者や大企業の経営者など確固たる社会的地位を築いたおっさんたちが、毎年5月に仲間内で全力で鬼ごっこに参加してきた……というあらすじの本作。しかし、これまで無敗のジェリーが結婚して鬼ごっこを引退するということで、最後に引導を渡してやる! と発奮したメンバーたちが、時と場所を選ばずドタバタを巻き起こし……という展開だ。なんともバカバカしいお話なのだが、レナーの不遜なキャラがジェリー役にドはまりで、これまでシリアスなアクション映画などで演じてきたまんまのメタなキャラ作りで笑いを誘う。
しかもレナーは本作の撮影序盤に骨折し、ほとんどのシーンで両腕をCG処理することになったというから呆れ……驚かされる。しかしそんなエピソードからも、普段はどんなにクールぶっていても仲間と全力でバカをやれる大人は信用できる! ということを実感させてくれるレナーはさすが。大人になると、どうしても若い頃の仲間と疎遠になったりするものだが、本作の意外なオチからの胸アツ展開は、遊び心を忘れてしまった大人たちに全力でオススメしたいエモさである。
https://www.instagram.com/p/BVqEMLVhpE-/
あの童話を時代考証ガン無視でバイオレンス・アクション化した『ヘンゼル&グレーテル』
『ヘンゼル&グレーテル』(2013年)はそのタイトル通り、「ヘンゼルとグレーテル」の“その後”を描いたバイオレンス・ファンタジー・アクション。しかし、あの有名な子ども向け童話をどうやってアクション映画に仕立てたのか? 超ざっくり例えると、ウェズリー・スナイプスの『ブレイド』シリーズ(1998年~)やヴィン・ディーゼルの『ラスト・ウィッチ・ハンター』(2015年)の世界観を中世まで巻き戻して、時代考証ガン無視のプロップ満載で強引にエンタメ化した、みたいなことである。
だいぶ前に「本当は恐ろしいグリム童話」なんて本も話題になったが、実際「ヘンゼルとグレーテル」も初版はかなり内容が異なり、いわゆる“意味がわかると恐い”系のお話。ただし、本作がそっち側を踏襲しているというわけでもなく、幼い兄妹が魔女退治の快感に目覚め、やがて立派な魔女ハンターに成長し恐ろしい魔女たちをバッタバッタと殺しまくる! という、原作のキャッチーな設定だけ拝借して超自由に作ったゴシック・バイオレンスなのだ。
そんな本作でレナーが演じるのは、もちろん兄のヘンゼル。妹グレーテル(ジェマ・アータートン)と共に漆黒のレザースーツに身を包み、クロスボウからショットガンまで持ち出して凶悪な魔女たちを躊躇なくブッ殺していく。ヒュー・ジャックマン主演『ヴァン・ヘルシング』(2004年)のゴシック要素を薄めて“汚し”を追加したようなビジュアルが秀逸で、そこにケレン味あふれる兄妹のスタイリッシュなアクションをぶつけることで唯一無二のブッ飛び映画に仕上がっている。
大飢饉に見舞われていた時代だけに、人々のストレスの捌け口として罪のない女性が魔女狩りの犠牲になった歴史の悲劇も(ほんの少し)盛り込まれていて、兄妹の存在をより頼もしく印象づける。いまやMCUで大活躍しているレナーだけに、このテのキャラだとどうしてもホークアイに見えてしまうのだが、ジーン・グレイことファムケ・ヤンセンも出演していることだし、むしろアメコミ映画として観たほうが楽しめるだろう。魔女たちはこれでもかと醜く描かれ、殺戮シーンはポップにグロく、失笑を誘うギャグも満載という、まさにジャンル映画のお手本のような作品である。
アンニュイな表情でシリアルキラーを演じるレナーが怖すぎる『ジェフリー・ダーマー』
寡黙に正義を貫くヒーローや仁義を重んじるアウトロー、犯罪から抜け出せない貧乏白人などの役がハマるレナーだが、駆け出し時代にはサイコキラーを演じていたりする。アメリカ犯罪史にその名を刻む、凶悪な連続殺人鬼の半生を描いた『ジェフリー・ダーマー』(2002年)がそれだ。まだ若くシュッと線の細いレナーはいま見るとかなり新鮮ではあるものの、ダーマー本人と似ているわけではない(というか顔はレナーのほうが恐い)。しかし言葉巧みにターゲットを自宅に招き、薬物で酩酊させてから服を脱がせ(&自分も脱ぎ)、徐々に距離を縮めて犯行に及ぶ手口は事実に基づいていて、冒頭から大変イヤ~な気持ちになる。
70~90年代にかけて十数人の若い男性を殺害・屍姦し、その肉の一部を食べたという“ミルウォーキーの食人鬼”ことダーマー。その常軌を逸した残虐行為とは裏腹にイケメンで聡明なダーマーだが、十代の頃から人を殺めてきた生粋の殺人鬼だ。本作では現在の犯行と並行してフラッシュバック的に過去の犯行を描くことで、その非常に不安定な精神と、異常性欲や殺人衝動に抗えない人物であることを強調。犯行の描写は控えめなので安心だが、洗練とは程遠い手口そのものが生々しく、自然と嫌悪感を誘うように撮られている。
ダーマーの異常性を強調するためか事実をシンプルに改変している部分はあるものの、意志の強さと常に腹に一物を抱えていそうな怪しさを併せ持つレナーの雰囲気がダーマーのキャラクター像に妙にハマっていて、徐々に本当の殺人鬼に見えてくるからスゴい。劇中、殺意が芽生えた瞬間を演じるレナーがダーマーそっくりになるショットがあり、心底ゾッとさせられるのだった……。
https://www.instagram.com/p/B8Pm4MwDwJg/
『TAG タグ』はCS専門映画チャンネル ムービプラスで2020年9月放送
『ヘンゼル&グレーテル』『ジェフリー・ダーマー』はAmazon Prime Videoほか配信中