ボンドガールといえば、セクシーでグラマラスな女性の代名詞と言える。なにせ黙っていても女性が寄ってくるようなジェームズ・ボンドを、虜にするほどなのだ。官能的で謎めいた魅力に満ち、やたら挑発的。だが、そんなボンドガールのイメージも時代とともに変化しつつある。初期のボンドガールに比べ最近のキャラクターは、ずいぶんと物語における重要度を増している。もはやお飾り的な役割だけでは観客は満足せず、いわば悪役と同じぐらい重要な存在になっていると言えるだろう。今回は、そんなボンドガールの変遷を振り返ってみた。
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ハニー・ライダーにプッシー・ガロア……セクシーでやり手な初期ボンドガール
まずはシリーズ1作目の『007/ドクター・ノオ』(1962年)で、後の雛形となった初代ボンドガール、ハニー・ライダー(ウルスラ・アンドレス)。アマゾンの女性戦士のごとく、海から上がってきてボンドを悩殺したり、川にずぶずぶ浸かるなど、やたら(文字通りの意味で)“濡れ場”が多い。スイス人の彼女は当初英語が苦手で、別の女優が吹き替えを担当したという、まさにヴィジュアルで選ばれただけに、その強烈なインパクトがボンドガールのイメージを決定付けた。
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もうひとりのブルネットなボンドガール、シルヴィア・トレンチ(ユーニス・ゲイソン)の怪しい魅力も捨て難いが、本作の勝負はやはりアンドレスに軍配があがる。
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ショーン・コネリー時代の初期ボンドガールは、『007/ロシアより愛をこめて』(1963年)のタチアナ・ロマノヴァ(ダニエラ・ビアンキ)や、『007/ゴールドフィンガー』(1964年)のプッシー・ガロア(オナー・ブラックマン)など、セクシーでやり手といったイメージが強い。とくにソビエトの情報員に扮したビアンキは、アンドレスの色気路線に加えて利発さと知性を発揮し、ボンドガールの地位を若干軌道修正した。
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一方、若林映子と浜美枝がボンドガールに扮した『007は二度死ぬ』(1967年)は、彼女たち自身は魅力的ながら、いかんせん映画そのものが外国人によるオリエンタル趣味全開(丹波哲郎が「この国では男性は何もしないのですよ」とボンドに説き、女性数人がボンドの身体を洗う!)。いまだったらさすがにハリウッドでもこんな映画は作れないと思うが、これも時代性というものだろう。
ソリテア、メアリー、アニヤ……ボンド像に合わせてソフト路線になったムーア版ボンドガール
2代目ボンド、ジョージ・レーゼンビーの『女王陛下の007』(1969年)で、ボンドが心底惚れて結婚する、という意味でボンドガールの地位を向上させた(?)のがテレサ(ダイアナ・リグ)。とはいえファンには、「ボンドを結婚させるなんて」と不評を買った。ボンドにはやはり、クールなエージェントでいて欲しいというのがファンの本音なのだろう。
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3代目ボンド、ロジャー・ムーアの時代は、ムーア版のソフトでジェントルマンなボンド像とともに、ボンドガールもソフト路線だった。『007/死ぬのは奴らだ』(1973年)で、当時22歳だったソリテア(ジェーン・シーモア)は官能的というよりは初々しいし、『007/黄金銃を持つ男』(1974年)のメアリー・グッドナイト(ブリット・エクランド)や『007/私を愛したスパイ』(1977年)のアニヤ・アマソヴァ(バーバラ・バック)も、ともにモデル出身で美しいものの、個性という面ではいささか弱い。
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唯一、『007/ユア・アイズ・オンリー』(1981年)のメリナ(キャロル・ブーケ)だけは知的なクールビューティで、異色のボンドガールだったと言える。
キャストそれぞれの個性が活きる! シリーズに革新をもたらしたブロスナン版ボンドガール
だが、具体的にボンドガールのイメージが変わったのは90年代に入った5代目、ピアース・ブロスナンのボンドからだろう。とくに『007/トゥモロー・ネバー・ダイ』(1997年)に抜擢されたミシェル・ヨー演じるウェイ・リンは、ボンドとともに戦う「強いボンドガール」のイメージを決定付けた。ふたりがバイクで逃走するシーンは最高にクールだ。
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ソフィー・マルソー扮する『007/ワールド・イズ・ノット・イナフ』(1999年)のボンドガール、エレクトラは、そのコケティッシュな魅力でボンドを出し抜くしたたかさを持った、これまた芯の強い女。「わたしを殺せないでしょう」と、最後まで怯まない悪女ぶりもあっぱれ。
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さらに話題を呼んだのが、ブロスナン最後のボンド作品となった『007/ダイ・アナザー・デイ』(2002年)で、アフリカ系アメリカ人として初めてボンドガールになったハル・ベリー演じるジンクスだ。米国家安全保障局のエージェントに扮し、溌剌とした色気とパワフルな魅力で、それまでのボンドガールのイメージを一新した。彼女が海から浮かび上がるシーンは初代のアンドレスへのオマージュと言われているが、映画のなかでの位置付けはぐっと重みを増している。
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スマートでダンディなブロスナン版ボンド映画の功績は、時代に見合った強い女たちをフィーチャーし、物語にうまく生かしたといっていいかもしれない。
ちなみにブロスナン時代は、主題歌もすべて女性シンガーということにお気づきだろうか。『007/ゴールデン・アイ』(1995年)のティナー・ターナー、『トゥモロー・ネバー・ダイ』のシェリル・クロウ、『ワールド・イズ・ノット・イナフ』のガービッジ、そして『ダイ・アナザー・デイ』のマドンナ。この面子もまた、個性の強いパワフルな女性たちばかり。実のところ、これはプロデューサーが初代アルバート・R・ブロッコリから娘のバーバラへと本格的にバトンタッチされた時期と重なっている。つまり、バーバラ・ブロッコリの時代的な嗅覚が大きく影響しているとも言えるのだ。
次回はそんな観点から、ダニエル・クレイグ版ボンドについて取り上げたいと思う。
文:佐藤久理子
『007』シリーズはCS映画専門チャンネル ムービープラスで2020年9月ほか放送