ホラー映画の枠を超えて人気キャラクターとなった貞子
実は『リング』『らせん』(共に1998年)を今まで観たことがなかった。僕が物心ついた時にはとっくに貞子はキャラクター化されていて、公開当時はあったのであろう禍々しさは今観る彼女からは消えていた。人一倍怖がりだけれど、怖いものが大好きなので、夜更かしして怖い噂や動画をずっと漁っている僕には、キティちゃんとコラボするようになった貞子のことを怖がれないだろうとも思っていた。
靄がかかったフィルム映像は、まるで『ネバーエンディング・ストーリー』(1984年)のように幻想的だ。そこに、主人公である研究者・高山竜司(真田広之)の低い声が響いて心地がいい。もう一人の主人公・浅川玲子(松嶋菜々子)と2人で呪いのビデオを観るシーンなんて、ブラウン管テレビの光が2人の顔を照らしていて本当に綺麗だ。
観終わってみて、やっぱり貞子はあんまり怖くないのだけれど、そもそもこの映画は貞子を怖がる映画じゃないのだと気がついた。ラストシーンが一番ホラーで、そこに貞子は映っていない。海岸沿いの幹線道路を飛ばす車が映っている。そして、そのシーンは『らせん』に続く。
普遍的な地獄を描いていた? 冷ややかな今の目線で観る『リング』シリーズ
コロナを罹った友達がSNSで謝っている。遊んでいたからだろう、と責める人がいる。2020年は大変だ。遊んでいたら怒られる。去年なんか、ずっと陽気に過ごしていたな。去年の僕がタイムスリップしてきて街を歩いたら、まるで怪物を見るような視線に晒されるだろう。彼は“新しい生活様式”を知らないだろうから。
大先輩で、ベテランのおじさん俳優から「俺が原因で色んな現場が飛んだらどうしようと思って震えています」と連絡がくる。「誰も怒らないですよ」と返そうとして指が止まる。「当分は飲みに行けないですね」と返信する。今はもう、誰の機嫌をいつ損ねるかもわからない。やり切れないことが続いていく現実のほうがよっぽどホラーなことを思い知って、怪談話でヒヤヒヤするよりも、もっと冷ややかな今の目線で観る『リング』シリーズは“呪いのビデオ”でこそないが、まるで予言の書のようで恐ろしい。いや、予言というか、すごく普遍的な地獄を描いていたのだ。
そういえば両親は原作者・鈴木光司さんのファンで、実家の本棚には「リング」シリーズのハードカバーが並んでいた。僕は中身を読んだことはないが、表紙が凄かったのをよく覚えている。一昔前のコンピューターグラフィックでコラージュされた人体石像と壁画、大河、目玉。地獄みたいな絵だけれど、そこには人が造形してきたアイコンが沢山写っている。
文:松㟢翔平
『リング』『らせん』はAmazon Prime Videoほか配信中