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【フランス ヴァカンス編】名作3選!ヒッチコックからジャック・ドゥミまでシルブプレ!

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ライター:#佐藤久理子
【フランス ヴァカンス編】名作3選!ヒッチコックからジャック・ドゥミまでシルブプレ!
『海辺のポーリーヌ』©Les Films du Losange/©INA

フランス人にとって夏はヴァカンスを意味する。ヴァカンスに行かない(行けない)なんて、まるで空気の注入できないタイヤのようなもので、彼らは秋に歩を進めることができないのだ。今年は新型コロナウイルスの影響でヴァカンス熱も冷めるかと思いきや、「いつもより短め」「海外より国内」といった声は聞こえるものの、やはり多くの人が旅立っている。

フランス・ノルマンディ地方の行楽地「グランヴィル」

とはいえ、行きたい場所に簡単に行けるわけではないこのご時世。ここではせめてその雰囲気を堪能できるような、避暑地が登場する映画をご紹介したい。

ご存知コート・ダジュールのゴージャスぶりを味わえる! 巨匠ヒッチコックの『泥棒成金』

まずはフランスが世界に誇る地中海沿岸のコート・ダジュールから。ただし、ひと口に紺碧海岸(コート・ダジュール)といっても、人気があるのはニース~カンヌ~サントロペ沿岸だ。このあたりは高級ホテルやラグジュアリー・ブランドのブティック、カジノなどが並び、いかにもフランスらしいシックな(あるいはスノッブとも言えるが)テイストに溢れているので、世界中からリッチな観光客が集まる。

『泥棒成金』
デジタル・リマスター版Blu-ray
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
価格:1,886円+税

そんなゴージャスな雰囲気を存分に味わえるのは、巨匠アルフレッド・ヒッチコックがケイリー・グラントとグレイス・ケリー主演で遊び心たっぷりに描いたロマンティック・スリラー『泥棒成金』(1955年)だ。

かつて名うての宝石泥棒だったジョンは、いまは引退し悠々自適な暮らしをしていたが、彼を装った泥棒が現れ、汚名をはらすために自ら真相追求に乗り出す。南仏入りしたジョンが最初に富豪の令嬢フランシスを見かけるのが、カンヌのインターコンチネンタル・カールトン(当時はカールトン)のビーチ。

https://www.instagram.com/p/CCgksIcpBiX/

クロワゼット通りに面したここは、カンヌ映画祭期間にハリウッド・スターたちが好んで泊まるホテルであり、現在はグレイス・ケリーの名を冠したスイート・ルームもある。

https://www.instagram.com/p/BzK92QdgZlL/

何やら事情通っぽいフランシスはジョンに積極的で、彼女の方からアタックをかける。だがそんなとき、彼女の母の宝石が盗まれてしまう。追っ手に追われ、フランシスが猛スピードで運転する断崖のドライブコースや、ふたりが丘から見渡す地中海のショットなどは、明らかに合成とわかっても魅力的だ。彼らが一夜を共にする(?)と思わせるホテルの一室のシーンは、窓から花火まで見せるサービスぶり。なんといっても、ゴージャスな宝石や衣装をふんだんに披露するグレイス・ケリーがまばゆく、『ダイヤルMを廻せ!』『裏窓』(ともに1954年)に続いて彼女を器用したヒッチコックの愛がひしひしと感じられる。これはサスペンスの巨匠としてのヒッチコック映画というより、ケリーと南仏の美しさを堪能する作品なのだ。

クロード・ルルーシュ監督『男と女』の撮影地! パリにほど近い洗練された避暑地ドーヴィル

夏のヴァカンス地といえば、ノルマンディのドーヴィルも有名である。カジノやタラソテラピーがあり、ココ・シャネルが初めてブティックを開き成功させたことでも知られる洗練された避暑地。キャビンが立ち並ぶ、長く、美しい砂浜が印象的だ。パリから車で2時間強という立地ゆえ、夏はパリジャンたちで賑わうが、クロード・ルルーシュ監督がオフシーズンを利用して撮りあげたのが、『男と女』(1966年)。「シャバダバダ~」のフレーズで有名な、ピエール・バルーとフランシス・レイの音楽とともに、恋愛映画の金字塔である。

レーサーのジャン・ルイ(ジャン=ルイ・トランティニャン)と、映画のスクリプターであるアンヌ(アヌーク・エーメ)は、ドーヴィルの同じ寄宿学校に子供を預けていた縁で出会う。アンヌがパリに戻る終電車を逃し、ジャン・ルイの車に同乗したことがきっかけで、ふたりは惹かれ合うように。ともに伴侶を亡くしていたふたりは、一気に距離を縮めていく。

人気のない、寂しい海岸の風景と半比例するかのように情熱的なふたり。塩風に吹かれ、乱れた髪をかきあげるアンヌの艶っぽい横顔に洒脱な音楽が被さり、甘くせつないノスタルジーを加味する。こんなロマンティックな恋愛映画を観せられたら、誰だって一度はこの場所を訪れてみたいと思うのではないだろうか。

『男と女 人生最良の日々』© 2019 Les Films 13 – Davis Films – France 2 Cinéma

ふたりが一夜を過ごすのは、ドーヴィル随一のホテルと言われるホテル・バリエール・ル・ノルマンディの26号室。

https://www.instagram.com/p/B42nsLNq7nj/

本作から53年後の『男と女 人生最良の日々』(2019年)では、いまや記憶を失いつつあるジャン・ルイを、アンヌが再びここに案内するエピソードがある。このホテルでも、本作にオマージュを捧げたスイートルームが作られている。

港町の雰囲気を生かしたカラフルなミュージカル『ロシュフォールの恋人たち』

南仏やノルマンディの他に、フランス人に人気のある大西洋沿岸も忘れられない。とくに政界人やセレブたちの別荘がならぶレ島と港町のラ・ロシェル周辺は、あか抜けて華やか。

大西洋に面した人気の港町「ラ・ロシェル」

そんな雰囲気を味わいたいなら、近郊のロシュフォールを舞台にしたジャック・ドゥミのカラフルなミュージカル、『ロシュフォールの恋人たち』(1966年)がオススメだ。カトリーヌ・ドヌーヴとフランソワーズ・ドルレアックの姉妹と、最近他界した名優ミシェル・ピッコリ、さらにアメリカからジーン・ケリー、『ウエスト・サイド物語』(1961年)で一世を風靡したジョージ・チャキリスを迎えた夢のようなオールスター・キャスト。ミシェル・ルグランの軽やかな音楽に乗って、恋とアヴァンチュールが語られる。

ドゥミ映画といえば、『ラ・ラ・ランド』(2016年)のデイミアン・チャゼル監督も大ファンと公言しているが、『ロシュフォール~』の幕開けを観直すと、『ラ・ラ・ランド』の冒頭に大いなる影響を与えているのがよくわかる。

夏祭りのイベントのために街に到着するキャラバン隊と出会い、彼らと一緒に踊る姉妹たち。お揃いの衣装で歌って踊るドヌーヴとドルレアックが艶やかな魅力を振りまき、どこか心が浮つく夏のムードが画面を満たす。ドゥミ監督とルグランの粋なフレンチ・タッチのミュージカルを、ぜひ心ゆくまで楽しんで欲しい。

ヴァカンス映画のマスター、エリック・ロメールの『海辺のポーリーヌ』

さて、最後になったが、個人的にわたしがヴァカンス映画のマスターと目しているのはエリック・ロメールだ(もちろん恋愛映画のマスターでもあるが)。この監督も避暑地を舞台にした作品が多い。

海水浴の行楽地でもある「グランヴィル」

そのなかでもオススメは、『クレールの膝』(1970年)『海辺のポーリーヌ』(1983年)『夏物語』(1996年)『緑の光線』(1985年)あたりだろうか。

『海辺のポーリーヌ』©Les Films du Losange/©INA

とくに15歳の純粋な少女ポーリーヌ(アマンダ・ラングレ)が、大人の恋愛関係を目にして洗礼を受ける『海辺のポーリーヌ』は、フランス的ヴァカンスの過ごし方がよくわかる。

ちなみに舞台となったジュルヴィルの隣町、グランヴィルには、クリスチャン・ディオールの生家を改装した美術館がある。この辺りはドーヴィルに比べ小規模で庶民的だが、ノルマンディらしい景勝が味わえる穴場エリアとして人気だ。

https://www.instagram.com/p/B2l_N6xohGJ/

文:佐藤久理子

『ロシュフォールの恋人たち』はAmazon Prime Videoほかレンタル配信中

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