いきあたりばったりで無責任な“要請”と、毎日満員電車に乗って通勤せざるを得ないという矛盾した状況に、やり場のないストレスを抱えている人も少なくないだろう。そんな激動の2020年、溜まりに溜まった鬱憤をバカバカしい笑いで少しだけ解消してくれるかもしれない映画、その名も『ジェクシー! スマホを変えただけなのに』が日本に上陸した。某邦画に便乗した邦題からしておバカ丸出しだが、文句なしにスカッと爆笑できて最後には優しく背中を押してくれる快作コメディである。
『ハングオーバー!』脚本家コンビが放つ(ド下ネタ)爆笑コメディ!
『ジェクシー! スマホを変えただけなのに』の監督を務めたのは、ゼロ年代における最大ヒット・コメディ映画のひとつ『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』(2009年)の脚本家コンビ、ジョン・ルーカスとスコット・ムーア。基本のバカ設定に予想外のバカ展開をぶつけることでお話をブン回していく、強引ながら理にかなったスタイルは本作にも踏襲されている。彼らが手がけた『ハングオーバー!』や『バッド・ママ』(2016年)はもちろん、下ネタ満載のコメディが好きならば絶対にチェックするべき作品だ。
主人公は、安っぽいリスティクル(いわゆるバズりネタ記事)を日々シコシコと書いている冴えないライターのフィル。暇さえあればスマホをいじっている、友達も恋人もいない非モテ青年だ。演じるアダム・ディヴァインは日本での知名度は高くないが、『ピッチ・パーフェクト』シリーズ(2012年~)や『マイ・インターン』(2015年)で印象的なキャラクターを演じていたので見覚えのある人もいるだろう。マーク・ウォールバーグもしくはマット・デイモンを100発殴ったような唯一無二の存在感で、いまやコメディ映画に欠かせない存在となっている。
そんなディヴァイン演じるフィルのスマホがある日、無残に破壊されてしまったことから新たな相棒となったのが、生活改善を促すコーチング機能“ジェクシー”を搭載したハイテク・スマホ。しかしこのジェクシー、SiriとかAlexaみたいな無機質な声で、フィルを腐れオタク呼ばわりするわ、出前のメニューは勝手に決めるわ、変なポルノ動画を勝手に再生するわ、さらに◯◯◯のサイズを笑ったりするという、控えめに言ってもサイテーな性格だったものだから困りもの。しかも、フィルに念願の彼女ができた途端に謎の嫉妬に燃えて暴走し、彼の生活はメチャクチャになっていくのだった……。
やっぱりコメディ向き!? 人気俳優マイケル・ペーニャのバカ演技に爆笑
フィルが恋するケイトを演じるのは『X-MEN』シリーズのストーム役(2016~2019年)でお馴染み、アレクサンドラ・シップだ。ワイルドかつ慈愛にあふれたケイトがフィルみたいなオタクを好きになるなんて無理ありすぎだし、ご都合的な展開もケイトの天使ぶりあってこそだが、週末は家にこもって寝落ちするまでVOD三昧みたいな生活をしていたフィルが本気を出すきっかけとして、ケイトは十分すぎるほど魅力的である。
https://www.instagram.com/p/B3aFYzeBi_c/
ケイトの電話番号をゲットしただけで自信がついて万事好調、人生バラ色! みたいな先走り展開から、ジェクシーの狂気が暴走して人生をメチャクチャにされるまでのスピード感は飽きるヒマなし。さらに間違いなく爆笑させてくれるのは、エキセントリックなフィルの上司カイを演じるマイケル・ペーニャだ。いまやシリアスなヒューマンドラマからアメコミ映画まで引っ張りだこな演技派俳優のペーニャが、ひさしぶりに見せる全力のバカ演技は(エンドクレジットまで)必見。口が悪すぎるスマホ屋の店員を演じるワンダ・サイクスもナイスキャスティングだ。
他にも、なぜかラッパーのキッド・カディが本人役で出できたり、天丼的にしつこく『デイズ・オブ・サンダー』(1990年)ネタを入れてきたり、唐突な“スモーキー・ベア”ネタが飛び出したりと、しょうもない小ネタを散りばめるルーカス&ムーアのセンスは健在。立場逆転&バカ版の『her/世界でひとつの彼女』(2013年)とでも例えたくなる設定だが、スマホ中毒なフィルのキャラ設定を描く過程で現代社会の盲目的なネット依存を揶揄しつつ、最後には『her』のオチまでサクッとイジってみせる。
ハイテンションでおバカなコメディだけど、最後には優しく背中を押してくれる
念願の初デートでの大失敗など、共感性羞恥をガツガツ刺激してくるのはこのテのロマコメの定番。軽率な行動で転機をぶち壊していくフィルのボンクラっぷりには目を覆いたくなるだろう。ただし、自虐的だが世の中を逆恨みするような根暗ではないのがフィルの良いところで、そのあたりにもディヴァインの個性が活かされている。
https://www.instagram.com/p/B3XZ4qzAYjZ/
スタンダップでのディヴァインはトーク+おもしろムーブで笑いを取るタイプなので好みが分かれるところもあると思うが、映画ではそれが100%良い方向に活かされていて小気味いい。ケイトにキモ電をかけ(勝手にジェクシーにかけられ)るも、ぞんざいにあしらわれてしまい落ち込む姿などは、ディヴァインが得意とする思春期ネタまんま。そこそこ健康な青春時代を送った人ならば誰もが経験しているであろう“思わず部屋でジタバタ”は、特に男子であれば感情移入待ったなしだ。
音声アシスタントはもちろん、カーナビアプリなどを使用していて「なんでこんなクソ狭い道に誘導するんだよ!」と憤った経験は誰しもあるはず。まさに本作のアイデアもその不条理で頑なな態度のアプリから派生したものだそうで、スマホを使っていて頭に「???」が浮かんだことがある人ならば誰もが共感できるはずだ。スマホ画面からスクリーンに顔を向けるよう促すことができる……かどうかは分からないが、恋でも仕事でも人間関係でも、ビビると思わず心をシャットダウンしてしまう弱気な人々を応援してくれる(ド下ネタ)爆笑コメディ映画である。
なお、日本語吹替版にはジェクシー役の花澤香菜を筆頭に、杉田智和、竹達彩奈、関智一、小野大輔、朴璐美、木村昴など超豪華声優陣が(なぜか)集結しているので、こちらも要注目だ。
『ジェクシー! スマホを変えただけなのに』は2020年8月14日(金)より公開
『ジェクシー! スマホを変えただけなのに』
全ての個人情報を把握する“彼女”(ジェクシー)のコーチングで人生が変わったフィルだったが、念願の恋人が出来た時、ジェクシーに異変が……!「フィルは私の男!」恋に落ちちゃったジェクシーの暴走が始まり、上司への暴言メール送信、銀行口座から預金の流出、秘密の写真を一斉送信! 嫉妬に狂ったジェクシーに壊されていくフィルの人生は一体どうなる!?
制作年: | 2019 |
---|---|
監督: | |
出演: | |
声の出演: | |
吹替: |
2020年8月14日(金)より公開